Ⅲ すべては彼女に返る(4)
それはずっと口を噤んでいた聖王が教えてくれたことである。
彼はアイヘルが身ごもっていたこと知らず、愛人だった彼女と引き離された後、死んだとばかり思っていた、とヘルツに語った。
聖王は識者で賢人であった。
王は何十年もずっと床に伏せていた為に、ハルトや一部の家臣達が裏で行っていた事を殆ど把握していなかった。
今回の騒動を知って大変心を痛めた王は、平和の為にさらに尽力することをヘルツとフレーテに誓ってくれた。
もちろん平和とは魔人と人間のための国造りのことだ。
「クロイツが一回こっちに来たい、って手紙に書いてたから、すぐに戻れると思うよ」
「むぅー」
フレーテは可愛く唸った。
魔体の研究組織は、司令塔のインハルトや魔体を、全て失ったことで実質解散した。
一部ハルト寄りの家臣が聖国や聖王に対して謀反を行ったが、すぐに鎮圧されて捕らえられた。
地下施設は捜索は余り進んでいない。というのも崩落で破壊尽くされてしまったからだ。
そして、今だにグラヴィエの死体も見つかっていない。
「帰るのを待ってて、ボクにとってはフレーテも大切な家族だから」
ヘルツがそう微笑むと、フレーテは青い瞳を輝かせた。
家族といえば。仲間たちはみんな散り散りになってしまったのだが、一ヶ月ほど前にグラースから手紙が届いていた。
その内容は、『ネージュ様がヘルツに触発されて魔王を目指すと言っている。
リヒトが困惑していて笑える』というもので、嬉しくて何度も読み返した。
ミルヒはシュティレ教会で修道女となったと、フォーゲルから聞いた。
今はベルという魔人と共に勉強や奉仕活動で忙しい様子だという。
フォーゲルはミルヒの側にいたがったが「司教になるまでは修行に集中したい」と言われたようでとても落ち込んでいた。
今はザイデルと共に聖国の再建に向けて尽力してくれている。
トロイアは修道女を引退したマテリアと婚姻した。
彼女は身ごもったそうなので、子供が産まれたら会いに行こうと考えている。
結局。
『魔体ー第五番』の正体はノヴァであった。
彼は「相棒の側を離れられない~」と叫んでいたが、ザイデルに回収されて、今はサナアトにある孤児院の人の中で心を学ぶ修行中だそうだ。
「じゃあ。そろそろ、ルクライヤに向かうね。行ってきます!」
そう言って、ヘルツは妹の頭を撫で、フレーテは兄の背を見ると歌い出した。
『愛の賛歌』だ。ヘルツは檻でも聞こえていたその懐かしい音色に見送られながら歩き出す。
旅の途中でクラウンとペルレの墓にもよらねばならない。とヘルツは強く思った。
城門を出るとヘルツは駆けだした。
「(――早く、もっと早く!)」
そのクロイツの太陽のような輝く笑顔を思い出して、ヘルツは心が躍ったのだった。




