026.翼竜との遭遇
10日以上待たせてしまってすみません。毎度早く書くと言っているのに、本当にすみません。
感想、アドバイスが頂ければ嬉しいです。
「<万雷>」
全属性中最強の属性と謳われる雷属性上位攻撃魔術、それも戦争でしか使わないような戦略級魔術の詠唱を完了する。通常ならば宮廷魔術師数人掛りで行う魔術だが、圧倒的魔力の保有量で押し切る。あまりスマートな方法ではないが、今はそんな悠長なことを言っている場合ではない。
俺は詠唱の終了した魔術をモノクルに表示される敵の座標軸に撃ち込んでいく。今の一撃で魔物の頭数を9割以上削ることができた。はっきり言って、ヌシとか言う奴以外は殆んど相手にならない。戦略級魔術を使ったのだから、寧ろ打倒な結果だ。
「お、お前……一体、いや、無茶苦茶だろ、こんな……」
魔術の終了を確認した俺は背後で惚けているリーザックに撤退を促す。
「おい、逃げるぞ」
「は? いや、なんでだよ? こんだけ強けりゃ向かうところ敵無しだろ?」
「一体だけ、仕留められなかった奴がいる」
仕留めきれなかったり、当たらなかったりと、取りこぼした魔物も多いが、それらは俺の一撃に恐れを為して三々五々と散っていった。だが、一体だけ、命中したのにも関わらず動じなかった魔物がいる。恐らく、それがヌシ。
「ヌシには勝てないんだろ?」
「いや、どうだろう。お前ならもしかすると……」
先ほどとは打って変わって曖昧な態度を見せるリーザック。要領を得ない発言に俺は明確な情報を求める。即ち、ヌシとはなんだ、と。
「言ったら狩りを手伝ってもらえねぇと思ってたんだがよ。もう言うしかないよな」
「もったいぶるな。俺の魔力の残量も半分切ってんだ。相手によっては逃げることだって有り得る」
というか、逃げた方がいいに決まってる。刺激さえしなければなにもしてこない人畜無害な魔物だというのが本当ならば、このまま放置すればいい。
だが、この銀髪の男は……。
「成果なしには帰れねぇ。いいか、ユー。よく聞いてくれ」
リーザックの双眸が細められた瞬間――。
「「――!?」」
両者共に驚愕と焦燥に駆られて背後を振り返った。耳朶に触れたのは、地を揺るがすほどの重低音。
視線の先から響く大音声、薙ぎ倒されていく木々。僅かに聞こえる息遣い。距離が開けているのにも関わらず、視覚的情報、聴覚的情報、共に満遍なく届いてきた。拒否の意を示す――現実を否定することはできなかった。
立ちふさがる樹木をなぎ倒し――。
倒れゆく木々を踏み潰しつつ――。
ソレは俺たちの前に姿を現した。
視点の照準を俺達に合わせて――。
視界が緑一色に染まった。曇天の空は姿を隠し、陽の光は照らすことを拒むように薄暗い影だけが俺たちを覆う。
ソレの呼気が直に触れ、鼻が折れるような腐臭を放った。
俺達はソレ――ヌシを仰ぎながら感嘆の息を漏らした。
「リーザック、これって……」
「ああ、そうだ」
俺たちの前に惜しげもなく姿を現したのは――。
「ワイ、バーン……」
全身を緑色の鱗で武装した翼竜、ワイバーン。
悠に5m以上はあろうかという体躯にton単位での重量を感じさせる威圧感、翼を広げればその歴然とした存在感は更に増すに違いない。
その場に居るだけで戦意を削がれるような圧倒的搾取者。絶対的強者。
「ユー。追い討ちをかけるようで悪いんだが……」
心底申し訳なさそうな面持ちでリーザックが告げる。
「これでも、まだ子供なんだぜ……」
「おい、嘘だろ……」
ピギャー、とリーザックの言葉を肯定するような雄叫びが上げられる。口元からは高熱の炎が吐かれ、中空に陽炎が生じた。
足元からは長さ1mほどの鋭利な爪が伸びている。これほどの巨体でまだ幼種だというのか……。
「ユー、どうする……?」
「どうするもなにも……」
勝てる気がしない。
っていうか、そもそもなんで竜種がこんなとこにいるんだよ。こんなの国が放っておくわけがないだろ。
三十六計逃げるに如かず。ワイバーンの巨体を見上げた瞬間、俺の脳内では勝利の道程と換算の模索より、逃走手段の確保が優先されていた。あんなのに勝てるわけねーだろ。困った時にはいつだって逃げるのが一番だ。心の裡で呟く。
命あっての物種とよく言うが、まさにその通りだと思う。今すぐにでも逃げ出したい。だが、そうしないのはリーザック、彼がいるからだ。俺自身の魔術を施された身体能力ならばこの場から逃げることは可能だろう。だが、その場合リーザックを置き去りにすることになる。それだけは、出来ない。
つまり――。
「戦うしかない」
逃げることができないのなら、必然と消去法で答えは導き出せる。
弱肉強食。簡素だが、明確でわかりやすい言葉だ。できれば今思い出しくなかった言葉だったが。
幼種とはいえ、相手はドラゴン。迂闊に飛びかかるわけにはいかない。
俺は彼我との距離を慎重に計り、魔術の詠唱の時間稼ぎのためにジリジリと後退していく。
剣さえない、今俺が持つ最大のアドバンテージは知識と魔術、そして魔眼。身体強化の魔術を付与してはいるが、素手で挑んだところで傷一つすら与えられないだろう。もしかするとダメージが通るかもしれないが、そんな不確かな手は打てない。下手をすると悪手になりかねない。
俺はワイバーンの巨体を仰ぎ、その広大な両翼を注視する。視界に入るのは、目に見えて分かる焼け跡。恐らくもう翼は使い物にならない。だが、まだ爪や火息攻撃という手段がある。先ほどの雄叫びと共に吐かれた火がその証左。
いずれにしろ、魔術なら確実にダメージを与えることができる。問題は、詠唱する時間がないということ。無詠唱で放てる魔術にも限りはある。並の相手なら下級程度の魔術でも斃せるだろうが、竜種に属する魔物は他の魔物とは一線を画す。瘢痕すら残らないだろう。
――ワイバーンの幼種を斃すには、上位攻撃魔術を全力で撃たねければならない。竜種には共通して魔術に耐性があるので、上位級の魔術でなければ攻撃は通らないのだ。
女神様から膨大な魔力というチートを授かったが、それでも竜種相手では勝つか死ぬかの二択を責められる。俺はまだ弱い。
せめて、切れ味の良い剣があれば。そうなれば話は別なんだが……。<身体強化>によって得た人外の脚力と膂力で敵を翻弄し、圧倒することができる。アルンカでやったように、光の剣を出せば良いと思うだろうが、残念、あれは魔術の産物だ。なまくらの方がまだ役に立つ。
とにかく、今は詠唱のための時間を稼がなければ……。
「リーザック、敵を引き付けることはできるか?」
「わからん。ただ、こりゃキツイな……」
この場にシェイラがいないことが悔やまれる。彼女なら時間稼ぎができただろう。別にリーザックを責めるわけではないが。
僅かでも時間を稼ごうと一歩後退する。すると、俺の動作が意図することに感づいたのか、幼いワイバーンは上空に顎を突き出し盛大に空気を吸い込む所作を見せた。
――火息攻撃!
「リーザック、横に回避しろ!」
「お、おう!」
言外にちらついた真意を汲み取り、リーザックは銀髪を振り乱し狼狽しつつ横に身を投げた。相反するように俺も地を蹴る。
「グブルァァァァ!!」
奇妙な喚声と共に灼熱の吐息が放出される。先ほどまで俺たちがいた場所は当然、後方の木々も同時に焼き尽された。
「――チッ」
無詠唱で水の奔流を現出させ、即座に森林の消火活動にあたる。火事になってしまえば生存率も大幅に下がり、なにより集落にいる方々の生計が立たなくなる。
微量とはいえ、魔力を減らしてしまった。このまま火息攻撃を連発されれば勝ち目は薄くなる。
横目でリーザックの安否を確認する。辛うじて無事だったようで、胸を撫で下ろす。彼をこれ以上危険な目には合わせられない。
「第三、第四の使徒に告ぐ。我、汝らの――」
「グルァ!」
詠唱の途中でワイバーンが爪を振り下ろしてきた。詠唱を中断して後方へと退き攻撃を回避する。
無理矢理詠唱をねじ込もうとしたが、どうやらそれも無理なようだ。敵に知性があるのかどうか定かではないが、本能的に魔力の流動を悟っているのだろう。高速詠唱も遮られる。
隙ができるのを待つのも一手だが、長期戦は危険だ。こうなったら――。
「リーザック、ほんの少しでいい。敵の注意を引きつけてくれ!」
「いや、だができてもほんの数秒。詠唱時間は稼げねぇぞ!?」
「それでいい!」
疑問に叫びで返す。危険な賭けだが、これが成功すれば確実にワイバーンを斃すことができる。
「……わかった」
俺の表情を察したのか、リーザックは従容と頷いた。
「リーザック」
「まだあるのかよ?」
辟易とした顔を敢えて見ず、零す。
「この賭けが失敗したら俺は死ぬ。その時は全力で逃げてくれ」
「わかった」
二つ返事で了承される。彼も幾度となくこのような死線を潜ってきたのだろう。(竜種との遭遇は無いだろうが)死に対する耐性が強い。
「それじゃあ……」
「互いに生きて会えるように、全力を尽くそうぜ」
言葉が紡がれると同時に、地を蹴り駆け出した――!
身体中の骨を軋ませ、荒い呼気を吐き出し疾駆する。景観が流れるように加速する中、リーザックがナイフを投擲してワイバーンの注意を引き付けた様相が窺えた。しかし、ワイバーンはリーザックを攻撃するような素振りは見せず――。
上顎を持ち上げ、視線を蒼天に固定した。
――火息攻撃。
それだけは、駄目だ。振り出しに戻ってしまう。
「アァァァァァ!!」
裂帛の気合を放ち、ワイバーンの懐に全力で吶喊する。俺の身体が一つの弾丸となり、音を置き去りにして大気を切り裂く。懐に到達するも、踏みとどまりはせず直進したことにより発生したエネルギーをそのまま足に保ったまま。
「黙れッ――!」
右拳を握り締め、ワイバーンの顎目掛けて跳ね上がった――!
鈍い感触と僅かな手応えと共に下顎を撃ち抜いた。
「ブル……!」
ワイバーンが口内で火息攻撃を暴発させたのが見て取れた。顎にも微かにダメージがあったようだが、まだ足りない。
やはり、魔術でなければ。
「ブルァ!」
振り下ろされる鋭利な爪と強靭な前足。それらを見据えて俺は――。
(カイロスの瞳よ、俺に力を貸してくれ!)
左目に全神経を集中させた。
もし、この瞳が俺以外の動物の動きを止める効力があるというのなら。
俺の勝利は揺るぎないものとなる。
ゆっくりと迫る爪と足。左目がじくじくと発する疼痛を懸命に押さえ込み、ワイバーンの攻撃を正面から射抜くように見据え、
――魔眼を解放した。
瞬間、世界がモノクロに覆われ動きを止めた。動けるのは植物と、俺だけ。
上手くいった安堵をまだこれからと引き締め、後退し口を開く。
「第三、第四の使徒に告ぐ。我、汝らの偉大なる力の一端をここに示し合わせる者なり――」
ただ、全身全霊を懸けて魔術を発動するのみ。
「<氷柱>!」
中空に数十もの藍色の魔法陣が展開され、何十もの巨大な氷塊が現出する。
モノクロの世界においても色褪せない光沢は優美さを帯び、照り返す光は俺の抱える希望を体現するかのようだった。
それら魔術の産物に、一斉に指揮を下す。
「――喰らえ!」
一見鈍重に見える氷塊は、しかし矢もかくやという速度でワイバーンに飛来していく。
同時に、世界が色を取り戻す。
その間僅か6秒。高速詠唱によってなんとか間に合わせることに成功した。
この賭け、俺の勝ちだ。
確信と共に<氷柱>が巨体を貫いた。
漸く落ち着くことができそうです。何があったのかは活動報告のほうで書きたいと思います。
感想、アドバイスが頂ければ泣いて喜びます。少ないので、お手の空いている方は是非お願いします。
では、前回から初めた次回予告をば。
次回予告(嘘)
ユーの魔術を以てしてもワイバーンを倒しきることはできなかった!
「このままじゃやられちまう! ユー、何か手はないのかよ!」
「くっ、こうなったら最終手段だ!」
そう言って懐から取り出したのはひとつのベルト。
「フハハハハハ! 実は俺はまだあと二回変身を残しているのだよ!」
突如ユーの周囲が眩い光に包まれる。
『シャバドゥビダッチ変身!』
派手な閃光と効果音と共に変身スーツを纏ったユーが現れる。
「さあ、ショータイムだ」
しかし、この時彼は知る由もなかった。ヒーローのお約束、変身は3分しかもたないことに!
次回、幼少の頃に見たウルト○マンの背中に見え隠れしたファスナーが忘れられそうにない。そうやって僕らは大人になっていく。
君はコスモを感じたことはあるか!




