Ⅱ 翡翠色の悪魔(3)
しかし、男からはそういった奴らが放つ危険な気配が一切感じられなかった。
「大丈夫なのか」と話しかけたが全く視線が合わない。彼は下半身が瓦礫に埋まったままの状態で何もない空中を無表情でただ虚ろに眺めていた。
「怪我はないか、どこか痛むか?」
男は暫くぼーっとしていたが、何を思ったのか両手で瓦礫を押し除けて、ズルリと這い出してきた。長い翡翠色の髪が流れる川ように美しい光を放っている。
しかし、落下した割には血も出ていないければ、怪我ない様子である。頭を打って、おかしくなってなければいいがとミルヒは思う。
瓦礫から抜け出した男の身長は二メートル程もあった。ミルヒの頭二つ分は大きい。
彼は何も言わなかった。どこを見ているのか、相変わらず目線が合わない。
「うん、大丈夫そうだな。んで、あんたどこから降ってきた?」
「……」
「まさか、空から落っこちたんか? 飛べるなんてのは、夢みたいなことさなぁ」
そう冗談のように笑うと、男はそっと瞳を閉じる。普通に反応があったことにミルヒは少し安堵した。
その時、小屋から出てきた子供たちがこちらを窺っているのが見えた。
男の様子は変わっているが、特に害はなさそうである。とりあえず安全だという意味で子供たちの方へ手を振った。
一人の少女が我先にと駆け寄ってくる。
しかし、ミルヒにばかり意識が向いていたのだろう、地面に落ちていた石に躓いて体勢を崩した。
彼女の足元にガラスの破片が散らばっていることにミルヒはすぐに気が付けなかった。――「危ない」と思った瞬間にはもう遅い。
少女は破片の中へ落ちてしまった。……いや。はずだった、のだが。気付いた時には彼女は、そこにはいなかった。
というのもその姿は消え無くなってしまったのだ。他の子供たちも少女が消えた地面を不思議そうに見ている。
「お姉ちゃん!」
背後からそう声がしてミルヒが振り返ると、少女が微笑みながら手を振っている。その後ろに男が無表情で立っているのが見えて首を捻る。
「まさか、お前が助けてくれたんか?」
そう問いかけると、少女の方が大きく頷いた。
「びゅーって来て助けてくれたよ!」
そう言った彼女の頭を撫でる。その原理はミルヒには理解できないが、男にお礼を言う。
物珍しさからか彼はすぐに子供たちに囲まれて腕を引っ張られたり、足下まで垂れた髪を触られている。
「あはは、なんだこりゃ」
一切の嫌がる素振りも見せない男はなされるがままで、その様子におかしくなったミルヒは笑い声を上げた。




