闇の従者(4)
トロイアは教会の裏手に回り込んだあたりで作業任務の再確認をする。
まずは。
サナトの街へ実験体の魔獣を放ち、その混乱に乗じて巡礼式へ参列している『目標人物』を殺害する。
そこで、重要なのはノヴァの魔人を探知するその能力だ。そう、これは任務という名の暗殺計画だった。
民衆をも巻き込むこの残忍な行為を神は決して許しないだろう。
しかし。神などという偶像は実際に世界には存在しないことを、トロイアは知っている。
なぜなら。
神は決して下々の者へと手を差し伸べてはくれないからだ。なぜなら現状として、誰一人と救われてはいないのだから……。
目を覆いたくなるほどの強い日差しと、残酷な運命を拒むかのような荒い風が吹いている。
ノヴァが、静かに思考していたトロイアの腕を引く。
「――相棒、教会の中にいる。強い魔力、あれが目標だよっ!」
計画の発動まで時間が迫っていた。司祭に扮する他の工作員と視線を合わせると、同時に強烈な破壊音が轟く。
青く晴れた天上から舞い降りたのは、麗しい天使などではなく、間違いなく狂気の悪魔だった。
それは、実験で生み落とされてしまった負の遺産。焦げ茶色の体毛で覆われ、尻尾が蛇、獅子の様な胴体に山羊の頭をした合成獣である。
自身の転移能力によって出現した獣は、予定通り街を破壊し尽くす予定だった。当初はその転移場所が不特定であった為、計画自体も危ぶまれていたが、無事に成功したようだ。
後はトロイアの仕事である。暗殺の方を手間取る訳にはいかない。
「ノヴァ、目標はどこに居る」
「……近くに、いる!」
ノヴァがそう叫んだ刹那、一閃の光線と共に肉の裂ける鈍い音が耳に入った。
合成獣の頭部が引きちぎれて落ちる様を見て、トロイアは冷静に考察する。
先ほどの閃光は、魔人の能力である可能性が高い。相手が超人的な能力を持っていることを知りながらも、合成獣を過信し過ぎた結果か。頼みの綱が機能不全である今、作戦を続行するのは不可能と判断した。
「標的は僕が殺るっ!」
しかしそこで、命令もなしに飛び出していったのはノヴァだった。背に畳んであった組み立て式の鎌を振りかざして走り去る。
トロイアは計画を立て直そうとしたが、それを断念した。
元から彼は考えるより行動する性質であり、命令されればその通りに動く。
それはまるで。操り人形のようでそこに己の思考は、必要ない。
「……チッ」
舌打ちしてノヴァの後を追う。あの殺人兵器が愚かな罪を犯していなければいいが、と祈りながら……。




