Ⅱ 翡翠色の悪魔(2)
子供たちにそう言い聞かせて、ミルヒはそっと板の戸から顔を出す。
舞い上がる土埃で視界が明瞭でない。
思わず埃を吸い込んでゴホゴととせき込んだ。
涙目になりながら、パタパタと土埃を払う。
だんだん視界が明けてくると、眼前の瓦礫の間に何か見えた。
そこには、熊の腕のような大きな手がニョキっと一本生えている。
いや、よく見ると生えているのではなく、腕以外の部分が瓦礫に埋まってしまっているのだ。
辺りに血痕や肉片は見あたらないのが不幸中の幸いであるかと思えた。
「おおい、大丈夫か?」
とりあえずそう声を掛けてみるが、死んだのか反応がない。
そっと腕に近づいてみると、それは明らかに人間の手ではなかった。
ミルヒが戸惑っているとピクリと指先が動く。
「ま、まさか、生きてるのか」
そこでまた指先が動いたので、恐る恐るそれに触れてみた。冷ややかで血が通っていないような腕である。
「引っ張ってやるから、抜け出せそうか?」
力を込めて腕を引っ張ってみたが抜けない。もう一度、引っ張るとガラガラと瓦礫を押しのけてもう一本腕が出てきた。ついでに頭部の一部も見える。
「おおっ」
ミルヒはまだまだ腕を引っ張ることにした。
力を込めたその瞬間には上半身だけ瓦礫から這い出てきていた。
灰色の肌をした、体付きから男性であると思われる。彼は見たこともない青い衣に身を包んでいた。
明瞭で整った顔つきは人間と変わりないように見えるが、瞳は生気のなく何も映っていない。
目元には、赤茶けた鱗のようなものが生え、肘から下が熊手のように太く逞しい。
ただ、ミルヒには彼が人間か非人間かということは、大した問題ではなかった。
瓦礫の街には弱者に襲いかかる卑劣な犯罪者もいる。子供たちを守る立場にある、ミルヒにはそれが一番の気がかりなのだ。




