表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
17/17

16. ライフ・ヒールを習得した少年と、老魔導師の静かな朝

数年後。

治療塔の朝はいつも静かだった。

窓から差し込む陽光が、本で埋まった机の上を照らし、Q はお茶を淹れている。

その横で、雪誠は分厚い魔法書をめくっていた。


Q はため息をつき、湯気の立つ茶を雪誠の前に置いた。


「お前な……十歳の子供は外で遊ぶもんだぞ。毎日魔法の研究なんてするもんじゃない。」


雪誠は顔を上げず、淡々と返す。


「僕はもう十六歳です。」


Q は目をひっくり返した。


「そこが問題じゃない。」


雪誠は本を閉じ、Q を見る。


「あなたのお茶、苦すぎます。」


Q は杖で彼の頭を軽く叩いた。


「このガキ、苦いって文句言うくせに、毎日ちゃんと飲んでるじゃないか。」


雪誠の口元がわずかに上がる。

それは彼が滅多に見せない表情だった。


この一年で、二人の関係は師弟というより――

まるで祖父と孫のようになっていた。


Q は叱り、心配し、食事を用意する。

雪誠は部屋を片付け、肩を揉み、Q が眠ったらそっと毛布をかける。


言葉にはしないが、互いに分かっていた。


Q は古びた魔法書を机に置いた。


「雪誠。」


雪誠が顔を上げる。

Q の表情はいつになく真剣だった。


「お前はもう準備ができている。」


雪誠の瞳がわずかに揺れる。


Q は本を開き、一つのページを指した。


「生命治療術――《ライフ・ヒール》。

お前なら、反動にも耐えられる。」


雪誠は立ち上がり、深く息を吸った。


「試したい。」


Q は頷く。


「では始めよう。」


雪誠は魔法陣の中心に立ち、Q は横で生命力測定の水晶を握る。

雪誠は目を閉じ、両手を合わせた。


魔力が集まり始める――

それは治癒魔法の柔らかな光ではなく、生命そのものの波動。


Q の目がわずかに見開かれる。


(この子の生命力……常人の比じゃない。)


雪誠は低く呟いた。


「……ライフ・ヒール。」


光が爆ぜた。

眩しさではなく、春の陽だまりのような温かさ。


魔力が体内を巡り、同時に生命力を削っていく。


Q は水晶を凝視しながら叫ぶ。


「雪誠! 無理だと思ったらすぐ止め――」


だが雪誠は止まらない。

歯を食いしばり、汗を流しながらも、魔力を完璧に制御していた。


光は三十秒続いた。


そして――収束。


雪誠は荒い息をしながらも、倒れなかった。


Q は呆然とした。


「お前……初めてで成功したのか……?」


雪誠は汗を拭いながら答える。


「はい。」


Q の手が震えた。


「お前って子は……どこまで怪物なんだ……」


雪誠は静かに言った。


「僕はただ……彼女を死なせたくないだけです。」


Q はその言葉に胸を締めつけられるような感情を覚えた。

誇らしさ、切なさ、そして――この子の未来への深い期待。


その夜。

Q は灯りの下で眠る雪誠を見つめながら、そっと呟いた。


「雪誠……お前は怪物なんかじゃない。

お前は……この世界で一番優しい治療師だよ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ