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異世界魔眼魔術師の軌跡 旧名:6seconds  作者: 結城紅
第一・五章 ~ダルクでの騒動~
32/41

031.商談と手掛かり

大幅に遅れてしまい、申し訳ございません。

 一言でいえば、それは悪魔だった。


 それは平穏を紙切れ同然に裂き突如として現れた。例えるならそれは自然災害のようなもので、予測出来ない不可避の事故のようなものだった。

 事後の今からすれば、自分より年下の悪魔に何故あそこまでしてやられたのかがよくわかる。

 理由は単純だ。何故あの場において知覚できなかったのが不思議なくらいに。

 それはただ単に、およそあの場に必至とされていたもの。――知識、経験、度胸、修辞、閃き、対応力、交渉力、カリスマ、全てにおいて彼に劣っていたということだけ。


 悪魔のネゴシエーターにしてやられ、気絶にまで追いやられた確固たる敗北。そう、自分は敗北者だと彼女は歯噛みした。

 10何年間の矜持をあたかも茅屋を吹き飛ばすように一瞬にして灰塵に帰し、積み上げた功績を否定し存在さえも認められないような閉塞感と憎悪が同居する。自分を責めたくなる自害の念と保身に走る頭脳、貶めた本人に対する叛意。アンビバレンスな感情は複雑に溶け合い、且つ遊離し明確な意志となって彼女の中で目を覚ます。


 アイソレーション。孤独。他と一線を画す決意をした彼女はそれを意識し、受け入れた。

 自らの失態によって、ギルド長の手を煩わされる結果となってしまった。自分が後ほどどのようなお咎めを受けるのは知らないが――。


 ――あの少年にだけは、どうしても一矢報いなければ。


 痛みや苦痛はその後に受難すれば良い。その前に貶された苦渋の汁を甘美で濃厚な(優越感)に変えて。


「フフフ、フハハハハハァッゲハッゲホッ」


「ちょっと、リリルちゃん!? 大丈夫?」


 職場における同輩が駆け寄り背中をさするが、それを意に介さずリリル――先刻ユーによって壊されたギルドの受付嬢――は口許に歪んだ笑みを浮かべた。


「フフフ、許さない。万物の理をもち、疾くとして貴方の面前に旋風の如く現れ聖なる裁きの紙片に名を刻ませよう。この私を辱めた礼はきっちり返すわ。フフフ……」


 妖艶に笑っているつもりなのだろうが、傍から見ても痛々しく気味が悪い。

 そして、意味不明な言葉は少年に対する婉曲的な恨み言。要は、ギルドの権限使ってでも貴方の前に裁判用の書類を突き出し署名させてやる、ということだが。それにしても随分な壊れようだった。もちろん、ユーにはなんの非もない。ただの逆恨みである。そもそも示談を持ちかける発想すらないところ、彼女は些か興奮していた。


 更に言えば、彼女には何の力もない。物理的、社会的に於いても何の力をもっていない。

 彼女はまさしく、壊れていた。いや、壊されていた。言動共に病んでいるのが何よりの証左。


「さあ、貴方の心に癒えない傷をつけてあげる。その偽りの仮面(笑み)を剥いでやるわ」


「り、リリルちゃん? 大丈夫?」


「待っていなさい。聖なる御言葉で貴方の矜持を蹂躙し栄華を略奪してあげる」


 説教した上に慰謝料をもらうと。

 彼女は完全に中学二年生特有の病に感染してしまっていた。


「リリルちゃん? 頭打ったの? お医者さん呼ぶ?」


「フフフ、今の私を衆愚と一緒くたにされては困る」


「ねえ、今私に失礼なこと言わなかった?」


「フフフ……」


 今ならなんだってできそうな気がする。

 別段なにもしてはおらず(寧ろされた)、万全を期したわけでもない。それにも関わらず、倒錯的なまでに自信が漲り、彼女を陶酔させていた。

 休憩室のドアノブを握り、復讐の念と共に回す。

 途端――。


「あ?」


「へ?」


 俄かに少年の顔が視界に映じたではないか。

 受付嬢が意を決して少年を睨み据える。そして、懐に溜め込まれた憎悪を連ねた悪口雑言を吐き出すよりも先に――。


「悪かったな」


「へ?」


 少年が謝罪した。

 大して悪びれてはいなかったが、予想だにしなかった言葉に受付嬢の思考はフリーズ。そこに、


「急に目の前で倒れて驚いたよ。でも、それ以上に心配だった。怪我とかない? 医療費なら出すから」


 優しい言葉を掛けられ、言葉を発する機会を失う。それに加え少年の全てを許容するかのような笑み。至近距離によって感じる相手の息遣い、端正な容貌、声音。呼気が触れ脳が沸騰する。


「りゃ、らいじょうぶれす!」


 気づけば呂律は回らず相手の顔から視線を逸らす始末。なんとなく恥じらいを覚えつつ少年を視界に入れると、途端に彼は華やかな笑みを浮かべる。


「そっか、それなら良かった」


 彼女の動悸が激しく乱れる。同時に、憎悪の念が思慕の情に塗り替えられる。


「じゃあ、俺はもう行くね」


 少年が背を向け距離が離れる。

 少年が場を離脱した瞬間、受付嬢リリルは赤面しその場に尻餅をついていた。

 ――彼女は単純故に堕ち易かったのである。

 少女を背に少年が呟く。


「恐ろしいまでにチョロかったな……」


 少年は魅了の魔術を試していた。身内に使うわけにはいかないので、手頃な実験相手として彼女に白羽の矢が立ったわけである。

 ……つくづく不幸な女性である。

 これが後に少年がギルドで好待遇を受ける要因であったりする。



~~~~その十分前



「単刀直入に問おう。いくら欲しい?」


「爪一枚につき金貨15枚」


「それは無理な相談だ」


 目前に巌の如く居座るのはギルドに於いて最高権力を持つギルド長。支部の長と思っていたが、話を聞くところによるとギルド全体の長だった。

 雑談もそこそこに商談が展開される。しかし、今度ばかりは余裕をこいていられない。相手は相当場数を踏んでいる。その証拠に、言い値を無理と一蹴した。

 ならばこちらも妙手を打つとしよう。


「そうですか。それならば私はこれを他の所に持っていくだけです。貴族のような身分の方には大層評判が良いでしょうから、きっと高値で売れることでしょう」


「かもしれんが。その場で直ぐに大金を卸すことは不可能だな。貴族は通常富を分割する。別地方のギルドに預金したり、実物資産に変えたりしているのが殆んどだ。破産した際に常々備えているのさ。竜種の素材を購入するとなれば、金を用意するのに最低でも一週間近くは掛かるだろうな」


「……そうですか」


「見たところお前たちは今すぐにでも金が欲しいのだろう? でなければ貴族のところに行くなり高名な武器商のところに持って行っているはずだ。その方が得策だからな」


「…………」


 俺はただ黙して男の話に耳を傾ける。


「それに、金貨15枚はふっかけすぎだ。相場が金貨1枚の代物に15枚も払う馬鹿はいねぇよ。高くてその五倍だ。そこで、だ」


 緊迫した表情が一転、破顔する。


「ウチは6倍出そう。これでどうだ?」


「駄目だ。最低でも10枚。これは譲れない」


「だからそれは無理だと……」


「いや、安いさ」


 不敵な笑みに対し、こちらも相応の態度と笑みを浮かべて応戦する。


「Sランクの冒険者を鎖につなぎ止められるんだ。寧ろこれは破格な値段だと思えるね」


 そうでしょう? にこやかな笑みと共に言葉を放つ。ぶっちゃけ、もうギルドにはあまり来ないだろうから何言われても大丈夫だという腹積もりもあったが。


「ギルドとは懇意でありたいですからね」


 止めの一言。


 つまり、対応次第では敵になるとの脅迫。相手もそれを重々承知しているのだろう。これはピンチであると同時に千載一遇のチャンスでもあるのだから。

 ギルド長が禍々しい笑みと共にこちらを一瞥する。


「小僧……わしを手玉に取るつもりか?」


「いやだなー、私ごときがそんなことできるわけがないじゃないですか~」


「フンッ、飽く迄もとぼけるというわけか」


 向けられた殺気が霧散し、肩の荷が降りる。尋常じゃなかったな、今の。

 背後に屹立するシェイラとミルは完全に硬直し、小刻みに震えていた。最早、ただこの場に留まり続けるオブジェと化している。

 フーッ、という肺から絞り出したような諦念の滲んだ溜め息が吐き出される。無論、ギルド長のものだ。


「仕方ない、要求を飲もう。ただし、このギルドに来る度にわしに顔を出すこと。よいな?」


「ええ、もちろん」


「それと、爪以外の素材じゃが……。目玉はひとつ金貨20枚。よいな?」


「ええ」


 目玉ひとつで日本円にして二千万円の稼ぎ。あまりの大金に金銭感覚が狂いそうだ。

 そして、爪がひとつ千万。それが20枚。合計で二億四千万の稼ぎになる。角と牙は武器の素材に使えそうだからとっておいてあるにしろ、爪と目玉だけでこの額は凄い。

 まあ、とりあえずこれで当面の目的……金銭については解決した。さっさとこの場を去るか。


「それでは、私共はこのへんで――」


「まあ待て。小僧、その黒髪珍しいな」


「……そうでしょうか」


 確かに、この世界の人間はバタ臭いのが殆んど。シェイラは茶髪、ミルはオレンジ。俺みたいに日本人然とした黒髪は殆んど見かけない。


「聞くところによると、千年前の勇者様――アキト様も黒髪だったとか」


「…………」


 疑われているのか? 何に? いや、それ以前に、アキトっていうのは勇者だったのか? 黒髪ってことは俺と同じ日本人だったのか? 駄目だ、情報が足りなさ過ぎる!


「この街にも他に二人黒髪の奴がいる。二人共商人だが……黒髪の奴らはなんで皆異常な才能をもっているのかね?」


「…………」


「伝説によると、勇者様は異世界から召喚されたんだとか。もしかして小僧、お前――」


「何が言いたいんだ?」


 百戦錬磨の将の慧眼は誤魔化せないのか。俺は言葉を遮り、恐らくは提示される要求を飲み込むことを覚悟した。まさか、初日からいきなり何か命令されるとは思わなかった。


「やはり、表沙汰にはされたくないようだな。その点は他の奴らと一緒か。まあいい。ギルドで手こずっていることがあってな。討伐依頼なんだが、王都の治安に関わる問題で解決できないとギルドの体面に差し支える。そこで、だ。気が進んだり、こいつらを見かけたりしたら躊躇わずに討ってくれ。生死は問わない。無論、報酬は出す」


 そう言ってギルド長が数枚の紙片を取り出した。


「盗賊団なんだが……リーダーが黒髪の奴で恐ろしく強いんだ。他にも、強盗殺人者、強姦殺人者、鍵開け師、放火魔、通り魔など複数人が指名手配されている」  


 渡された紙の内、ひとつに自然と視線が吸い寄せられた。

 天才鍵開け師。盗賊団の盗みの中枢を担っていた存在。副将にまで上り詰めた猛者。その名前欄に……。


 リーザック、と記載されていた。

 と、とりあえず商談は終わりましたよ? 半分約束守れたヨ? はい、すみません。

 ギルド長のおっさんが予定にないことベラベラ喋りやがった所為で長くなりました。次回はほのぼの回の『予定』です。もう、完全に信用できないですね。


 次回予告(嘘)

「う、嘘だろ……リーザックが?」

 愕然とするユーは藁にでも縋る気持ちで犯罪の内容を記した欄に目を向けた。

 ――俺は信じている。リーザックは悪い奴じゃないって。きっと、しょうがない事情があったんだ!


 犯行内容

・女性の自宅に侵入し下着を盗むこと13回。

・街中で盗んだ下着をバラまき義賊を気取ること6回。

・女性の風呂場を覗くこと5回。

・女性のスカートをめくること57回。

・特定の女性をストーキングすること23回。


「あ、こりゃ無理だわ」

 こうしてユーはいとも簡単に友人に見切りをつけたのであった。


 次回、試験が終わったと思ったら土曜に学校だと!? 受験生の為に設けた見学日なのに台風の影響で中止、でも授業はあるよ! ファーーーーwwwww


 次回予告(嘘)ってあった方がいいですか……? 誰か、答えて(泣)

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