037.宿屋騒動 ~前編~
前半がシリアスになってしまいました。興味のない方は読み飛ばしてください。
「なんでお前がここにいるんだよ?」
宿屋の一室。スタンダードな木造りの部屋に赤髪とサングラスは異物のように感じられる。
胡乱げな視線で赤髪の少年を睨めつけた。
「いや、ちょっと伝えておきたいことがあってね」
ニコニコと言う。
「何を?」
「ちょっとばかり忠告を。二つほど、ね」
「言ってみろ」
カズマが二本立てた指をひとつ折る。
「まず、ひとつ。現在この国は敵国関係にあったロアダントと共闘関係にあり、魔王軍と一進一退の攻防を繰り広げている。……押され気味だけどね。戦時中はどうしても目が外にいってしまうけど、本当に向けるべきところは外なんかじゃない」
「つまり、内側だと?」
「そう」
頷き、カズマが立ち上がった。そのまま窓際の壁面に背を預け腕組みする。
「この国は腐ってる」
知ってるよね? とでも言いたげな目配せに俺は頷いた。
良識のある魔人の扱い。王都の外の有様。あるはずのない魔王軍の部隊の襲撃。
「王は外の有様を知っているのか?」
「いや、知らない」
断言。
「それどころか、戦地の仔細さえ。押され気味なのに増援を寄越さないのはそれが原因だ。我が身可愛さか王都の警備は強化してるみたいだけど」
「情報の錯綜?」
「いや、違う」
間を空けずにカズマが告げる。
「誰かが意図的に情報を統制してるんだよ」
まさか……。
「ああ、王都のどこか。僕の調べでは王城に誰か、魔王の息のかかった者がいる」
「ちょっと待ってくれ。それがロアダントってことは?」
魔王が現れる前までは争うような仲だったんだろう。それなら、この機に乗じてライベル王国を滅ぼそうと考えてもおかしくないはずだ。
カズマが静かに首を横に振った。
「それはない。ロアダントだけじゃ魔王軍には勝てない。僕は以前ロアダントにいたことがあるから知っているんだけど、両国とも踊らされてるんだよ」
「踊らされている?」
「敵にさ。両国共勘違いしてるんだよ。『敵は一人だけじゃない』」
魔王が、一人じゃない? どういうことだ。
驚く俺をよそ目にカズマは続ける。
「呼称が違うんだ。ロアダントでは『魔女』と呼ばれ、こちらでは『魔王』と呼ばれてる」
「待ってくれ! 今、『魔女』って言ったか!?」
「あ、うん」
「俺はそいつを知っている!」
魔女ルベリア。俺がこの異世界に呼ばれた原因でもある女。世界に災厄を呼ぶ者。
なんとなく、そいつが魔王軍の大将なんじゃないかとは思っていたが、まさか本当だったとは。
俺は女神から聞いた話をそのままカズマに伝えた。
「なるほど。それじゃあ、魔王の方が気になるな。魔王軍についてはまだ情報が少ないんだ。それに、女神さんの言っていた因果律の崩壊っていうのも気になるね。協力者もいるって言ってたし、まだ表に出てきていない人がいるのかもしれない」
ああ、そうだ。とカズマがこちらに向き直る。
「少し話が逸れてしまったね。兎に角、今君が気をつけるべきことは王城にいる人間だ。恐らくだけど、王城には二人、日本人がいる。今はその人たちが一番怪しいんだ」
「分かった。ありがとう」
礼を言い、腰掛けていたベッドから立ち上がる。
そして、
剣を抜いた。
切っ先をカズマに擬する。
疑念の浮上。
何よりも、こいつが一番怪しい。
「何の真似だい?」
「お前は誰だ?」
言の葉の刃。
突きつける。
「何故そこまで知っていて、且つ俺に教えようとする。教えたお前にも危険はつきまとう筈だ」
「僕はただのアダルトショップの店長だよ」
「とぼけるなよ」
柄を握る手に力が入る。
「答えろ。お前の目的は何だ?」
「…………」
数秒の沈黙。その後に、観念したようにカズマが呟いた。
「……なりたいんだ」
「は?」
「王様に、なりたいんだよ。僕は」
え、いきなり何を。
「そのためには戦争には終わってもらわなきゃいけない。君ならそれができる可能性がある。だから話した」
「そんな理由を信じろと?」
「いや、あとひとつある。僕が危険を承知で喋った理由。それは、君が好物件だからだよ」
「好物件? 異世界人なら他にもいるだろ?」
「ハハ、違うよ。……君、隠してるでしょ?」
「何をだ?」
「自分が本当は王族だってこと」
瞬間、その場にカズマを組み伏した。
知られてはいけない。まだ、束縛されるわけにはいかない。花梨を救い出すまでは――!
カズマが俺にしか聞こえない声量で呟いた。
「大丈夫。君の可愛いお連れさん達はぐっすり寝てるから」
続く形でカズマが言う。
「僕は一年くらい前にこの世界に来て、ある能力を手に入れた。特異体質って言うらしいけど。でも、異世界人の特異体質は種族ではなく個人の個性に由来するんだって」
「だから?」
「僕の能力は『情報銀行』。金次第でどんな情報でも手に入る能力だよ」
驚きに目が見開かれる。それは、まさに究極とも言える能力なのではないか。
「そう便利なものじゃないよ。けっこうお金掛かるし。魔王の正体とか調べようとすると王都中の金を集めても足りないよ」
そう便利なものではないようだ。だが、使える能力であるのには違いない。
嘘はついていない。俺の身分を知っていたのが何よりの証拠だ。
「この能力があれば内政チートしまくりだと思わないかい? それに、一度王様になってみたかったんだよね~」
こいつが何を考えているのかは理解できないが。
俺は目の前の王様願望の少年を解放してやる。
「と、いうわけで。頑張って僕を王様にしてくれよ。そうすれば黙っておくからさ。時期国王の候補者さん♪」
こいつは一体どこまで知ってるんだ。
「……協力はしてやる」
いや、せざるを得ないだろうな。
俺は横目で笑顔の少年を一瞥して溜め息をついた。
そういえば。
「なんか、最初に二つ忠告するって言ってたけど。もうひとつは何?」
「あ、忘れるところだったよ。ま、簡単なことなんだけど」
カズマが少し表情を曇らせる。
「さっき街中でシェイラちゃんを見たとき元気がなさそうだっから。まあ、広場であんなことがあったんだからしょうがないと思うけど。元気づけてあげた方がいいんでねーの、って話だよ」
「それができたらとっくにしてる」
っていうか、広場の観衆にお前も混ざってたのかよ。……わざわざ能力使うとも思えないし。
「取り敢えず、抱いておけばいいんじゃない?」
「氏ねよ」
「ウチの商品使う?」
「ふざけるな」
「困ったな。もう案が尽きたよ」
「お前には性的な発想しかないのか」
深く考えているのかいないのか。よく分からない奴だ。
「パーティーなんかはどうかな?」
「漸くマトモな案が出たな」
「やだなぁ、僕はまともな案しか出してないよ~」
「…………」
「ん、優クン?」
もういいや。
俺は威儀を正して問う。
「パーティーって言ってもどうするんだよ。ここは借宿だぞ? あまり騒げないし」
「そこで僕の出番さ~。僕の能力でシェイラちゃんの好物、好きなこと。全て調べてあげるよ」
ほんとチートだな、その能力。個人情報もへったくれもない。
カズマが虚空に指を走らせる。ホロディスプレイでも表示されているのだろうか?
「情報の獲得には銅貨10枚が必要だってさ」
シェイラの個人情報安っ! 日本円にして千円ほどだ。
「それくらいなら払うから。他にも有益そうなものがあったらとっておいてくれ」
「了解」
結局、銅貨30枚を支払った。
好物は焼き魚。
趣味は料理、編み物。
大勢で遊ぶのが好きらしい。
最初のは予想できていた。なにせ猫だしな。
「個人の感情までは知れないのが難点なんだよね」
そこまでできたら便利の域を越して気持ち悪い。
「まあ、兎に角。以上のことを踏まえた上でパーティーを開いたらいいんじゃないかな?」
「市場に魚が出回っているのかどうかは分からないな。大勢で遊ぶんだったらゲームとかか? こっちの世界にもゲームはあるのか?」
「魚なら確かあったと思うよ。ゲームの方は任せてよ。自前で作成したトランプがある。いずれ流行らせようと思ってね~」
「そうなると人数の確保か」
「僕を入れても四人だろ? あと一人は欲しいね」
「それは俺の方でなんとかしてみる」
「分かった。じゃあ、一時間後にまたこの宿に集合ね」
言って、カズマが退室した。
さて、俺もまた買い出しに行かないと。
~~~~~~
宿を出ると、空が暗くなり始めていた。もうすぐ大通りに出店している店も閉まる時間帯だ。急がなくては。
大通りに出る。昼間と比べると静かだが、通りはまだ賑わっていた。
取り敢えず美味そうな食材を片っ端から購入していく。途中、米が出品されていたので纏め買いしておいた。魚と言えば白米だよな。これで味噌汁があれば文句はないんだが。
通りの奥の方に雑多な魚を販売する露店を発見した。店仕舞いの前ということもあり、品薄の状態だ。
全部買い占めて足りるだろうか。
そんな時だった。
一人の男がその店の前で立ち止まったのだ。
そして、一匹の魚を指して口を開こうとする。
させるか――ッ!
店との距離は数メートル。今から走っても遅い。では、どうするか。答えは簡単だ。
――魔眼、発動!
左目に神経を注ぎ、体感時間を停止させる。止められる時間は六秒だけ。
俺は身体強化の魔術を自身に施し、一瞬で店の前に到達して男の指の先の魚をひったくった。
そして、時が回り始める。
「この店にあるやつ全部くれ!」
我ながら卑怯だったと思う。
~~~~~~
店主のおっさんと客の青年に唖然とした表情で見送られ、俺は帰路についた。
必要そうな物は大体買い終えた。プレゼントに高価な装飾物も買ったし大丈夫だろう。
これで元気になってくれればいいんだが……。
「ん?」
ふと、目の前を歩いて行った人物に心辺りがあった。
人通りの少ない道で一人歩く白い鎧の女性。見間違える筈がない。
「聖騎士さん」
広場での喧騒を収めてくれた良識ある女性。聖騎士さんだった。
本当にしょうもないことに魔眼使いましたね。
次回予告(嘘)
何故カズマは王になりたいのか。その真相が明かされる――!
「内政チートやり放題とか。どうせその程度だろ?」
しかし、彼は俯いたまま答えない。そして短く呟く。
「わたしは、優しい王様になりたいのだ」
「ごめんソレ王様違いだわ」
次回、聖騎士さんも加えてのパーティー開催! リーザックも加えようと思ってたけど知らない間に犯罪者になってしまってたので無理でした!(おい)
金色のガッシ○は面白かったです。




