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偏私の天秤(3)


 その聖賢と名高い男は、高位聖職者である枢機卿の子息である。


 マントを目深に被り、その尊顔までは拝見できなかったそうだが、優雅な振る舞いからも彼が徳の高い人物であるのが窺えたという。


「まぁまぁ、お昼間から優雅で宜しいこと」


「本当に。皇女様というものは、さぞ、お暇なのでしょうね」


「まだ幼いですもの、仕方がありませんわ」


「わたくし、あの小さい背について行く自信がありませんの」


「だめよ、それは言い過ぎ……」


 そこまで耳に入ったところで、フレーテは彼女らをキッと睨みつけた。

 「ほほほ」と笑い声を上げながらメイドたちは散り散りに去っていく。



 まだ小さな雄志であるフレーテの後ろに続く者など、この城には殆どいないだろう。


 そのことはわざわざ口に出されなくとも、周囲の雰囲気から読みとれている。


 それでも少女は、貧弱な父親の二の舞にはならないようにと自分を律しながら、偉大な思想を持つ母親のようになろうと彼女なりに精一杯の威厳を張って見せていた。


「……疲れるわ」



 つい口から漏れた本音をかき消すように、慌てて口を手で塞ぐ。

 きょろきょろと視線を左右に動かして、誰か側にいなかったかを確認する。


 何者もいないその状況に安堵して、少女は小さなため息を漏らした。


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