036.馬を買いました
少し少なめです。
「それでは」
「ええ、ウチの団員がご迷惑をおかけしました」
軽く会釈してから広場を去った。
とても話の分かる人だった。魔族に対する偏見もないし、常識があった。職務に対して真摯なのだろう。
「ユー……」
ミルが上目遣いでこちらを見上げた。その瞳には不安の色が混ざっていた。
広場であんなことがあったのだから、当然のことだろう。隣のシェイラも俺の服の裾を握ったきり、俯いている。
沈滞とした重い空気のまま、大通りを抜けていく。
その間に色々な話題を振ったが、反応したのはミルだけだった。彼女は俺の意図を汲み取り、シェイラを励まそうと明るい話題を振ってみたりしていたが、効果は皆無。殆んど無反応だった。
…………非常に辛い。普段明るい人が急に静かになるとこう感じるのだろうか。
結局、シェイラが元気を取り戻すこともなく厩舎に辿りついた。馬屋と言った方がいいのか。
馬屋は街中のレンガやタイル主体の建物と違い、木材が多く見られる建物だった。この世界にどの程度の技術があるのかは分からないが、ベニヤ板なんかも見られた。屋根は赤塗りで壁面は白色。昔見た農場の厩舎みたいだ。というか、外面だけならソックリだ。
早速中に入ってみる。シェイラの様子も気になるので出来るだけ手短に終わらせたいものだ。
「どのような馬をお探しでしょうか?」
「ああ、行商で使うような馬はありませんか?」
恰幅の良い馬屋の店主が得心のいった様子で相槌を打つ。
「馬車を牽引するための馬でしょうか?」
「それ以外の馬があるのですか?」
異世界といったら馬の用途はひとつだけだと思っていたが。どうやら勝手な思い込みだったようだ。
「ええ、闘馬というモノがありまして」
闘牛みたいなものかと思っていたが、違った。聞くところによると、馬の名前が記載された賭け札、チケットを買い騎手により操縦される数々の馬がレース上を駆け一位を争う競技だそうだ。つまり、まんま競馬。この世界にもあったんだな。
店主に馬車を引くための馬だと伝え、馬車の全容を口頭で伝えておいた。
「なるほど。そのくらいの大きさならこちらの馬が合うかと」
言って、指し示したのは、宵闇を閉じ込めたような艷やかな毛の黒い馬。並ぶように、赤毛の馬とよく見られる茶色の馬が。
白と茶色の毛並みの馬はあさっての方向を向いているのに対して、黒い馬は食い入るようにこちらを見つめていた。まるで、買えと言わんばかりの表情だ。
店主のおっさんが白と茶色の馬を指してなんか言ってたが無視。そんなことよりこっちの黒い奴の方が気になる。
「店主さん。こちらの馬は?」
俺が尋ねると、店主は大げさに手を広げた。
「お客様はお目が高い! そちらの馬は先日仕入れたばかりのものでして。普通の馬とは耐久力、走力共に段違いな性能を誇ります。ただ……」
「ただ?」
高いとか、そういう問題だろうか。
店主が残念そうに眉間に皺を寄せる。
「こちらの馬、アルバ種というのですが。この種の馬は乗り手を選ぶのですよ」
「つまり、買いたくても買えないと」
「そうなりますな」
不格好なチョビ髭を撫でながら店主が言った。
「残念だな」
シェイラに声を掛けたが、相変わらず反応はない。
代わりにミルが反応した。
「あの馬車を引くだけならこんな立派な馬じゃなくてもいいのよ?」
「うーん、それもそうなんだが……」
俺はダルクに戻ったら、時を見計らって再び王都に戻ろうと思っている。それ以降ダルクを訪れるかは不確かなので馬車を借り受けることはできない。歩きでもいいがシェイラにも負担が掛かるだろうし、金もあるので馬車を買った方がいいのかもしれない。
「俺も馬車を買うことにするよ。村の分の馬も俺が負担するから安心して」
俺は約束を反古にするような不届き者ではない。
ミルは少し不機嫌に言葉を返した。
「そのくらいは分かってる。それで、どのくらいの大きさのものを買うの?」
「今あるものより少し大きなものかな」
五、六人は余裕で入れるような大きさがほしい。
店主に馬車を売っているところを聞くと、知り合いに馬車を扱う業者がいるらしいので大体の大きさを伝え発注してもらうことにした。明日の朝にはここに着くらしい。
と、なると後は馬の方だな。
「ミルはどれがいい?」
「これかしら」
ミルが指差したのは赤毛の馬だった。アルバ種ほどでもないが、平均以上のスペックだそうだ。銀貨40枚だった。日本円にして40万というところだな。躊躇いもせずに払えるところ、だんだん金銭感覚が狂ってきているところが窺える。
「あとは俺の分だけだな」
放心状態のシェイラをおいて事は進んでいく。
俺がどの馬にするか悩んでいると黒毛の馬、アルバ種の馬がじーっとこちらを見ていることに気づいた。
そういえば、こいつは俺がここに来た時からこっちを見てたな。店主は乗り手を選ぶとか言っていたが、もしかすると……。
試しに頭を撫でてみた。拒否する意思はないようで、されるがままだ。撫でられると気持ちいいのか、目を細めている。
「こちらの馬は彼の有名なソンフォングリ種でして、アルバ種に次ぐ脚力を誇ります。アルバ種に若干劣りますが、アルバ種とは違い乗り手を選ぶなどということはありません。また……」
「店主さん、こいつくれ」
尚も惹句を吐き続ける店主に買取の意思を示した。謳い文句が冗長でウザかったので敬語を付け忘れてしまった。
店主は俺の言葉に驚き、続いてアルバ種である馬が俺に懐いているのを見て更に喫驚した。
「こ、これは珍しい……」
「あれ、売る気はなかったんですか?」
多少人に懐きにくい馬だと思っていたが、店主の驚きようからするとそれ以上のようだ。
「飽く迄も看板用ですよ。客寄せのために買ったに過ぎません。まさか、売れるとは思いもよりませんでした」
「いくらでしょうか?」
「アルバ種は希少種なので、金貨1枚といったところでしょうか」
「随分とお高いんですね」
「何分そこらの馬とは違いますし、アルバ種は血統が重視されますからね。他の種と混じったものは売りに出せないんですよ」
なるほど。道理で高いわけだ。
俺は素直に言い値を支払い、馬の血統書? らしき書類を受け取り所有権を証明する書類にサインした。金貨クラスの買い物をする際には証文を書かされるようだ。武器屋の天音はやっていなかったが。
後日配送される馬車は業者の方との直接交渉で値段を決めることになっているので、その時に合わせて馬を引き取ることにした。
さて、馬を予想より一頭増やすことになったのでまた買い物に行く必要性が出てきた。
馬屋を出て、シェイラとミルに先に宿屋に戻るように指示しておいた。シェイラは上の空だったが、ミルが頷いていたので大丈夫だろう。
その後、大通りで新たに必要になった物を買い揃えること一時間。日が傾き始めたので急いで宿屋に帰る。
宿屋の横にある小ぶりな厩舎には馬のいない馬車が放置されている。俺達のだ。これを見ると明日馬が来るのが楽しみになる。
宿は先払いだったので、預けておいた鍵を貰って指定された部屋へと向かう。部屋は当然二つ借りてある。大部屋と小部屋の二つだ。大部屋はシェイラとミルに。俺は小部屋で十分だ。
ギシギシと軋む木製の階段をのぼり二階の部屋へと向かう。
目当ての部屋の前で鍵を取り出し、扉の鍵穴の部分に差し込む。ガチャりと簡素な音が鳴り扉が開く。
本来なら誰もいないはずのその部屋。
しかし――
「やあ、君が来るのを待っていたよ」
そこには昼間会った赤髪にサングラスの男。
俺と同じ異世界人のカズマがベッドに腰掛けていた。
普段書く感じの文章は書く方も読む方も面倒かと思い、少し書き方を変えてみました。最初からこうすればよかったかも。思った通りに展開が進む……。
次回予告(嘘)
ユーの部屋にいたカズマ。彼の狙いとは一体――!?
「いや、その前にコレ不法侵入だって」
「君は細かいところにこだわるね~」
「不法侵入は歴とした犯罪です」
するとカズマはチッチッチッと指を振った。
「ユー君、君はここがどこだか忘れているんじゃないのかい?」
「まさか……」
「そう、ここは異世界! 日本の法律が適用されるわけないじゃないか!」
「女将さん~、侵入者です~」
「あっ、ちょっ、ごめんって!」
異世界でも犯罪は犯罪です。
次回、シリアスな感じて幕閉めたけど次回はただのサービス回です。ヒロイン達はひんぬーだけだがな!(ドヤァ
どうでもいいですが、この回になって主人公は初めて宿屋に泊まりました。




