Ⅱ 生死流転(2)
グラヴィエがそう言うと、アイヘルはその魔人からさっと距離を取った。
少々困惑したような様子で、彼女は問う。
「それって、どういう意味?」
「兵士達は時折その姿を見せる。いろいろと試されるが……うん」
もごもごとグラヴィエは言葉を濁し、視線を逸らした。
「ああ、貴方。どうせ入ってきた人間を食べてるんでしょう」
アイヘルが真剣な表情でそんなことを言う。
今の話から何故、そんな惨たらしい想像ができるのか、グラヴィエには分からない。
「いや、人間なんて食べないよ」
彼が困ったように眉を寄せると、アイヘルは鎖を鳴らしながらペシっと男の肩を叩く。
「もう、分かってるわよー。冗談通じないわね」
彼女はいつもの様に柔らかく微笑んでから言葉を続けた。
「でも実は、私も人間ではないのよ」
それを聞いてグラヴィエは首を傾げた。アイヘルからは人間の臭いしかしないのである。
「私、魔人と人間のハーフなの。でも特に魔力とかも無くって。ああ、私も魔法とか使いたいのに悔しいわ」
「魔法って……」
「だって魔力でいろいろ超人的なことができるっていうじゃない。羨ましいわ! ねぇ、グラヴィエは何ができるの?」
「私は」
「ねぇ、その魔力でご飯出してぇー、私お腹空いたぁー」
アイヘルはお腹を叩いてから足をバタバタと動かす。
自分の能力を説明しようと口を開いていたグラヴィエは、困って頬を掻いた。
「そんな事はできないよ」
「もう、分かってるってばー。ほんとに冗談通じないわね」
魔人はどこからか栄養の吸収が出来れば、腹が減っても死ぬことはない。
特にグラヴィエに至っては、他の魔人よりも魔力が強いために生気の吸収率が良い。
いくら檻が地下にあっても、地上の動植物などから力の補給を得ることが可能なのである。
しかし、魔力が無いというアイヘルは何故、食べなくても死なないのかとグラヴィエは不思議に思った。
気付いていないだけで彼女にも多少なりとも魔力があるのかもしれない。
それなら自分から生気を吸収していると納得できる、などとグラヴィエは考えを巡らせた。
ふと、アイヘルが真面目な表情を見せる。
「ねぇ、貴方はいつからここにいるの? なぜ閉じこめられているの?」
「私は捕虜なのだ。ここには二十年ほどいる」
「戦争、だったものね。……でも、さすがに二十年は長いわ。子供の頃から居るの?」
「いいや、俺の歳は五十ぐらいにはなる」
「ええー!? 見えない、若いわ! どういうことなのっ」
アイヘルはその場に倒れ込んで足をバタつかせている。手枷の鎖が、石床に擦れて音を立たてた。
「本当にいちいち喧しい娘だ」とグラヴィエは思う。
「私は特殊な体質で、二十歳前後で老いなくなったんだ。魔国の魔王もそうだよ。
彼も勇ましい若人のままだった。アイヘルはどうして牢へ? 君も捕まったのか」
「いいえ。まぁ、いろいろあってね。って、そんなことより。 ――魔王よ! 会ってみたーいっ」




