聖地巡礼(せいちじゅんれい)
燦々と降り注ぐ太陽光線にネージュは緋色の瞳を細める。彼女の眼前に広がるのは緑の丘だ。
そこに立っている教会へと入場するため、聖徒達が順番待ちをして並んでいる。
その様を彼女は仁王立ちしながら観察していた。
「うむ。今日は、なかなかに良い巡礼日和となっているな」
ネージュは腰に手を当ててながら一人で頷きつつ、空色のサングラスに触れていた男に顔を向けた。
「どうだリヒト、聖国の空気は美味いだろう?」
「特に変わりないように思えるが」
リヒトが面倒くさそうに答えると、ネージュはイヤイヤと首を横に振った。
「まさかっ。いや、瘴気臭くないだろう。ほら、新鮮なこの空気を見よ!」
「空気は目視できない」
リヒトが真面目にそう答えると、つまらないといった様子でネージュは息をはく。
「――ぐうう、お前ではつまらぬ。グラースはどこだっ」
「奴ならサナアトに向かったぞ」
何故、二人で魔人帝国から遠く離れた聖国いるのかというと、巡礼式の参加状が魔国に届いたからだった。
それは魔王宛のものであったが、彼は興味がない様子だったのでネージュが赴くことにしたという訳だ。
グラースはこの機会に故郷へ帰省するため、街に着いたら別行動となっていた。ネージュはリヒトに真剣な眼差しを向ける。
「グラースが足りないぞ」
「そんなにあの馬鹿が居て欲しいか?」
「違う、ノリの問題だ。貴様が相手ではつまらん。非常につまらん」
「ノリが何かは知らんが、先ほどから目立ちまくっているぞ」
聖徒達の一部は一定の距離を取って異様な二人の姿を見つめている。
「王者は目立ってこそ王者、だろう?」
「いや、俺たちは正規で招かれた訳じゃない。忍んで来ているのだから大人しくしろ」
リヒトがその首根っこを掴むと、ネージュは小動物のように体を丸める。
「仕方がない。ここは人間であるグラースに免じて、大人しくしてやろう」
「さっさと行くぞ」
そう言うと、リヒトはさっさと教会に入る列の一番最後に並んだ。
小さな施設のため参列者はそんなに多くない。これなら礼拝どころか、教会内外の散策なんかにも十分時間をとれるだろう。そんなことを考えるとネージュの胸は嬉しすぎて弾む。
二人で教会内に足を踏み入れると、床には重厚な赤絨毯が敷き詰められていた。柔らかな感触のそこを進むと淡い光が射し込んでいる。
色硝子の板からこぼれる暖かい日差しにネージュは独特の神秘的な雰囲気を感じ取る。
頭上には、石板で描かれた、『背に白羽を携えた裸体の精霊』の壁画がありとても芸術的だ。
それだけでも浮かれた子供のように、彼女の足取りは軽くなる。




