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聖地巡礼(2)


 魔国にはそもそも『教会』という施設がなく、基本的に無宗教である。民衆が崇めているものがあるとすれば、それは王族だ。



 こういう内装に拘った施設はよく目にするが、神々や天使などの装飾品は故郷のものとはひと味違う。


 突き当たりの正面に、赤子を抱いた女の像がその麗しい翼を広げて迎え入れてくれた。女の像の前に仁王立ちするとネージュは鼻を鳴らす。


「とても厳粛で、()い!」



 しかし、先ほどから気分がぜんぜん落ち着かない。ネージュはそわそわと視線を動かした。


「少し落ち着いたらどうだ」


 従者に高揚する気持ちを悟られてむうっと唸ったが、そんなことはどうでもいいのである。


 ネージュにとって大事なことは「高ぶるこの気持ちをどう表現したら良いか」がだった。



「気に入ってもらえて良かったのである」


 すぐ脇から男の声がかり、その声にネージュは肝を冷やした。それ以上に驚いたリヒトが、主を守るように男との間に滑り込む。


 その接近に気づけなかったことに二人は戸惑っていた。リヒトならばともかく、魔王の娘が他者の気配に気づかないことはないのである。



 ネージュは、自分がよほど浮かれていたことを認知した。これは少し反省しなければなるまいなと珍しく反省する。


 どうやらリヒトも同じ事を思ったらしい。男を警戒しながらも苦虫を噛み潰した様な、なんとも微妙な表情をしている。


 そんなネージュとリヒトの様子を見て、男は不思議そうな顔をした。よく見ると、尖った長い耳をしている彼はどうやら人間ではない。


 リヒトが男を睨みつける。彼はピリピリとした場の空気を感じ取ったのか、慌ててペコリと頭を下げた。


「脅かせて申し訳ない。女神像を誉められたので、とても嬉しくてつい話しかけてしまったのである。我が輩はこの教会の居候で、決して怪しいものではないよ」


 微笑んだ男の表情から、敵意はないように汲み取れる。ネージュはリヒトを窘めると男に近付いた。


「こちらこそ、従者が失礼を働いて申し訳ない。こいつは少々、短気で過保護なのだ」



 聖国の教会に魔人が居候しているなどとは非情に興味深い事案である。そんな興味津々と顔に書いてあるネージュに対しても、彼は嫌悪な様子は見せなかった。


 男はただニコニコと笑みを浮かべて口を開く。



「いえいえ。我が輩はベルティッヒ・ゲーゲンというのである。気軽にベルと呼んで欲しいのっであるよ」


 男、ベルが手を伸ばしてきたのでネージュもその手を軽く握る。


「私は、ネージュという。こちらはリヒト」


 握られた手にぐっと力が入ると微笑みを返した。



「ネージュ殿に、……リヒト殿? おお、宜しくなのである。ああっ、失礼だったならば申し訳ないのであるが、ネージュ殿はどうやら人間ではないな?」


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