027.シェイラの気持ち
本作品のタイトルを変更しました。主旨は変えないのであまり気にしないで下さい。
「俺たちの勝利にカンパーイ!」
ワイバーンの幼種を倒してから数刻後。俺とリーザックはダルクに帰還した後、村人総出で祝杯を上げていた。集落は既にお祭りムード。農地近くの開けた空き地には所狭しと料理が並べられている。ビュッフェ形式の簡素なパーティーだ。あまり五月蝿すぎると王国の巡回兵に見つかるかもしれないあたり、集落の人たちは騒ぎつつも自重している面もあった。……こいつを除いて。
「いやー、凄かった! こいつと俺でヌシを倒してよー。まあ、決め手は俺の華麗なナイフ捌きにより繰り出された『ファイナルジャッジメントスロー』だったな、うん」
倒したのは俺だし、お前のファイナルジャッジメントスロー(笑)は結局ワイバーンの注意を引けないくらい威力が弱く、決め手は俺だった――などとは、空気の読める大人は決して言わない。現実とは残酷なものだ。甘い夢を見ている方がいいだろう。
「おお、それは凄いにゃ! ミルも見てみたかったのにゃ!」
リーザックの横ではしゃぐのは集落の住民であるミル。シェイラと同じケットシーであり、王都のギルドに属する冒険者でもある。以前説明した、王都への集落の買い出しは彼女が担当している。ケットシーは法的に人権が認めてられているからな。リーザックは人間だがワケあって王都へは行けないらしい。
このリーザックについてだが、色々と怪しい点がある。ヌシが竜だったことを秘匿するように頼んでくるし、(集落の人々は、なんか凄いのがいるから森に近づけない程度の認識だったらしい)先程死闘を演じたワイバーンを一目で幼種と見破るや極めつけには王都に行けない。純度100%の怪しさだ。混じりけのない怪しさだよ。完全に死亡フラグが立ってるよ。
まあ、俺も他人のことは言えないんだが……。リーザックに魔術のことは黙っておくように言ったし……。
「ユー君、どうだね。君も楽しんでいるかい」
「ああ、ダルクさん。ええ、もちろん。楽しませてもらってます」
集落の長に軽く返事を返し、その手元に乗せられた皿を一瞥する。
質素な皿を飾るのは、肉、肉、肉。今回リーザックと狩りに行った成果であり、パーティーが開かれた起因でもある。
俺が戦略級魔術で雑魚共を丸焦げにしたことで大量の食料と魔物の部位を確保することに成功した。戦利品としてワイバーンの部位を貰った以外は全て集落のものとなっている。やっかいになっている以上これくらいはしないとな。……魔物を狩りすぎたため残存数が気になるけど。そこら辺は気にしないでおこう。
兎に角、かつてないほどの収穫で皆の溜め込んだフラストレーションとテンションがFOOOOOO! となったわけだ。……駄目だ、なんか酔ってきた。
「ユー、そんなんで大丈夫かにゃ?」
「大丈夫だ。問題ない」
あっ、なんか今誰かが死亡フラグ立てたような気が……。装備が砕けて死にそうな予兆がするが気のせいだろう。……神は言っている、ここで死ぬ定めではないと。酔いつぶれてたまるか。
ああ~、頭が溶ける……。
「夜はまだまだこれからにゃ」
「ユー、まだ序の口だぜ。もっと飲めや」
「おええぇぇぇぇ!!」
「うにゃっ! ユーが吐いたにゃ!」
「お前またかよ!」
シェイラとは違い、ミルがにゃーにゃー言うには理由がある。それは、第一に環境の問題であり、第二に生態に関することである。
環境の問題としては、シェイラが人間に囲まれて育ってきたため自身も同種であると錯覚していたから。そして生態に関しては、魔人の口癖はケットシーに限らず他の種族にも見られ、成人すると共に抜けていく。ミルは既に16らしいが。この世界での成人は早いから抜けていてもおかしくないんだけどな。
シェイラの語尾に『にゃ』がないのは上記の理由から。驚いたりすると子供大人関係なく種族特有の口癖が出てくるらしいけど。まあ、シェイラ。お前の影が薄い理由がわかったよ。猫耳あるのに需要がないからだ。
「ユー、ミルは明日には王都に行って素材を売りに行くのにゃ。ついてきてもらっていいかにゃ?」
「ああ、荷物持ちだろ? 弟子も連れてくよ」
「助かるにゃ」
酔ってる時に頼み事をするとは……。こいつ、慣れてるな。
「あらー、ユー君?」
「ジュリルさん?」
ダルクさんの奥さん。ジュリルさんに後ろから声をかけられた。誰何すると同時に振り返った。
「お連れの方……シェイラちゃんだったけ? 今起きたわよ」
漸く起きたのか。これ以上寝てたらますます影が薄くなってたぞ。
俺は一言お礼を告げて村長宅に踵を返した。これ以上ここにいたら酒に汚染される。
空き地が熱狂的なのに対して、家の中は閑散としていた。村の人が総出で立食会に参加しているので、当然といえば当然だが、先ほどまでいた場所とは雲泥の差だ。
外はもう既に暗い。しかし、この家の中は夕闇よりも深く、全てを飲み込む深淵のように重い闇を抱えていた。まるで、ぬばたまのような、ハイライトの消えた真っ黒な空間。閉じ込められたようで気味が悪い。
俺はさっさとシェイラを連れて空き地に帰ろうと思い、急ぎ足でシェイラの寝室へと向かう。
「おい、シェイラ……」
扉を半分開け、室内の様子を覗き込んだところで声を失くした。
シェイラは上半身を起こし、虚ろな瞳で虚空の一点を見つめていた。傍目にも分かるほど様子がおかしい。
「シェイラ、どうしたんだ?」
「あ、師匠……」
室内に入り、指先で肩をつつくとシェイラがゆっくり首をこちらに向けた。依然、生気のない瞳を湛えている。
「私達、助かったんですか?」
「ああ、助かったんだ」
そして、俺はこれまでの経緯を掻い摘んで話して聞かせた。終始シェイラの様子に異変はなかったが、状況の把握には役立つだろう。
粗方話し終えた時、シェイラがボソッと一言呟いた。
「本当に、助かったんでしょうか?」
「え?」
そして、俺は思い知る。
彼女が、如何ほどに重い闇を抱えていたか。
「だって、ここは……」
「魔人の集落なんですよね?」
シェイラの声が遠く感じられた。
だが同時に、俺は理解していた。
こうなるのは必然だった。彼女が魔人に村を焼き払われたトラウマを抱える以上、必定だったのだ。
問いに答えない俺を訝しんだのか、シェイラが矢継ぎ早に詰問してきた。
「あいつらと同種のところにいて安全なんですか?」
「師匠はこんなところ耐えられるんですか?」
「早くここから逃げませんか?」
疑問が徐々に猜疑、懐疑の情へと塗り替えられ、変遷していく。不安定な心が自身の標榜を盾に現実から目を背けている。
そして、
「私の村でやったように、ここの人たちも殺しますか?」
目の前が真っ暗になった。眼前にいる少女の存在が信じられなくなった。言葉も、容貌も、全てが。絶望の淵に追いやられたような心地に陥ったが、彼女の言葉の底意が集落の人々への侮辱だと知るや否や。
ダルクさんやジュリルさん、リーザックやミル、色々な人の顔が思い浮かんできて、してもらったことを思い出して。
気がつけば、俺は――。
「黙れよ」
シェイラの頬を平手打ちしていた。
パァン! と小気味よい、空虚な音が鳴り響いた。
頬を真っ赤にされたシェイラは、信じられないような形相で俺を見上げた。
「なんのためにお前は魔術を学んだ?」
アルンカで彼女が宣言した決意が脳内に甦る。
『もう、あんな思いしたくないから。私たちを迎え入れてくれた村の人たちにもさせたくないから。だから、だから強くなりたいんです!』
「お前は魔人を鏖殺するために魔術を学んだのか?」
「……けど。皆いなくなっちゃいました」
「答えになってない」
飽く迄もキツく。心の底の凝りまで搾り取る気持ちで臨む。別に過度に感情的になっているわけじゃない。
「私はッ!」
「…………」
「私は……。私は……。私はただ……」
無言で答えを待ち続ける。シェイラが肩を震わせ泣き始めたが、優しくなるつもりはない。
俺は、彼女の保護者であると同時に師でもあるのだから。だから、甘くなってはいけないんだ。
同族嫌悪に陥っていたのだろう。複雑な心情だっただろうが……。
そろそろ、答えが聞けるようだ。
「これ以上死んでほしくないから……」
「師匠まで失いたくないから……」
そう言って、完全に伏し目がちになる。
……これ以上は聞けそうにないな。何より、もう見ていられない。
俺が死んでほしくなかったと言う、残酷だが心優しい少女に鞭を打つような真似はできない。今度は俺が複雑な心境だ。
だが、このままだと彼女はこの集落の人を襲いかねない。いや、<竜の咆哮>を習得してる分下手すると集落そのものを滅ぼしかねない。
この手を彼女の血で染めないためにも、集落のためにも、何より彼女のために。俺は彼女に翻意を促し決意させなければならない。
俺は眦を決すると、勢い良くシェイラの腕を掴んだ。
「うにゃっ!?」
奇声が上がるが構わない。そのまま腕を引いて立ち上がらせ、家の外に出る。
向かう先は、現在パーティー真っ最中の空き地。明るいムードに当てたいわけではない。ただ、ここの集落の人々の人となりを知ってもらいたい。その一心で彼女の手を引いて走り続ける。
そして、現場へ到着し腕を離した。
「師匠、一体何を……?」
「見ろ」
指先でシェイラの注意を収束させる。視線が周囲の人々に固定される。喧騒に満ち、騒々しいの一言に尽きる集団に。
「こいつらが人を殺せるような奴らに見えるか?」
「…………」
無言の沈黙。互いにこれ以上は切り出さず、ただ眼前の光景を凝視する。
暫くすると、シェイラが踵を返し元来た道を辿り始めた。
「少し時間を下さい」
俺はその背中を無言で見つめることしかできなかった。
…………。
「ユー、酒飲むか?」
「ごめん、空気読んで」
前半はほんわかとしたものでしたが後半はシリアスでした。気分を害されたらすみません。久々にシェイラが出てきたと思ったら、一発カマしてくれましたね。ですが、これでシェイラ絡みのシリアスは、取り敢えず予定していたところは終わりました。思いついたらまたやるかもしれません。ただ、ここから先は暫くほんわかしたものになると思います。
次回予告(嘘)
祭りの後、やはりどうしても立ち直れなかったシェイラは部屋に引き篭ってしまう!
そんな彼女を優しく見守ることを決めたユー。
しかし……。
「師匠~、お腹空きました」
「ハイハイ。今作りますからね~」
「師匠、今週のジャ○プまだ? 扉の前に置いといて」
「コンビニに買いに行ってくるね~」
「師匠。銀行の口座にお金振り込んで。Am○zonで買い物できない」
「いくらいるのかな?」
果たしてユーはシェイラのパシリになってしまうのか!?
次回、ゴミ箱周辺に脅威のG出現。一匹見たら30匹はいると思え。
次回も見なきゃ風穴あけ(ry




