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隔たる心(3)


 †


 古びた白石造りの城門に、春にはまだ暑い日光が反射している。時刻は昼を過ぎていた。


 飴色のような髪を輝かせながら、色男が声を上げる。


「ようやく戻ったぞー」


 故郷に帰ってきたのは何年ぶりだったかとその色男、グラースは伸びをした。


 「おーい」と遠くの方で呼声が聞こえるが、彼は国へ帰った喜びに浸っている最中である。



「おい、おいってばよ。ネルフ!」


 そこで自分が本名で呼ばれていたことに気づいて、グラースは我に返った。


 振り返ると、そこに亜麻色の短髪、同じ色の瞳を持つ壮齢の偉丈夫が手を挙げていた。黄金の十字架が描かれた、赤い軍服に身を包み、背に槍を携えている。


「ザイデル団長っ!!」


 懐かしく、変わらないその姿にグラースは思わず大声を上げた。ザイデルの方は嬉しそうに微笑んでから、彼の背を叩く。


「久しぶりだな。ネルフよ、元気にしていたか?」


「はい、元気ですよ」


 この偉丈夫、ザイデル・オルギネスは、グラースが新米騎士だった頃に世話になった謂わば恩師のような人だった。


「ネルフ、お前、なんか雰囲気変わったな」


 自分がまだまだ若く尖っていた時を知られているのは、少々恥ずかしいなとグラースは頭を掻いた。


「いやぁ、いろいろありまして」


「お前、魔国でそうとう苦労したんだろう。良い表情してやがる。昔はいっつも暗い表情で、今にも死にそうって感じだったのによ」


「そ、そうでしたかね」


 困ったような照れるような、複雑な気持ちでグラースはまた頭を掻く。


「手紙ありがとうな、嬉しくてとんで来たぞ」


「いいえ、こちらこそですよ。今日もお忙しいのではないですか?」


「いや、そうでもない」


「まだ、騎士を鍛え上げていらっしゃるんでしょう?」


 今度はザイデルが頭を掻く。


「いや、実はこの間、一人逃げられたところだ。少々厳しくしすぎたかもしれんな」


 彼の豪快に笑う様子に、変わってないなとグラースは懐かしい気持ちになった。しかし、騎士が聖城から脱走することなど考えられないことでもある。


「騎士が逃走したのですか?」


「まぁ、そうさな。――ああ、立ち話もなんだ。入ろう」


 ザイデルは暖かい微笑みで、グラースを手招く。


 城門を潜るとすぐに関所がある。門番が人の出入りを管理をする場所だ。ザイデルが手を振ると、門番や憲兵たちが礼をして答えた。


「変わらないですねー」


「懐かしいだろう」


 石畳の道を進みながらグラースが呟くと、ザイデルは笑って答えた。


 城門から入って正面が王族が住まう居館、左側は中庭になっている。門の右側に騎士団の寮と訓練場があった。迷わずそちらへ曲がる。


「そういや、この間。中庭で変なもんが出たってよ」


「え、変なものって?」


「所用で出てたんで詳しいことは分からんのだが、白髪の人型で、腕が四本、角が出ている怪物らしいぞ」


「魔人とかではなくて、ですか?」


「さぁな。ま、ここには色々いるからな」


 そう言ってザイデルは遠い目をする。その表情には言いしれぬ哀愁が漂っていた。


「いろいろ?」


「さぁ着いたぞ。君も懐かしの詰め所だ」


 彼に促されながら、グラースはその扉を潜った。そこは騎士団寮の入り口に併設されている詰め所である。


 寮内には詰め所の他に、作戦室や武器や衣服などを保管する備蓄庫、簡易ベットがある休憩室、鍛錬を行う訓練場もある。


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