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異世界魔眼魔術師の軌跡 旧名:6seconds  作者: 結城紅
第一・五章 ~ダルクでの騒動~
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039.宿屋騒動 ~後編~

連続投稿です。二時間ほど差を空けておりますが、中編を読んでおられない方はお手数お掛けしますが一話前に戻ってください。


「えー、今回は『神経衰弱』と『ババ抜き』をやろうと思います!」 


 少人数ではあるが、トランプのお披露目を兼ねて二つのゲームをやることになった。


 どちらもルールは簡単であるため、皆一様に理解することができた。

 まず、一戦目の神経衰弱。


「ありゃ、揃わなかったにゃ」


「あれ、ここだと思ったのですが……」 


「さっきまでここにペアの片割れがあったと思ったんだけどな」


「あー、なかなか当たらないな」


 おかしいとばかりに首を傾げる二人。ペアがなかなか揃わない。

 俺を含むミル、レイヤ、カズマがペア作りに難航する中、


「あ、やった。揃いました」


「あっ、また揃いました。もう一回当てられるんですよね?」


「またまた当たりました! なんだか今日は運がいいみたいです」


 シェイラは唯一人大量にペアを獲得していた。ずっと俺のターンとばかりに怒涛の勢いでカードを捲っていく。

 しかし、それも当然だ。何しろ、俺が場を操作しているのだからな!


 もう既にお忘れだろうが、ディーラーは俺だった。カードを並べる際に配置は全て完全に記憶していたのだよ! 

 そしてそれに魔眼を組み合わせるとあら不思議。本来外れる筈のシェイラのカードが次々とペアを作っていきます。なんということでしょう。これが匠の技なのでしょうか。……ただのチートだけどな。


 カズマは既に気づいているようで、苦笑いでこちらを見つめている。彼としてはこの展開はあまり望むところではないのだろう。一人勝ちほどつまらないものはないからな。


 都合、五回連続で当てたあたりでチートを打ち止めにする。流石に皆シェイラに不信感を抱いているようだ。少し調子に乗りすぎてしまった。


 結局、その後なんとかゲームバランスを取り直し、有り得そうな勝利をシェイラに贈った。

 ……左目が痛い。


「では、続いて『ババ抜き』をやりましょう!」


 笑顔でそう告げながらカズマがこちらを一瞥、無言で抗議してきた。すまないが、今回も全力で妨害させてもらおうと思う。


 カズマがカードを配り終え、開始を宣言する。それと同時に俺は魔眼を発動させ全員の手札を一瞬にして把握する。前回同様体感時間を止めてカードを操作するとしよう。


「さっきのゲームの勝者から始めようか」


「では、シェイラさんからですね」


 カズマの言葉をレイヤさんが補足する。シェイラがコクリと頷きミルからカードを抜き取った。その姿はどことなく楽しそうに見えた。


「良かった」


 ここまでした甲斐があったというものだ。


「良くないよ」


 ふと横を見遣るとカズマがジト目でこちらを睨んでいた。


「さっきから君が妨害してくる所為で面白みに欠けるんだけど」


「あれ、何か問題あるのか?」


 カズマがやれやれとばかりに溜め息を吐いた。


「僕が善意だけでトランプを提供したとでも思ってるの?」


「宣伝も兼ねてるんだろ?」


「そうだよ……。だから皆には楽しんでもらわなきゃいけないんだよ」


 そんなに宣伝したければ下に行けばいいのに。


「合コンとかで途中で抜けると空気がシラけると思わないかい? 僕に対する風当たりが強くなるのは避けたいんだ」


「だからここで無駄に頑張ってるのか」


「無駄言わないでよ。まあ、君のチート前には無力なのかもしれないけどさ」


 そう言って肩を竦める。諦観の滲んだ様相に俺はこの時気づけなかった。カズマがこの会話の間にタネを仕掛けていたことを――


「兎に角、これ以上君が邪魔をするというなら「師匠の番ですよー」「ああ、悪い悪い」……人の話は最後まで聞こうか」


 カズマとの会話を打ち切りババ抜きに集中する。改めて場を把握したところ、ババを持っているのはシェイラだった。このままではシェイラが負けてしまうかもしれない。


 そんなことは天地神明が許しても俺が許さん。 


(魔眼、発動!)


 体感時間を停止させ、シェイラからカードを引こうとするカズマの指先に別のカードをすり替える。すまないが、彼には贄となってもらおう。


「優クン……」


 カズマが露骨に嫌そうな顔をする。ポーカーフェイスがなってないな。

 魔眼を乱発すると疲れるので、俺は皆の手札を記憶してシェイラにババが行きそうな時にだけ魔眼を行使することにする。      


 その直後だった。

 シェイラの左隣のミルがしかめっ面をした。ジョーカーが回ったからだろう。シェイラはそれに気づかずミルからジョーカー、つまりババを抜き取ろうとする。即座に魔眼を発動させそれを阻止する。


 だが、その時は再び来た。

 シェイラが五分の一の確率でジョーカーを引き当てようとする。またかよ。

 しかし、その後も、その後の後もシェイラはジョーカーを引こうとした。

 まさか……。


「せめてもの意趣返しだよ……」


 カズマが不気味にほくそ笑んでいた。

 こいつの能力は金次第でどんな情報でも買うことができる。それが例え――未来の情報でも。いくつもの情報を統合し、実践することで未来を分岐させシェイラに不利な未来を選択しているのだろう。所謂、パラレルワールドという奴だ。たかがババ抜きになんてものを持ち出しやがる。


「さあ、僕の財布と君の魔眼の耐久戦を始めようか……」


 青ざめた表情でカズマが告げた。一体いくらしたんだ、未来の情報。

 正直言ってかなり不利だ。左目の発する疼痛が無視できないレベルになりつつある。


 そもそも、俺は何故こいつと争っているのだろうか。無益な争いのような気がする。こんなことは即刻やめるに限る。かと言って、勝負に応じることはしたくない。

 要は、お互い要求を満たせればいいのだから……。

 


俺:シェイラが楽しめればいい。


カズマ:トランプの宣伝→トランプの普及→大金が入る。



 ああ、簡単だったわ。


「なあ、カズマ。物は相談なんだが……」


「交渉は受け付けないよ」


 突っぱねるカズマにそっと金貨を数枚握らせてやる。


「これでよくしてやってくれ。な?」


「へっへっへ。わかりやしたぜ、旦那ァ」


 何故小悪ぶる。


 破顔して金貨をいそいそと仕舞うカズマを余所にゲームは進んでいく。


「やった、上がりです!」


 満面の笑みでシェイラが万歳する。うん、やっぱりシェイラには笑顔が似合う。

 一方、ミルは苦い顔をしていた。手札には未だにジョーカーが残っている。


 ミルにも色々と世話になった(ような気がする)ので、ジョーカーはカズマになすりつけてやった。金貨が功を奏したのか、彼は喜んで受け入れていた。世の中やっぱ金か、そうなのか。 




 そしてゲームは終盤。いい加減面倒になった俺とカズマは既に抜けていた。残り二枚となった手札を手にミルとレイヤさんが対峙している。

 ミルが穴が空くほど視線をカード向けているのに対し、レイヤさんは余裕の態度でミルにカードを差し出している。


「えーと、これにするにゃ!」


「あれ、それでいいんですか?」


「うにゃっ!? ち、違うのかにゃ? スペードの3はこっちかにゃ?」


 この娘はバカなのだろうか。そんなの教えてくれるわけがないだろう。


「こ、これにゃ!」


 散々レイヤさんに惑わされた末にミルが一枚のカードに手を掛ける。勢い良くズバッと引かれたカードは……。


「うにゃぁぁあぁあ!!」


 ミルの絶叫と共にカードが宙に投げ出される。ヒラヒラと宙を舞うのは道化の描かれたジョーカーのカード。

 救ってやるべきか悩んだが、面倒なので放置した。

 結局、レイヤさんが二分の一の確率に勝ち(というかミルの表情を読んで)ミルは惨敗を喫した。



~~~~~~



「さて、次は何やろうかな」


「ふあぁぁ……」


 カズマが楽しげに言うのに対してシェイラがあくびで答えた。もう夜も更けてきた。14の少女には遅い時間かもしれない。


「シェイラ、大丈夫か?」


「は、はい。大丈夫です、眠くなんかありません!」


 薄い胸を張って答えるシェイラ。


「無理は体によくないですよ? 疲れているのであればしっかり休眠をとるべきです」


 レイヤさんの言葉にシェイラは首を横に振った。   


「う、ううん。大丈夫だから」


 俺とレイヤさんは彼女の意思を尊重することにした。ただ、念のため眠かったら寝ていいと言っておいた。 


「優クン、何しようか」


「お前は元気だな」


 こいつを見ていると心底そう思う。一体その気力はどこから湧いてくるのだろうか。


「じゃあ、これしよう」


 カズマがもったいぶった手つきで懐から木片を取り出した。いや、これは割り箸か……? 先端にそれぞれ数字が割り振られている。

 これは……。


「王様ゲェェェエエエムッ!」


 カズマが叫んだ。


「「王様ゲーム?」」


 ミルとレイヤさんが首を捻った。それを機にカズマが冗長な説明を始めた。

 それにしても、シェイラが静かだ。

 そう思惟し背後を振り返ると。


「すぅー、(カクン)すぅー」


 シェイラが背を壁に預けて眠りこけていた。

 時折首を上下に揺らすのが可愛らしい。


「さっきまで起きようと頑張っていたんですけど、寝ちゃいましたね」


 カズマの説明から逃げ出してきたレイヤさんが隣で呟いた。


「そうですね。やはり彼女にはキツかったのでしょう。それにしても……」


 俺とレイヤさんが同時に二の句を継いだ。


「「可愛い寝顔ですね」」


 互いに合致した言葉に驚愕し、直後になんだかおかしくなって笑ってしまう。


「フフ……、なんだか不思議です」


「何がですか?」


 レイヤさんの言葉に疑問で返す。


「貴方といると心が安らぎます」


 そう告げるレイヤさんは今までで一番綺麗な笑顔を浮かべていた。花も恥じらうような微笑みに、俺も笑みで答えた。


「じゃあ、王様ゲームを始めるよー」


 カズマの声で我に返った。互いに一瞬視線が交錯し、レイヤさんがにこやかに笑う。


「それでは戻りましょうか」


「そうですね」


 言うまでもなくその後のゲームは楽しいものとなった。



~~~~~~



 王様ゲームが終了しパーティーの後片付けに入る。レイヤさんが手伝うと申し出てくれたが、仮にも聖騎士にそんなことはさせられないし、招いた側としても申し訳ないので丁重に断り、待ち合わせた場所まで送らせてもらった。

 食堂の方は大小様々な人が酔いつぶれており、混沌とした有様になっていた。


 酔いどれ共は女将に任せ、俺は雑に積まれた食器類を洗浄し、床に散ったゴミを掃き捨てていく。ミルとカズマにも手伝ってもらい、全てが終わったのは深夜に差し掛かった時だった。女将に礼を言い、ミルを部屋に返してやりカズマを入口まで見送った。


「今日は楽しかったよ。またパーティーを開く機会があったら呼んでくれよ?」


「ああ、その時はこき使ってやるよ」


「アハハ、今日と変わらないなー。じゃーねー」


 カズマが手を振って闇に消えていく。俺はそれを見届けると扉を閉めて、大部屋の鍵を取りに階段を上る。

 ガチャリとノブを捻るとシェイラの寝顔が目に入った。俺は床に放り出されていた鍵を拾ってポケットに入れると、静かにシェイラをおぶった。


 部屋を出ると女将がいた。シェイラの耳が隠れていないのでしまったと思ったが、この人も魔人に対して偏見は持ち合わせていなかった。


「流石に長年生きてりゃ善悪の区別くらいつくさ」


 鍵を返した時に女将さんがそう言った。


 ふと立ち止まり、考える。

 今日の昼間、噴水でシェイラを責めた人がいる反面、こうして彼女を擁護してくれる人もいる。それはとても有難いことで、心強いことだった。でも、それ以上に……嬉しかった。きっと俺は、シェイラ以上に嬉しかったのではないかと思う。人に認めてもらうのがここまで大変なものだとは知らなかったけれど、それを達成したときの喜びは尋常ではなかった。

 俺はおぶったシェイラの寝顔を見る。


「良かったな。今日だけでお前の味方が四人も増えたぞ」


 天音、カズマ、レイヤ、女将。彼女らには改めて礼を言わねばなるまい。


「ん……?」


 俺の声に反応したのか、シェイラがうっすらと目を開けた。


「師匠……?」


「どうした?」


 シェイラがキュッと俺の首に回された腕に力を込めて密着してきた。寝ぼけているのか、「ふにゃ……」と眠たそうな声を漏らしている。

 それでも伝えたいことがあるらしく、彼女は俺の耳元に口を寄せた。


「今日は……ありがとうございました」


「楽しかったか?」


 それに彼女はふにゃっと蕩けるような笑顔で


「はい」


 と答えた。


「じゃあ、また今度パーティー開こうな」


「…………」


 返事が返ってこないので首を回してシェイラを見ると、案の定彼女は眠りについていた。


 ミルとの大部屋に連れて行くと、ミルも既に夢の世界へと旅立っていた。

 俺はそんな彼女を尻目にシェイラを寝台に横たえ毛布をかぶせた。


「おやすみ」


 俺はそう告げて部屋を後にする。


 シェイラの寝顔は昼間とは打って変わって安らかなものだった。

 一番眠たいのは僕の方です。


 次回予告(嘘)

 一見ユーとシェイラの仲は深まったかのように見えた。だが、

「ケッ、あの男チョロいぜ……」

 毛布の中でほくそ笑むシェイラ。お小遣いと称してユーから巻き上げた金を数え、下卑た笑みを浮かべる。

「ククク……。計画通り」

 なんと、シェイラは見かけによらず悪人だった!

 ユーの明日はどっちだ!


 次回、人の見かけと中身は一致しない。僕はこの前コンビニに行ってそれを学習しました。意外としっかりしてそうな人でもストローを入れ忘れることなどよくあるのです。

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