闇の従者(2)
「去年の巡礼式は参列できなかったからな。今年は休暇を取ってきたんだ」
トロイアの口から休暇と言われて、マテリアは嬉しくなった。何日休みを取っているのだろうかと、うきうきした気分で彼に問いかける。
「ねぇ、いつまでこっちにいるの?」
「明日の巡礼式が終わるまではいるぞ」
「……え、そんなぁ。すぐに仕事ってことじゃない」
「今、手が放せない任務があってな。実は、可愛い妹に会うから、と無理を言って来たんだ」
爽やかな表情の彼にマテリアは懐かしさを覚えた。
幼い頃、同じ孤児院で育った二人はいわば兄妹のような関係なのだ。
マテリアが司教の元に引き取られた後も、トロイアはこうして定期的に足を運んできてくれる。
近年は仕事が忙しいのかシュティレ教会へ訪れる回数は減っていたので、ずいぶんと久しぶりの再会ではあった。
マテリアが物思いに耽っていると、ベルが会話に割り込んでくる。
「ふむふむ。ということは、ここにトロイア殿の妹君がいらっしゃるのであるな」
「ああ、妹っていうのは、マテリアのことなんだ」
「ほほう、そうであったか。しかし、我が輩とマテリア殿の仲なのに何故、兄君がいると教えてくれなかったのであるかっ、水臭いであるよ」
「どんな仲だ!」
癪に障る言い方をされてマテリアは思わず声を荒げた。こんな奴と仲が良いと勘違いされたくない。そんなことを思っていたらトロイアに笑われてしまう。
「二人は仲が良いんだな」
「良くありません」
そう断言すると、ベルが「悲しい」と側にすり寄ろうとしてきたので、マテリアはその手を振り払った。
「え~、マテリア殿ひどい」
大人のくせに、耳を垂れて子供みたいにしゅんとし始めた彼を適当にあしらう。それ見ていたトロイアが「良かった」と呟くと、マテリアは思わず声を上擦らせた。
「え?」
「最近構ってやれなかったから、お前が寂しい思いをしているかと心配していたが、どうやら徒労だったようだな。元気そうで安心したよ」
「うーん、まぁ。そう言われればそうかしら……」
「マテリア殿、何だか煮え切らない返事であるなぁ。そこは『ベルがいるから私は大丈夫よ!』っと高らかに宣言して欲しいであるよ」
「ぜんぜん大丈夫じゃないから。宣言なんてしません」
マテリアがそっぽを向くと、ベルはまた寂しげに俯いた。
その側でトロイアが満足げな顔をしたのを彼女は見逃さなかった。その嬉しそうな表情につられて笑い声を上げる。
すると何を勘違いしたのか、ベルがむっと頬を膨らませてその場で跳ね始めた。
「あー、我が輩を笑うなんて酷いであるよ」
「あんたのことじゃない」
そう言ってからマテリアはトロイアを横目で見た。
変わらずの勇ましい姿は、いつでも変わらない優しい人だと思えた。




