Ⅲ すべては彼女に返る(3)
外へ出ると、裏庭の地面が陥没して、歪んでいる。
もう少しで落盤に飲み込まれるところであった。
「ギリギリだったな」
ネージュが声を漏らすと、フォーゲルの脇に掴まれているフレーテが、恐怖でわっと泣き出した。
ヘルツはぐっと涙を堪えて、妹へ向き直った。
泣きじゃくる彼女の頭を優しく撫でる。
「うう……おにいざまぁ!」
フレーテが泣きながら声を上げると、ヘルツは、その涙でぐちゃぐちゃの顔を見て笑った。
いや、その場にいた全員が、それを聞いて笑い声を上げる。
その内、騒ぎを聞きつけた城の兵たちがわらわらと居館から現れた。
ザイデルが状況を指揮しようと踏み出すと、「怖がっだぁ」とフレーテがまた叫んだので、焦った兵士たちが群がって来る。
泣きじゃくる皇女を奪還するべく、兵士たちが一斉にフォーゲルに剣を向けるとミルヒが叫ぶ。
「ち、ちょっと待て! オレらは怪しいもんじゃない」
ザイデルが慌てて兵士を止めに入る。
フォーゲルはというと何食わぬ顔でフレーテを手放すと、ザイデルに向かって歯を見せて笑った。
それを見たザイデルが感極まり、膝を付いて男泣きを始める。
司令塔を失った状況に、兵士たちはただ困惑するばかりだ。
「あれっ。そういえば、リヒトは?」
その陰でグラースが思い出したように手を打った。
†
――騒動が収まって、早くも半年が過ぎた。
居館の入口前でヘルツはだんだんと涼しさを増してきた空気を大きく吸い込んだ。
「御兄様、もう行ってしまうの?」
憂いを帯びた表情のフレーテが、ヘルツの腕を掴む。
「うん、クロイツから手紙の返事が来たんだ。ルクライヤの外れまでは迎えにくるって」
ヘルツは今回一人で帰省することにした。これから立派な男になるための、挑戦である。
「やだぁ」
すっかりこの何ヶ月かでヘルツに懐いたフレーテがふてくされたように呟いた。
その表情はすっかり子供のそれを取り戻している。
フレーテの母親とも会ったが、とても聡明で芯の強い婦人であった。
魔人の子であるヘルツをすぐには信用しなかったが、それでも最近はフレーテのおかげで風当たりが少しだけ弱まった気がする。
ヘルツの正体は魔体ではなく、魔人のハーフだった。
父親は聖王その人だが、母親はアイヘルだったことが判明した。




