集う決意(8)
迫り来るネージュとそれを阻もうとするリヒトの剣幕に、ミルヒは苦笑いしている。
「うん、別に構わないぞ。
ただ、リヒトを納得させてくれなぁ」
フォーゲルが彼女の隣で眠そうに欠伸をしていた。
その様子を、ヘルツが彼らを真面目な顔で見つめている。リヒトがため息をつく。
「どうせ、俺が反対したところで聞くとは思えない」
「よし、決まりだ。では行くとしようではないかっ!」
ネージュが腕を振り上げる様子を、やはり真剣な表情でヘルツは見つめていた。
クロイツは手にしていた麻袋をミルヒの足下へ置く。
「日持ちする食料を詰めたから持ってけ。あと、兄貴に手紙を書くから、ちょっとだけ時間くれないか?」
クロイツは急いで自室へと向かった。
書き上げた手紙を渡すと、ミルヒは「いろいろとありがとう」と微笑みをもらした。クロイツは彼女と握手をしてから言う。
「何か困ったら、騎士団にいる兄に手紙を見せてくれ。
王室までは無理だろうが、城内には入れてくれるようにしたからよ」
「世話になったな!」
「色々と迷惑をかけた」
ネージュ、リヒトとも順番に握手を交わす。
ヘルツは寂しそうな面もちで四人の背を見送った。
その表情を見てクロイツは複雑な気分になる。たまらず、叫ぶ。
「ーーおおい、待ってくれ!」
そうすると、ミルヒが走って戻ってきた。遠くでぴょんぴょん跳ねたネージュが、何か文句を言っている。
「すまん、忘れ物だ。これを」
クロイツはそう言うと、首に掛かっていた青い宝石の首飾りを外した。
それを、そっとヘルツの首に掛けて、その小さい背中をぽんっと叩く。
ヘルツは訳が分からないといった様子で、クロイツを振り返った。
「すまん、ミルヒ。こいつも連れて行ってやってくれないか?」
戸惑ったような顔でヘルツがクロイツを見上げる。
「なぁ、ヘルツ。その首飾りは大切な物なんだ。だから、それに誓ってくれ。必ず生きて帰るって」
クロイツは泣きそうになるのを、必死に堪えてそう言い切った。ヘルツはただ一度だけ、強く頷いてくれる。
「ここはヘルツの戻る家だよ。
それで俺と妹もお前の家族なんだ。だから、待ってる。いつまでも帰ってくるの待ってる、から」
ヘルツは涙を堪えているが、鼻水が流れ出ている。その間抜けな顔に、クロイツは思わず笑みがこぼれた。
「ーーさぁ、笑顔で『行ってきます』だ」
ヘルツの顔を服で拭いてやってから、またその背を押した。
「行ってきますっ」
ヘルツは星の様なキラキラした笑顔で走り出した。
ミルヒが笑って後を追うと、ネージュがまた遠くで何か叫んでいた。
そんな五人をクロイツは見送る。
起き出した妹たちが服の裾を引いてもその方を見つめ続けていた。




