Ⅲ 罪深き男たち(つみぶかきおとこたち)
その木造建ての住まいを見て、男はほっと短い息をついた。
続いて、今にも踊り出しそうなほどの軽やかな足取りで玄関の戸を開く。
玄関続きの居室で肩に担いでいた荷物を床へ下ろすと、彼は不躾に白髪交じりの頭を掻いてから、きょろきょろと室内に視線を這わした。
「帰ったぞ、ペルレ」
いつも明るく出迎えてくれる妻の姿が見えない。
いつもならば、帰省すると美しい黄金の髪を靡かせて、パタパタと愛らしく駆け寄って来るのに……。
そこで、ようやく思い出した。
彼にとっての最悪を――。
――『妻は死んだのだ』。
何度も否定したその事実を思い出した。
毎度のことでありながら、男がそれに馴れることはない。
帰省すれば麗しい妻が、笑顔で自分を迎え入れてくれる。彼にとってこれほどまでに幸福なことはないからだ。
しかし、彼は笑っていた。
怒涛のごとく泣きながら、満面の笑顔を湛えていた。もうずいぶんと前から、この男は狂っている。
彼の姿は周囲に異質さを窺わせた。民衆たちに名付けられたのは道化師という異名である。
体中に這うのは隠しきれない自傷の痕跡。自らくり抜いた右の眼球もなく、隠すように道化のような仮面を付け、片半身はすでに義手と義足となっている。
怪しさを保つ残された金色の眼孔がさ迷う暗闇で輝く様は、周囲の者たちから、「人間であるのに、さながら魔人と称した方が正しいかも知れない」と思わせるほどの有様であった。
「……ああ、もうじき、夕暮れか」
いつまで一人で笑っていたのか、すでに部屋の中は薄暗くなりかけていた。クラウンは羽織り型の獣色のコートを脱ぐと、しゃがみ込んで床に置いた荷に手をかける。
その中身は、狩り取ってきた魔獣の肉。
新しく入手したばかりの書籍などが多数入っていた。
「待っていてくれ。かならず、君を連れ戻してみせる」
クラウンは生々しさから遠ざかりつつある硬い肉片を、握り締め高らかにそう宣言した。その可能性を想像して、思わず零れそうになる喜悦の笑みをかみ殺す。
彼はそこで、後方の扉に人の気配を感じて立ち上がった。
「何か用か、トロイア」
クラウンは体勢を変えずにそう呟く。
悟られないように魔獣の肉を袋へと戻した。静かだった室内に、
穏やかな男の声が響いたのはほぼ、同時だった。
「取り込み中にすまない。少しだけ、いいだろうか?」




