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隔たる心(2)

「すまない。トロイア、待たせたな」


「いいえ、差ほど待ってはおりません」


 そう言ったトロイアの隣では少年が「けっこう待ったぁ」と叫んでいる。ザイデルはそれは申し訳なかったなと頭を掻いた。


「アルタの件だな。どうだ、奴は見つかったか?」


「それが、どうも見失ってしまったようで、面目ありません」


 涼やかな表情を浮かべながら彼はそう答えた。ザイデルは「それは良かった」と言わんばかりに大きく頷く。


「いいや、引き続き、街々に目を光らせておいてくれよ。案外近くに潜んでいるかもしれん」


 ザイデルは周囲に気を使うように声を潜めた。それは、騎士団から逃亡者を出てしまったという異例のためである。


 逃亡者の名は、アルタ・オルギネルという。橙色の瞳が燃えるように熱い意志を感じさせる、今時真面目な好青年だった。


 新米兵士だった彼は、魔人帝国デジールへ強制派遣され、二年間余りをそこで過ごしたそうだ。任期前には帰還したが、長期にわたったその職責が高く評価され、騎士団入りする運びとなった。


 そして幸か不幸か、彼はある魔体の監察役となってしまった。その頃、アルタから辞職したいと何度も相談を受けていたのだが、近年の兵士不足は深刻で、なかなか彼の希望通りに事が進むことはなかった。


 アルタが城を逃げ出すことは、その神妙な雰囲気からだいたいの察しはついていたことだ。

 その立場上、城外に出た時点での彼の末路も容易に想像がつくのである。

 

 ザイデルにとって、騎士兵の中での信用に足る手駒は多くない。その中でトロイアという人物は芯に熱い人物だと認知していた。


 無論、大きな野望によって動かされている彼が、手の上で簡単に踊ってくれるとは到底思ってはいない。

 しかし、ザイデル同様に「檻の番人」である彼は一番身近な存在であり、今は頼りの綱なのである。


 ザイデルは彼の肩に「任せた」とばかりに手を置く。


「任務のついでで構わないのでな。よろしく頼む」


 詰め所の付近では兵士や騎士たちが忙しなく働いていた。その中で、二人の男が見えない思惑を巡らせている。


 その期待をどうやら受け入れてくれた様子のトロイアが、柔和な微笑を湛えていた。


 そんな取り繕ったような偽物の顔で、笑うことはないだろうにとザイデルは思う。


 残虐で人非道的な行いを貫くしか選択し得なかったトロイアが、完全な闇に呑まれるのは時間の問題だと思われた。


 そしてザイデルは、それを黙認しながらも誰一人として救う手だてのない自分自身に憤ることしかできない。


「トロイア、お前も……」


「ザイデル団長。申し訳ありませんが、そろそろ職務へ戻らせて頂きます。それでは、失礼します」


 トロイアは涼やかに一礼をして、少年の手綱を引いていく。その背から目線を反らしたザイデルは、「本当にすまない」とただ一言だけが呟いた。



逃亡者

アルタ・オルギネル。


夜明けのフォークテイル

第一生

Ⅲ 罪深き男たちに登場。



次はムフフな色男の登場です。➮next

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