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異世界魔眼魔術師の軌跡 旧名:6seconds  作者: 結城紅
第一・五章 ~ダルクでの騒動~
35/41

034.噴水広場の騒動

連続投稿の前半部分です。

 木造の店内。落ち着いた色合いを演出し、シックな雰囲気を醸し出すそれはしかし委細構わず種々雑多と陳列されるモノの所為で形無しとなっている。


 店主はその様相を危惧するでもなく、寧ろ楽観的に、能面のように笑顔を貼り付けて看過していた。

 店内に並ぶのは子供には刺激が強すぎる物ばかり。

 それは……俗に大人のおもちゃと呼ばれるものだった。


「何をお求めでしょう「帰るぞ」ちょっと待ってよ」


 背を向けた俺に静止の声を掛ける店主の少年。


「……ここに用はない。ウチの弟子に変な知識を植え付けたくはないんでな」


「うん、だからいいって。何も買わなくていいからさ、お話ししよう。ね?」


 へらへらと、しかし媚びへつらうものとは別種の笑みを浮かべる店主。

 異世界には存在しないであろうシャレたサングラスに赤髪が目立つ俺と同年代程に見える少年。その容貌は一目で俺に日本人と理解させるには十分だった。


「君も日本人なんでしょ? 奥に賓客用の客間があるからさ、そっちに行こう。それなら問題ないでしょ?」


「ああ、それなら」


 状況が変わった。

 俺はシェイラとミルを引き連れて店主の案内に従う。


 カウンター裏を通り、壁を一枚隔てた先にあったのは予想に反した立派な客間だった。


 壁際には煌々と燃える暖炉、金箔に縁どられた燭台、部屋の中心には豪奢な真紅のカーペットが敷かれている。その上を横幅の広いシックなローテーブルが陣取っており、更にその横には対面するような形で金糸の刺繍の映えるソファーが配置されていた。

 総体的に絢爛豪華を彷彿とさせる一室だった。一介の商人が持つような部屋ではないだろう。


「儲かってるんだな」


「僕は日本人だからね。日本人にしかない発想で儲けてるんだ」


 それがアダルトグッズというのはいただけない。日本人(主に異世界トリップした人たち)の品性が疑われる。


 店主は俺とシェイラたちに着席を促し、奥に消えていった。

 そして、戻ってきた時には洋菓子とティーセットを片手に持ってきた。

 銀のトレイとは、これまた高級な。

 出された紅茶を薦められるままに飲み、一息つく。とてもこの裏にアダルトグッズがあるとは思えない。


「あ、あの……」


 ティーカップを可愛く両手で持ちながらシェイラが緊張した面持ちで尋ねた。


「このソファーとか、カーペットとか、高級な物が沢山あるってことは儲かっているとは思うんですけど。なんでこんなに高級感ある感じにしたんですか?」


「確かに。アレを売るだけにゃらここまでしにゃくてもいいと思うにゃ」


 当然の疑問だろうな。

 大人のおもちゃとこの部屋の関係性は一見何もない。だが、俺には分かる。


「客層、だろ?」


「う~ん、正解!」


 アハッと一層相好を崩す店主。

 俺は疑問符を浮かべるシェイラとミルに諭す。


「アレの需要と値段を鑑みるに、客の大半は貴族等、金持ちの輩だと予想できる。貴族だったら本妻以外にも妾が複数いる場合があるから、あの手のモノは情事に打って付けなんだと思う」


「そう、その通り」


 うんうんと満足げに首肯する店主。


 人間誰しも衣食住の他にも満たそうとする欲がある。それが何なのか敢えて割愛させてもらうが、そのリビドーに突き動かされてしまう時がある。例えどんなに高貴な身分であろうとな。店主の店はその虚を突いた商売だったわけだ。


「貴族なんかが客層だったら、顧客にするためにも信頼を得なければならない。具体的には、儲かっているのか否か」


「あっ、なるほど! だからなんですね!」


 シェイラが得心のいった表情でポンと手を打った。


「こういう高級感の溢れる一室にゃらば、例え儲かってにゃかろうと錯覚してしまうにゃ」


「まあ、一種の接待だよな」


「そうだねー。全部優君の言う通りだよー」


「ああ……って、は!?」


 何故こいつが俺の名を知っている?

 少年店主は笑みを崩さず不敵に笑った。


「なんでだろーね。ただ、ひとつ言うと王都は僕の庭っていうことかな」


「…………」


 一体何をしたのかはうかがい知れないが、天音が彼を嫌う理由が分かった気がした。


 以後、沈黙が続く。その間店主はずっと「うふふ……」と気味の悪い笑みを漏らしていた。

 俺はあまりの居心地の悪さに腰を上げた。


「あれ、もう帰っちゃうの?」


「これ以上ここに居ても仕方がないんでな」


 買う物もないし。

 俺に続く形でシェイラとミルが立ち上がる。


「最後に、あんたの名前を教えてくれないか?」


 残った紅茶を一息に呷り、尋ねた。

 店主は機嫌を損ねることなくにこやかに告げた。


「僕の名前は瀬川和馬。この店の他にも喫茶店を営んでいます。カズマって呼んで」


「わかった」


 承諾し、部屋を退室した。

 店の入口まで店主……カズマは見送ってくれた。

 変わった奴だったが、根はいいのかもしれない。

 奇妙な感慨を抱きつつ、俺は赤髪が特徴的な日本人の店を後にした。 


 



 喧騒に満ちた王都の大通り。俺はシェイラとミルにせっつかれお忍びの買い物に繰り出していた。


 王都は物資の流通が盛んなので、彼女たちが品定めに飽きることはない。あのネックレスが可愛いだとか、いやこのブレスレットの方が良いだとか、シェイラとミルが楽しげに談笑していた。いや、それはいいんだけど……。

 俺は果てしなく暇だ。

 彼女とのデートでブティックに行った彼氏はこんな気分になるのだろうか。俺彼女いなかったから分かんないけど。

 まあ、兎に角暇なわけだ。


「シェイラ、あまりお金を使いすぎるんじゃないぞ」


「分かってますって~」


 一瞬こちらを振り返るも、即座に視線を正面の小物に戻しミルと談笑に興じるシェイラ。

 パパは寂しいよう……。


「シェイラが親離れしてしまった……」


「師匠、何言ってるんですか……?」


 シェイラの胡乱げな視線が冷たい。




 結局、二人の買い物が終わったのは二時間もした後だった。これでも早い方なんだとか。遅い時は一体何時間掛かるのだろうか。……想像もしたくない。

 そういえば……。


「ステファン(馬)が逝去なされちまったから、帰りの馬がいないな」


「ステファン……にゃにそれ?」


「死なせちまった馬の名前くらい覚えておけよ……」


 思惟するミルに呆れの息と共にツッコミを入れる。


「帰りも師匠が引っ張るんですか?」


「いや、それはやめた方がいい」


 嫌なのではなく、不味いのだ。


「今は俺がいるから馬車を引っ張れるが、馬がいないとなれば俺がいない時にはあれを引っ張れなくなる」


 つまり、ダルクの集落の人たちが迷惑するということだ。

 ミルが不機嫌に鼻を鳴らす。


「じゃあ、どうするにゃ? ミルには馬を買うお金にゃんてないにゃ。村のお金を使うわけにもいかにゃいし」


「ああ、だから俺が買うよ」


「「え!?」」


 シェイラとミルが同時に驚愕する。


「い、いいのかにゃ?」


「ああ」


 金なら腐るほどあるからな。


「そ、そうと決まったら……」


「ああ、早速売店に行こう」

 話しの流れで馬を買いに行くことになった。

  


 余談だが――肝心の天音とカズマの異世界トリップ方法は奇しくも俺と同じであったという。指定された時刻と場所に来ると他にも人がいて、不思議な声と共に突然異世界に跳ばされたらしい。どうやらこの世界には他にも日本人がいるようだ。

 っていうか、願い人に当選しても結末は変わらないんだな。





 馬を扱う店は王都の中心から南東の位置にあることが判明した。俺達一行が馬車と御者台を置いてきた宿泊予定の宿屋のすぐ近くにある。馬を移動させる手間が省けた。ありがたい。


 今いる場所から店に向かうには王都の中心部にある噴水広場を通ることになる。この広場からは通路が放射状に伸びており、王都のあらゆる場所に通じている。そしてご丁寧に、王都に来て日の浅い人間でもどの通路が何処に通じているのか分かるように立札などの配慮がなされている。また、交通の便が良いことから露商が店を構えていたり、待ち合わせ場所などにも使われ、広場は常に混雑している。

 


 俺たちは行きに通過した噴水広場に再び戻って来ていた。予想通り、広場は人の群れでごった返している。


「シェイラ、ミル。人に当たってもいいようにフードを深く被っておけ」


 これだけ人がいるとなれば接触は避けられないだろう。

 俺は二人に注意を喚起した後に、はぐれないように固まって移動を開始した。


 ……本当に色んな人がいるな。

 視界に入る人だけでも、一般人、商人、冒険家……そして騎士などが見受けられた。

 騎士……か。王都の巡回中なのだろうか。

 向こうからもひとり騎士が歩いてきた。その顔には明確な苛立ちが浮かんでいた。


 先頭を行く俺はぶつからないように左に重心を傾け衝突を回避した。ミルも同様に躱したが、シェイラが僅かに身体を当ててしまった。だが、フードが外れるには至らない。


(よかった……)


 しかし、安堵も束の間……


「おい、貴様!」


 爬虫類を思わせる切れ長の双眸を一層眇めて、騎士がシェイラの肩に手を掛けた。

 シェイラの肩がビクリと震える。


「は、はい……」


 おっかなびっくり振り返るシェイラ。しかし、それがいけなかった。


「貴様、人に肩をぶつけておいてなんだその態度は」


 恐らく、彼はシェイラを謝らせようとしたのだろう。だが、今の彼女はフードを目深に被っているので顔を窺うことが出来ない。それが騎士の怒りに拍車をかけた。

 このままではいけないと、俺はすかさずフォローに入った。


「すみません。こいつ人見知りなもので……」


 その気になれば騎士を黙らせることもできたが、目立ちたくはないので下手に出る。しかし、それでも騎士の怒りは治まらなかったようで……


「騎士に向かってその無礼はなんだ! 貴様が顔を見せぬというのなら……その姿を晒してくれる!」


 騎士はこちらに一瞥もくれずに、素早い動きでシェイラのフードを剥いだ。

 瞬間、彼女の顔が日の下に晒される。


 整った相貌に血色の良い肌、猫を想起させる切れ長の瞳に柔和な口許。そして――猫耳。その両耳は、彼女が魔族であることを如実に示していた。

 歴然たる事実は覆すことが出来ない。例え、ケットシーが人権を認められていても忌避されることには変わりない。

 動揺が波となって波紋が広がるように観衆に伝染していく。


「ま、魔族だ!」


 誰が言ったのかは定かではないが、言葉には民衆を扇動するには十分な響きがあった。

 広場は瞬く間に興奮の坩堝と化し、逃げ惑う群衆が我先にと駆け出していく。中には獲物を抜く冒険者もいた。


 傍らのシェイラを見遣ると、地に膝を落とし静かに泣き崩れていた。その横でミルがフードを剥いだ状態でシェイラを慰めていた。俺はミルの優しさに泣きそうになり、騎士と世の中の魔族に対する勝手な偏見に壮絶な怒りを覚えていた。


「なんで……なんでだよ」


 あまりの怒りに肩を震わせる。騎士は俺の肩にポンと手をのせると清ました顔で言い放った。


「君は下がっていたまえ。奴らは危険だ」


 先程の俺のフォローに耳を貸していなかったのか、俺を彼女とは無関係の他人と思い込んでいた。

 勝手な思い込み、そして彼女たちを「奴」呼ばわりしたことに更なる激情が裡からせり上がる。


「おい、おっさん。訂正してもらおうか」


 俺は今にも剣を抜き放とうとする騎士の肩に手を掛けた。


「何をだ……?」


 訝る騎士。


「あんたが彼女たちを奴呼ばわりしたこと。敵とみなすこと、全部だよ」


「いや、魔族は危険なんだ。君は下がっていなさい」


 俺は尚も食い下がる。


「ケットシーの人権は認められているはずだ」


「危険なのには違いないだろう」


 言葉と同時に騎士が抜刀。最早討論する余地はない。

 泣き崩れるシェイラに近づく騎士。ミルがシェイラを庇うように行く手を塞いだ。


「あたしたちは何も悪いことなんてしていない。あたしたちが裁かれる謂れはないはずだ!」


「お前たちが危険なことに変わりはない」


 ミルの必死の言葉を荒唐無稽な言い訳で一蹴。華美な装飾が施された片手剣が構えられる。

 そして――


「くたばるがいい」


 一直線に駆け出した。

 だが、遅い。あまりにも遅すぎる。


<身体強化>(コルペ・ロブル)


 俺は既に臨戦態勢を完了していた。

 無詠唱で魔術を発動。魔力の二割を注いだ魔術は容易に騎士の行く手を阻むことを可能にした。


 刃が衝突し、辺りに金属音を撒き散らす。コバルトブルーの刀身越しに騎士の驚愕の表情が見て取れた。


「少年よ。邪魔立てするならば、私は少年を斬らなければいけなくなる」


「あんたに俺は斬れねーよ」


 両者の刀身がせめぎ合い、不協和音を奏でる。相手も強化魔術を施しているようだが、俺の人外の魔力量の前には非力過ぎた。鍔迫り合いは一瞬にして相手方の方に傾いていく。


 天音から購入した剣――ブルーコメット(青い彗星)――は俺の全力に耐えうる耐久度を備えていたため、俺が力を出し切っても破損することはない。俺は容赦なく剣に力を込める。


「くっ――」


 苦悶の表情で騎士が後退した。

 本来ならここで追撃の魔術を繰り出したいところだが、俺が魔術師だと知られるのは不味いので(身体強化程度の魔術であれば魔剣士と誤魔化せる)、強力な攻撃魔術を出すことが憚れた。


 怒りに身を燃やしつつも冷静に、俺は睨めつけるように騎士を観察する。

 余裕の構えをとる俺に、騎士は口惜しげに告げた。


「少年よ。どうなっても知らぬからな……」


「それはこっちの台詞だ」


 騎士が再び構えをとり、俺も同時に剣を、切っ先を石畳に向ける形で左腰に宛てがった。

 居合の構え――

 俺はモノクル越しに魔眼で騎士を睨み据えた。


「死んでも恨むなよ……」

 久しぶりの戦闘シーンです。前回、何かやるといったので、本来なかった戦闘シーンを追加、そして短いですが追加の更新を行います。


次回予告(嘘)

チートを駆使して勝利したユーは騎士に命じる。

「土下座しろ」

「くっ……」

 歯を食いしばる騎士にユーは非常な言葉を浴びせかける。

「土下座しろ! 大和田ぁぁぁぁッ!!!」

「う、うおおおぉぉぉぉぉッ!!!」

 化け物じみた咆哮を上げ、騎士……もとい大和田は頭を垂れた。


 次回、半沢直樹は最終回しか見なかった。なんで大和田が土下座するだけで化け物みたいな声を上げるのか理解できなかった。いやほんとなんでだろ。

 すいません、ネタが思いつかず短いです。 

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