偏私の天秤(2)
「はい。中庭に突然現れまして、怪我をした者もいたとか」
「まぁ、怖い」
フレーテは青ざめてから、手で口元を覆う。
「ご安心ください。適切に処理をいたしました」
「殺したのね、良かった」
フレーテは、少女がよもや言わないようなことをさらりと口に出した。
「ねぇ、いつになったら平和な世界になるの?」
「そう……ですね」
その問いに執事は表情を曇らせる。それを見た彼女は偉大な母の言葉を思い出す。それを幼い頃から呪文の様によく言い聞かされていた。
「お母様の言う、『革命』が必要なのね」
「革命でございますか?」
複雑そうな表情を浮かべた執事の問いに、少女は真剣な眼差しを向けて声を上げた。
「そう、魔人共を滅ぼすのよ! お父様を攻めるつもりはないけれど、王様としては間違ってるわ。奴らを生かしておいた上に領土まで与えるなんてありえないもの」
「そ、そんな、恐れ多いことを仰ってはいけません」
執事は慌てて、フレーテを制した。彼女は不満そうに目を細める。
「どうして? お母様はいつも言ってるわ。何故、聖国は魔人に負けない『力』があるのに魔国に進軍しないのかって。お父様は臆病者なのよ」
フレーテの曇りない眼には、とても強い『意志』が感じられる。
その正体は、娘を溺愛し聖準潔癖な正室、ネルケ婦人の存在であった。
十二歳の少女の口から出たとは思えない言葉を聞き、執事は顔を強ばらせた。
そんな様子を見て彼女は、子を諭す親のようにぽんぽんと彼の腰元を優しく叩く。
「お父様はご病気だし」
そう言ってフレーテは表情を曇らせた。儚げに肩を落とす姿に執事は心を打たれる。
「お嬢様……」
「でも大丈夫よ。安心して。後は、私が継ぐのだから。
――必ず、魔人を根絶にしてみせるわっ!」
それは、少女の肩には重過ぎる決意を秘めた宣言であった。
昼食を終えると、フレーテは庭へ散策に出た。
小動物、特にお気に入りである野兎などが駆け回るのを期待しながら青空の下を優雅に歩き回る。
その中で、今朝の会話を思い出して身震いをした。魔人がこの世に生きていることにぞっとする。
世間には清らかな行いをして人々を救うという聖人もいるというのに。
そう思いつつ、置いてあった椅子へと腰掛けた。
そういえば先日、母親が参加した社交界で、彼女は巷で噂になっている『聖賢』に面会する機会があったらしい。




