闇の従者(3)
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「もう行ちゃうの?」と残念そうに肩を落としたマテリアに明日また来ると告げて、トロイアは足早に教会を後にした。
その途中、宿屋へと続く道を歩いていると、前方からノヴァが駆けてくるのが見えて眉を潜める。
少年は大きく手を振りながら、嬉しそうにトロイアの隣へとやって来た。
「おお~い、相棒~」
「宿で待機していろと言ったはずだ」
「だって、暇だったんだよぉ。じっとしてたら足が鈍っちゃうし」
ノヴァは自分の足を、手でパシッと打つ。トロイアは表情を変えず、無表情で彼を見つめた。
「ご、ごめんよ、相棒。そんなに怒んないでよ。あ、そうだ、好い人には会えた?」
ノヴァがニマニマとした表情でギザギザの鋭く尖った歯を鳴らせて笑う。トロイアは、それでも表情を変えず一心不乱に歩き続けた。
さらに無言で足を早めると、離された少年が少し遅れて着いてくる。
「僕、色恋沙汰って分かんないからさ。いいなぁ~」
その言葉は、真の意味で羨ましいとは思っていないと感じさせる口調だった。ノヴァは口を尖らせながら道端の小石を暇そうにけ飛ばして遊んでいる。
それでもトロイアは何も言わなかった。そもそも、彼は口数の多い方ではなく、他人対しても適当に愛想を振りまいているだけだ。
「でも、いいのかな。相棒が育った街なんでしょ?」
ノヴァが隣からじっと見つめてくるので、トロイアは視線を逸らす。
少年は陽気な様子で「まぁ、関係ないかっ」と鼻歌交じりに歩き出した。
その懐かしい旋律には覚えがある。
聖国民なら誰でも知っている有名な曲。それは真愛の賛歌という。
幼い頃、孤児院でよく歌ったそれを聞いてトロイアは足を止めた。
そっと後ろを振り返るが、そこにはもう誰の姿もない。ただ緑の丘がそびえ立っているだけだ。
急激な不安感に襲われて空を仰ぐが、そこには赤茶けた色が広がるばかりで、宵闇に包まれるはまだ早い。
一層気分が落ち着かなくなって目を伏せた。
ノヴァが「お腹空いたぁ」と唸って腕を引く。それを強い眼差しで牽制して、トロイアは再び歩き始めた。
彼は、自分が育った街や施設に思い入れがなかった。しかし、気がかりが一つもないといえば嘘になる。
「任務だけに集中しろ」
不安を払拭するため、自分に言い聞かせるように呟く。
なおも鼻歌をやめないノヴァを強く睨みつけてから、トロイアは宿への道を急いだのだ。
翌朝となった。
街を見渡せる小高い丘の上、シュテレ教会の参列者の中にトロイアとノヴァはいた。
二人はフードマントを目深に被り、正体を隠しながら参列者たちに紛れ、扮している。




