Ⅱ 生死流転(3)
いろいろの部分がとても気になるが、アイヘルの目が子供のようにキラキラと輝き始めたのでグラヴィエは苦笑した。
そんなに良い王でもないぞ、と心中で笑う。
「ねぇ、魔人ってやっぱり故郷は魔国になるのかな?」
彼女はどこか遠い目で言う。投げ出した腕の鎖が寂しそうな音を立て、目を伏せたアイヘルは続ける。
「私、生まれはわからないけど。
物心付いたときには聖国にいたのよね。ああ、魔国へも行ってみたいわ。私、ハーフだけど受け入れてもらえるかしら?」
アイヘルは笑うと、ちょこんと愛らしい仕草で首を傾げた。
そして邪魔になった、白く美しいその髪を優雅な、仕草で耳に掛ける。
「大丈夫だと思うが、どうだろう」
「魔国に行ってみたい!」
「じゃあ、いつか。一緒に行ってみようか」
「やったぁ」
アイヘルは嬉しそうに微笑みグラヴィエの手を取る。
そう。これが、彼らの短い愛の軌跡である。
無邪気で純粋なアイヘルと過ごすうちにグラヴィエの孤独な心は、徐々に融解していった。
彼女は、彼の冷え切った心をいつでも暖めてくれた。
虚しい檻の中でも、寄り添っているだけで孤独な魔人は、味わったことのない幸福感に包まれる。
それだけではない。アイヘルは孤独だったグラヴィエに希望を与え、彼はそれを叶えると夢見ることで生気を成り立せた。
「こんな牢獄からさっさと逃げ出して、故郷へ戻ってアイヘルと幸せになるのだ」
そう考えながらグラヴィエは瞳を閉じた。あえて眠むる必要はないが微睡んでいた。
アイヘルがその顔にそっと触れると、何かを呟いている。
グラヴィエは上手く聞き取れないまま、いつの間にか、闇に支配されていく。
――だが、以前のような恐怖は感じない。彼女と一緒なら、なんでも乗り越えられるのだから……。
その日、グラヴィエには何が起こったか分からなかった。
アイヘルに抱きしめられたかと思うと、強い眠気に襲われて気を失ってしまったのだ。
目覚めると、いつも側にいるアイヘルの姿はなく、グラヴィエは首を傾げる。
その時、誰かが檻に近づいてくる気配がしてグラヴィエは鉄格子の外を見た。兵士の男が、こちらを睨んでいる。
「おい、悪魔」
男は檻に向かって何かを投げつけた。
それは鉄格子の戸に当たって鈍い音を立てると、ずるりと床に落ちた。
白い髪が、鉄格子に絡みつく。いつも見ている、柔らかな美しい顔だった。
石床にアイヘルが転がっている。正確にはその頭部が虚ろな眼差しでグラヴィエを見ている。
状況がよく飲み込めなくて、その瞳に写った自分の姿を眺めていた。




