029.ギルド登録
お久しぶりです。
やっとらしくなってきました。
民主主義。
平等を訴えた末に出来上がった民衆の理想。不平等、格差を嘆き謳った弱者の崇高な盾。愚者や悪の独占の一切を一蹴する盾はしかし時に個人を押しつぶす刃ともなりうる。
民主主義の代名詞とも言っていい『多数決』、大衆の思惑を取り入れる反面個人の思想、私見を蔑ろにする刃。盾は裏返すと刃と化す。
多数決の必要性は果たしてあるのだろうか。いや、ない。
何故ならば……。
「ツイてねぇ……」
「ユー、足を止めないにゃ」
「師匠、頑張って下さいー!」
多数決の所為で俺は今馬車を引かされているのだから。
ステファン(馬♂、推定人間年齢70歳)がお亡くなりになってから数十分ほど経過している。
あのあと、ミルがステファン(馬)を亡き者にしたがため馬車を引くものがいなくなってしまった。引き返そうにも、道程も王都まであと少しというところ。引き返したくともそうは出来なかった。
俺は馬車を乗り捨て歩きで行くことを提案し、シェイラもそれに賛成した。幸い、俺の魔術で積荷は回収することができる。
しかし、ここでミルが駄々をこねた。イヤにゃ、足が疲れる、それに馬車を捨てることにゃんてできない。
唖然とする俺とシェイラ。次いで、非難轟々、悪口雑言が放たれる。矢面に立つミルは歯ぎしりしながら告げた。
馬車の値段を。
耳を疑いたくなる価格に、俺は財布の中を覗く。
――諭吉が1枚、野口が2枚、百円玉が3枚に十円玉が5枚。
何の足しにもならない。
弁償するわけではないが、今回王都に行き、売り払う魔物の素材から得る推定利益から逝去なさった馬の値段を引き、そこから馬車を引くと完全な赤字になる。馬が逝ってしまった理由は間接的とはいえ俺にあるので懐を確認せずにはいられなかった。
張り詰める沈黙。容赦なく馬車を捨てる決断を下した俺へと向けられる非難の視線。八つ当たりじゃないかと言える雰囲気でもない。溜め息に次ぐ溜め息。悪循環。
そして、ふとシェイラが顔を上げ表情に花を咲かせた。
――そういえば師匠、魔術師じゃないですか!
――ユーのせいにゃんだからにゃんとかするにゃ!
俺の所為ではない。
――師匠、身体強化の魔術ですよ!
――さっさと馬車を引っ張るにゃ!
二対一。
多数決って恐ろしい。
こうして俺は馬車を引っ張る羽目になった。
「身体強化使ってるとはいえ、持続的に引っ張るのは辛い」
「文句言わず走るにゃ」
「お前に言われる筋合いはない」
「うっさいにゃ!」
本来馬に使われるであろう鞭を取り出し振り上げるミル。
ピシッと大気を唸らせ空を駆ける。次いで、肌に接触した痛い音が響く。……魔術のおかげで痛くはないが。
「ニャハハ! にゃんか楽しいにゃ!」
勢いに任せてミルが鞭を振り上げていく。
やめろ。目覚めてしまったらどうする。
「ミルさん、引っ張って貰ってるのにその仕打ちはないですよ」
「うるさいにゃ! ストレス発散にゃ!」
「ミルさん!」
ウチの娘は優しいのに……。ミル、お前はなんて奴なんだ。
「<凪ぐ風>」
「ニャハハハ! うにゃっ!」
これ以上ウチの娘に悪教育を施されると困る……それに腹が立ったので、無詠唱の風属性下位攻撃魔術で鞭を吹き飛ばしてやった。
「うにゃ~」
「これに懲りたらもうやめろ」
「そうですよ」
しょんぼりとした様子でミルが馬車内へと下がり、代わりにシェイラが御者台に腰を下ろした。
「師匠、あと少しですよ。頑張って下さい」
「シェイラは優しいな、パパは嬉しいよ」
「……どうしたんですか?」
軽く感動してしまったのは言うまでもない。シェイラの頬が引き攣っていたのは見なかったことにしよう。
そして、馬車を引きずり駆けること20分。
俺達一行は王都ライベルに辿りついた。
「なんか感慨深いものがあるな……」
王都はライベル王国国内で面積、物資の流通共に随一を誇る。王国の中枢を担っているので当たり前といえば当たり前だが、実物を目の当たりにすると何とも言えない感懐を抱いてしまう。
王都ライベルには国内の人口の約8%が住んでいる。その内1%ほどが貴族だ。大陸一の面積を誇る国だから人口もそれなりのものだ。故に1%と言えども貴族は多いと言わざるをえない。しかし、その殆んどは商人からの成り上がりであり、本来の意味合いでの貴族は少ない。結論としては、王都に滞在している住人は大抵が貴族の商人の家族かその親族だということだ。もちろん、貴族以外にも多少なりともいるにはいるが。もちろん、王都以外にも貴族はいる。だが、大名ほどとなるとやはり王都にいる。
王都ライベルは貴族と商人の街と言えよう。
王都の構造としては、入口から中心にかけて商業区が敷かれており、中心部に居住区と大手の商店。(中心に行けば行くほど土地の値段が高くなるため店を構えるのは難しくなる)ここに冒険者ギルドなんかもある。中心を越え、奥には公爵クラスの貴族が暮らすエリア。更にその奥には王族の居住地であり、国の象徴でもある王城が聳えている。
俺たちは今、王都の入口に面している商業区にいる。
入口近くの商店は店と呼べるほどのものでなく、殆んどが屋台、露店だ。その分喧騒は大したもので、他店に負けまいと口々に美辞麗句を並べ連ねる。修辞が効いていないのはご愛嬌。種々雑多とした店同士の狭隘とした路地に惹句が飛び交う。品物の匂いで魅了する者、行き交う人々に阿る者、様々だ。騒々しくも活気に満ちている様相に、シェイラは圧倒されているようだった。その反面、慣れている様子のミルは麻布の袋に次々と素材を詰めていく。大きめの袋はすぐにパンパンになり、それを俺の方に放り投げ新しい袋を取り出す。
累計5つ目の袋で素材が収まりきり、今晩宿泊する宿に馬車を預けギルドへと出立する。
通常なら日帰りなのだが、俺とシェイラは王都に来るのが初めてなので、存分に観光するために宿を取ってもらった。申し訳ない。
美味しそうな匂いを放つ店を横目に(クレモレム(アイスクリームのようなもの)と書いてあった)中央道を進んでいく。途中、シェイラが匂いに釣られて足を止めたが、半ば無理矢理腕を引きずって振り切った。
そして現在、ギルド内。
自由を錦の御旗に国を跨いで点在するギルド。その実態は如何ほどか。
異世界への万感の思いを込めて足を踏み入れたわけだが……。
最初認知できたのは鼻を突くほどの悪臭。内装が汚いのかと思いきやそうではなく、臭いの元凶は酒だった。そこかしこで筋骨隆々とした恰幅のいい男達が酒を酌み交わしている。どうやらギルドは酒場も兼ねているようだった。
しかしここで一献傾けるわけにはいかず、俺たちは真っ先にギルドの受付へと向かった。
「すいません、買い取りお願いできますか?」
これはミル。
都市内だと魔族は例えケットシーであろうと忌避されるため、ローブを深めにかぶり耳元を隠している。語尾をつけてしまっては本末転倒なので、口にも気をつけている。
「はい。ギルド証をご提示下さい」
しかし、個人情報が記載されたギルド証の前にはどのような隠れ蓑も無力と化す。大手を振って歩けない身である以上仕方の無いことだが、遣る瀬無い。
ギルドの受付員はあからさまに顔を顰めると無言でギルド証を返却した。その仕草に僅かながらシェイラが動揺する。彼女もまたローブを着用して目深にかぶることで好奇の視線をやり過ごしていた。
「それで、何を売るの?」
露骨に態度が悪くなった。
「おい」
矢も楯もたまらずに前に乗り出すが、ミルが手で制した。
視線で訴えられ、俺は渋々引き下がった。
今回ギルドに来るにあたって、俺も服装を改めている。
異世界に跳ばされた時の服装――制服一式の上にコート。奇妙な服装だが、流石に平民の服装で来るわけにもいかず(ナメられるから)、況してや三人共目元が隠れるほどのローブときたら怪しすぎるため、持ち合わせているこれで間に合わせた次第だ。
ミルが俺とシェイラから麻布の袋を回収し、卓上に中身をぶちまける。受付員が内容を一覧し、手元の書類に各々の素材の値段と累計金額を記入していく。その間シェイラとミルは居心地悪そうにソワソワしており、その隙を見計らって受付員が書類の金額を改竄したり端数を切り捨てようとする。その度に俺は無言で殺気と魔力をこれみよがしに辺りに充満させた。受付員の女性は「ヒッ」と短い悲鳴を上げ、冷や汗を浮かべながら書類を書き進めていく。
そして、数分するとミルに書類を手渡した。
「合計で銀貨83枚となります」
知らずの内に口調が改められていた。嘘はついていませんよとばかりに、しきりにこちらを見遣ってくる。
シェイラは大漁だーと嬉々として喜び、ミルは書類を一瞥して不可解そうに首を捻る。
「なんだかいつもより買取価格が高いような……」
「そっ、そうですか! それではもう一度計算し直し……」
「気のせいだろ」
鶴の一声に受付員が黙り込む。
ミルが嬉しそうな顔つきで銀貨を麻布に回収していき、受付員が丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございました。またのお越しを……」
「いや、まだ用があるんだ」
俺がそう告げると受付員はこの世の終わりを迎えたような顔をした。なんだか傷つく。
「俺と、こいつをギルドに登録したい」
自分を指差した後にシェイラを差す。恐怖と諦めがブレンドされたような表情で受付員が頷き、一度奥に引っ込んでから書類を取り出してきた。
眼前に二枚の紙切れが横たわる。
「こちらに必要事項をご記入下さい」
鉛筆のようなものを手渡され、まず先に俺が欄を埋めていく。
名前の欄にはユー・サクノと書き込み、得手とするものを少々の魔術と剣、他の欄もこんな調子で埋めていった。流石に王族であることがバレると面倒なので王族特有の苗字は伏せておく。魔術を行使できると貴族であると疑われるので(実際は王族だが)少々と加えておき、クラス、つまり職業には魔剣士と記入した。
全ての必要事項を埋め終わると、シェイラが苦戦していたので横目にチラリと見遣る。
用紙の内容より、文字の面で苦労しているようだ。以前少しだけなら読み書き出来ると言われたことを思い出した。
今度文字の読み書きを教えてやらなければ……。
まあ、だが恥ずかしいことではない。この国の識字率は低いのだから。後ろの酒場で飲んだくれている頭の悪そうなおっさん共は絶対に読み書きできないから安心しろ、シェイラ。
代筆してやり、シェイラの用紙の記入も終了した。
書類を提出すると受付員が黄色の硬質なカードを二枚差し出してきた。
「それらがギルド証となります。身分などを証明するものとなりますので、くれぐれもなくさないようにしてください。また、複製は不可能なのでご自分で予備を作ることも売却することもできません。紛失された場合は一度ギルドまで足をお運び下さい。そして、ギルド証は冒険者のランクを示すものでもあり最低辺のEからSまでそれぞれ色が異なります」
俺とシェイラは説明を聞きながらギルド証へと手を伸ばす。
「――尚、ギルド証には魔力を測定する機能がついており、結果により初期のランクが異なります。ランクの上げ方については依頼をこなすしか――」
――え?
この流れって、俺がギルド証に触れるとマズイのでは……?
しかし、時既に遅し。俺とシェイラは既にギルド証を掴み取っていた。
シェイラの握ったギルド証が光を放ち、空色のものへと変わってゆく。そして、俺は――。
「おいおい、やっちまったよ……」
眩いばかりの金色に輝いていた。
受付員はもちろん、ギルド内にいる他の者も一様に瞠目していた。
この派手な装飾はもしや……。
「え、Sランク……」
受付員が呟いた。
やはりな……。確かに、魔力量の測定じゃあ俺は規格外、チートだからな。これが実際の戦闘能力を測るスカ○ターのようなものだったら結果は違っていただろう。
物を売るだけのつもりだったので、ぶっちゃけランクは本当にどうでもよかったのだが……。
まあ、ミルをコケにされたこともあって腹が立ってたからちょうどいいや。
「Sランクなんて千年ぶり……」
「ん? 千年前にもいたのか?」
受付員が首肯した。
「はい、有史上Sランクは二人だったのです。初代ライベル王国国王。そしてあまり知られていませんが、千年前の第三代目国王の右腕、アキト」
「アキト?」
日本人名のような気がするが……。千年前は流石にないだろう。気のせいに違いない。
「貴方が三人目です」
真摯な眼差しが向けられる。同時に、周囲からは畏怖や畏敬、恐怖の混じった視線を感じる。
まあ、兎に角当面の目的を果たそう。
「買い取って貰いたい物があるんだが……」
「はい、なんなりとどうぞ」
手の平を返したように従順な態度で臨む受付員。露骨過ぎて怒りを通り越して呆れてくる。
俺は魔術を発動させ異次元からワイバーンの素材を取り出した。全て売り払うわけにはいかないので、幾つか残しておく。
机上にぶちまけた素材に受付員はもちろん、奥で様子を見ていたギルド員も、こちらに注目していた酒場のおっさん共も目を丸くした。
「さあ、商談といこうか」
予定では、ユーのランクはBくらいで止めておくはずだったのですが、伏線を張っておきたいし、今後ギルドの依頼を詳しく描写するつもりはなかったので(シナリオが停滞するので)、まあいいかと思いSまで引き上げました。
討伐系をこなすのが醍醐味ですが、もう既に竜倒してますし……。取り敢えず、次は商談と観光、そして武器選びの話になると思います。
次回予告(嘘)
ワイバーンの素材を売った結果、大金を手に入れたユーは働くのが馬鹿に思えてきた。
そして豪遊の限りを尽くし、いつしか異世界と幼馴染を救うという目的さえ忘れ豪邸に閉じこもってしまう。
(ダンダンダン!←扉を叩く音)
「師匠! 師匠にはやらなきゃいけないことがあるんじゃないんですか!?」
「シェイラ、俺気づいたんだ。働いた方が負けなんだってッ!!!」
圧倒的引きこもり宣言! こうして彼はゆっくりと腐っていくのであった!
次回、ブッ○オフに行ったらプレ○テ2が1000円で売られててカップル共が買おうとしてたけど店員呼びつけて横からかっさらってやったぜ! 卑怯? 最高の褒め言葉だね!!
叫べ! アプリポワ(ry




