王者の道(5)
《御呼びかぇ?》
その甘ったるい声色にネージュ、ミルヒは背筋を凍らせた。ヘルツは怯えてうずくまってしまう。
空洞の天上から、それはゆっくりと優雅に舞降りてきた。
《ホホホ、愉快愉快。逃した鳥が自ら遣ってきたのぅ》
魔体ー第三番、リーニエが淫靡な笑みを浮かべて言う。
「こいつらを全員始末しろッ!」
インハルトが手を振り払って叫ぶ。しかし、それを遮るように声を上げたのはザイデルだ。
「――待て、リーニエ!」
《おやおや、これは主殿。興奮しすぎて良ぅ見えなんだ》
「リーニエ、俺の言うことが聞けるな。もう殺戮は止めるんだ」
彼は声色を変えず、静かにそう言った。リーニエはうーんと唸って首を捻る。
「第三番、何をやっている。さっさと奴等を殲滅するんだッ!」
インハルトが叫声を上げるが、リーニエは動かなかった。翡翠の双眸がザイデルだけを静かに見つめている。
「しっかりしろヘルツ」
ザイデルは辛うじて立ち上がったヘルツの肩を抱く。
「いいか、今から言う俺の言葉をよく聞いてくれ。俺達が隙を作っている間に、フレーテ様をこちらに連れてくるんだ。いいな、お前にしかできない」
「そんな、ことできな……」
「こんな勇気のないお前を、クロイツ見たらが何て言うだろうな」
ドキリとヘルツは顔色を変えた。
ネージュが振り向くと、「やろう」と声を出さずに口を動かした。ミルヒもヘルツの肩に手を置いて頷く。
「わ、私も、お、お手伝いします」
陰で震えていたバイスもおずおずとやって来た。
ヘルツは唇を噛むと、微かに頷く。
「どうした。早く、奴らを殲滅しろッ!!」
《――そう。そう、妾は殺戮の女神よっ》
強いインハルトの言葉に、彼女は大きく高笑いした。
「違う、リーニエ。それは間違いだ。俺が教えたのは何だった」




