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Ⅲ 罪深き男たち(3)


 トロイアは、参謀型のクラウンとは違い

 騎士団の花形戦士だった。


 しかし、まだ共に働いていた頃の彼はこんな風に、人間味のない非情な顔をする人物ではなかったと記憶している。


 元々どこか陰はあったが、気は優しく筋の通った青年で男には人望厚く、女は挙って彼を落とそうと策謀していた。


 だが、しかし。


 人というものは簡単なことですぐに変わってしまう。「自分ですらそうなのだから、若者はその可能性が数多あるのだろう」と、クラウンは妙に腑に落ちて片目を閉じた。



 ノヴァと笑い合う男は、もうクラウンの知っているトロイア・オルギネルではない。




 二人が去ってから、ずいぶんと日が経っていた。薄暗い地下室にクラウンの嘆く声が響きわる。



「――これでは、駄目だ」


 湿度が高いせいか、じっとりとした室内の中央部に、ボロ布の掛かった祭壇がある。

 祭壇の上には動物の骨や、怪しい液体などが祀られていた。


 その脇でクラウンは一人でうずくまっていた。


 異様な文様が描かれた石床に並んでいる蝋燭の明かりが、その蒼白の横顔を浮かび上がらせている。


「何故、戻って来てくれないのだ。ペルレ……」



 彼は右手を冷たい石床に叩きつけた。切れた傷口から血が滴り落ちるのも気にせず、拳を何度も打ち続ける。



 ――すみません。


 突然そう声がかかって、はたとその行為を停止させた。何者かの気配がして静かに立ち上がった。


「勝手に上がり込んでしまって申し訳ないです。玄関で声を掛けたのですが反応が無かったものですから……」


 白髪を肩の辺りで切りそろえた青年が、ずれた分厚い丸眼鏡を押し上げながら申し訳なさそうに体を丸めて立っている。騎士団の軍服を着ているが、クラウンはこの青年に見覚えがない。



「誰だ」


(わたくし)の名はバイスと申します。実は少々、尋ねたい事ありまして聖城より参りました」


 そう言って、バイスは何度も頭を下げる。なんとも腰の低い青年だ。


 クラウンは服の裾で流血する右手を覆うと、彼を睨みつける。そんな家主の様子を見て、青年は石床に膝を折った。


 そのまま冷たい底に額をつける。



「貴方様が『黄泉の秘術』を試しされているという、噂を耳にしました。是非、その術をお授け願いたいのです」


 クラウンはその姿を見ても眉一つ動かさなかった。彼の求めるものが何なのか、クラウンには察しが付いた。それでも彼に対して首を縦には振らない。


「駄目だ」


「そこをなんとか、お願いできないでしょうか」


 バイスの声は今にも泣き出しそうなほどに震えている。クラウンは、やはり表情を変えなかったが言葉を絞るように声を出した。


「ロータスには行ったのだろうな?」


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