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異世界魔眼魔術師の軌跡 旧名:6seconds  作者: 結城紅
第一章 異世界アークフィリア
21/41

021.シェイラの正体

お待たせしました。

今回の話はシリアス且つ若干エグいですが、核心を突く話です。

読んでいただければ幸いです。

<竜の咆哮>(ドラコニス)!」


 無詠唱でシェイラが風属性上位攻撃魔術を発動させた。言葉の後を追うように暴風が発生し、一帯の魔人を一蹴した。アーチに固まっていた魔人たちは吹き飛ばされ、村の入口が一転閑散としたのものになる。

 だが、それは入口までの話。

 一度ひとたび村に足を入れると、そこには阿鼻叫喚の図が広がっていた。

 三桁にも上る魔人が家屋を破壊し、村人を襲い、或いは蹂躙し暴虐の限りを尽くしていた。至るところで火が上がり、泣き叫ぶ人々の姿が見えた。

 およそこの世のものではない光景。この村と親睦の浅い俺でさえ目を背けたくなる。この村で育ったシェイラは俺以上のダメージを受けている筈だ。

 人々が泣き叫び、無辜であるにも関わらず許しを乞う様相は見るに耐えなかった。


「ま、魔術師様……」


 その中で一人、涙の滲んだ幼い声に袖を引っ張られた。見れば、まだ5つにもならないであろう幼子が俺の傍で泣きじゃくっていた。そして、視線をその下に向けると――。


「「――――ッ!?」」


 俺とシェイラは同時に目を剥いた。目前の現実を否認することができずに注視してしまう。


「お願い、魔術師様。あたし、なんでも、なんでもするから。だからお兄ちゃんを助けて!」


 幼い女の子は――惨殺された男の子の死体を抱えていた。白目を剥き、腸は引き裂かれ、腕はひしゃげている。顔が残っている分、余計に生々しく見えた。推定9つほどの少年は既に事切れていた。


「死んでないの、お兄ちゃんは死んでないの!」


 虚ろな瞳で少女が叫ぶ。救いようのない人を抱えて泣き喚く。


「うっ……」


 シェイラが慟哭し、俺は理性より感情が優先され嘔吐した。先日とは別次元の苦痛に理性が押しつぶされそうになる。

 シェイラが膝をつき、動かなくなった。少女は機械のように断続的に袖を引っ張ってくる。

 なんだ、これは……。地獄絵図そのものじゃないか。なんで、なんでこんなことが。

 僅かに残った理性が問いに対する答えを弾き出す。当たり前、だと。百数人程度が暮らす小規模な村に数百人の魔人が押し寄せた。個々の戦力も、数も圧倒的に負けている。ごくわずかな時間でこうなることは目に見えていた。

 何故? ――俺が先遣隊を蹴散らしたからだ。先遣隊が来た理由は不明だが、本隊が来た理由は明らか。眼前の惨状は全て俺が招いたこと。

 責任は、俺が取らなければならない。


「魔術師様、お兄ちゃんを……」


「――ッ!」


 当然のことながら、魔術に死者を蘇らすようなものはない。魔術を作るとなれば話は別だが、莫大な対価が必要になるだろう。

 俺にこの女の子の願いを聞き入れる術はない。安易に首を縦に振ることはできないのだ。だが、同時に横に振ることもかなわない。 


「二人共、ここで待ってろ」


 無言で喚く少女をシェイラに預け、目尻を拭った。俺の一連の動作が暗に何かを示すことに勘づき、少女は口を閉ざした。代わりに、伏し目がちにスカートの裾を握り締めた。即座にシミが出来る。

 この場で俺に出来ることは限られている。だが、未だに躊躇いが捨てきれない。 

 半ば癖で敵の人数を確認する。<探知>(レペルタン)に引っかかった敵の数が総勢186名。入口にいた分も含めると200を超えることになる。数百人、という言い方は過剰だったが、数が多いことに変わりない。

 対して生き残った村人の数は少ない。当初100余名はいた筈の人口は今や指折り数えるほどとなってしまった。

 何が魔術師様だ。俺はただの人殺しじゃないか。 

 魔人を殺し、村人さえ死なせてしまって――。


「――ヒィッ!」


 複数の魔人の魔手が少女とシェイラに迫る。

 俺は――。


「師匠!」


 不意に過るシェイラの声。先程の彼女の台詞が脳内で思い返される。



『守るために使わないで、何のための力ですか!』



 そうだ、俺の魔術ちからは人を殺すこともできるし――守ることもできる。


「イヤァァァァァァ!!」


 幼い少女が叫び声を上げる。下卑た表情を浮かべた魔人の伸びる腕。少女二人を捉えようとする腕を――。


「どけよ」


 一瞬にして切り刻んだ。同時に、<氷剣の舞い>(グラディウス)が周囲の魔人共を旋回する刃で切り崩す。魔人の醜穢な断末魔に、残る魔人共が一斉にこちらを向いた。

 俺はそれら全員に、ただ一言告げる。


「来いよ」


 俺の挑発に、魔人共が「ウォォォォォォ!!!」と、鬨の声を上げた。

 敵という敵の雪崩が圧し掛かる。音圧だけでも半端ないのに、無数に存在する重圧感だけで押しつぶされてしまいそうだ。

 襲い来る魔人の腕に、静かに腕を差し伸ばした。


<竜巻く目>(オキュリターボ)


 瞬間、俺を中心に小規模の竜巻が発生し魔人共を吹き飛ばした。術名通り、俺は竜巻く目、竜巻の目(中心)にいるため被害はない。

 地面が抉れ、後方で構えていた魔人が後ずさった。

 <竜巻く目>(オキュリターボ)、風属性上位攻撃魔術の中でも攻撃と防御を兼ね備えた極めて利便性の高い魔術だ。だが、その欠点は効果の継続時間が短いこと。

 僅か数秒で途切れる暴風の中心で、俺は次の攻撃に備える。


「第三、第四の使徒に告ぐ! 我、汝らの偉大なる力の一端をここに示し合わせる者なり――」


 <竜巻く目>(オキュリターボ)が解かれ、微風だけ残して虚空へと消える。俺の姿は露わとなり、敵の攻撃圏内(レンジ)に晒される。

 だが、魔人共が攻撃を開始するより早く、詠唱句を唱え終わる。


<氷柱>(スティリア)!」


 掌を敵陣地に向けて突き出し、魔術を発動させる! 

 無数の鋭利な氷塊が魔人を突き刺し、生命を停止させる。

 俺は後方へと跳び、モノクルに表示される敵の残存戦力を確認する。その数残り112名。まだ、まだだ。守るためにはまだ足りない。

 0にしなくては守ったとは言えない。


「第六の使徒に告ぐ! 祝福の鐘を打ち鳴らす者よ、汝を敬愛し其の力を表出する」


 この身にいくら負担がかかろうと、必ず敵を掃滅してみせる――!


<光の剣>(ルクス・グラディオ)!」


 魔術が発動し、俺の直上に三本の巨大な光の剣が出現した。光属性上位攻撃魔術。本来なら、このまま振り下ろして攻撃する魔術だが――。


「第八の使徒に告ぐ!」


 そのまま終わらす気は毛頭ない。

 追加の魔術を発動する。練習の時から、自身への負荷が大きすぎるが故に使うことを戒めてきた強大な魔術。

 今から発動する魔術は、攻撃でも、防御でもない。強いて言うのなら強化魔術。だが、これ単体で発動することはできない。

 通常、魔術とは発動し、一度でも使用すれば一部の魔術を除き大概のものは消えてしまう。攻撃魔術がその最たる例だ。逆に、早々に使用しないと維持するのに魔力が掛かる。防御や身体強化は別だが。とりわけ今から発動する魔術は攻撃魔術としか連用することはできない。

 つまり、その魔術を発動するのに多大な魔力が、攻撃魔術を維持するのにも魔力が掛かる。一つ目の負担がそれだ。

 では、別の負担はというと……。


「我、汝の恩恵を受けし者。故に更なる寵愛を纏うことを望まん」 


 それは、


<装身>ソルムモド・コギタトゥス!」


 身体へ掛かる、直接の負荷だ。

 俺は虚空へ右腕を差し出した。

 直後、直上に聳えていた三本もの巨大な剣がひとつに融合し、光の流体となって俺の右腕へと注がれた。


「――くっ!」


 刹那の一瞬、腕を斬られたような激甚な痛みに苛まれる。しかし、それも一瞬のこと。次の瞬間には、俺の右腕を覆う形で神々しい剣が形成されていた。目を背けたくなるような、眩い輝きには頼もしさすら感じる。

 この魔術は本来魔剣士のような職に就く者が使う魔術。通常の魔術師が使うことはない。何故なら、これは身体強化の魔術と併用して[近接戦闘]を行うために作られた魔術だからだ。

 3万5000冊もの蔵書を紐解き、記憶してきた存在。それが俺。当然、ただの魔術師であるはずがない。魔術も然ることながら、武芸にも多少ながら心得がある。

 ライベル流剣技という王国最大の剣技を参考にした我流の剣技だ。魔術師が使うのだから多少のアレンジは当然だろう。


「なっ、なんだアレ……?」


 俺の姿を認めて、ざわめき立つ魔人共。

 来ないならこちらから行く……。

 右足を軸に、前傾姿勢をとって駆け出そうとした矢先――。


「失礼」


 魔人共の波を割るようにして、一人の男が現れた。

 頭上に角はないが、翼が生えていることから魔人と見ていいだろう。

 魔人にしては華奢な体躯だ。白皙の美男、とでも言えば良いだろうか。しかし、ひょろっとしているわけでもなく、適度に身体は引き締まっている。にじみ出る雰囲気は、男が数々の場数を踏んでいることを言外に語っていた。

 その男は抜剣していた剣を収め、こちらに敵意がないことを見せた。


「お初にお目にかかる。私は魔王軍第18部隊隊長を預かるクレバリートと申します。よろしければ、貴方も名乗ってほしいのですが……」


「ハッ、何を今更」


 剣を収めたからって紳士ぶるんじゃねえ。

 俺の方は魔術を解かない。だが、無抵抗の相手を攻撃するわけでもない。話を聞く態勢をとる。 

 魔術を維持するのに魔力を割かれるので、話があるのなら手短に終わらせてほしいものだ。 


「貴方が先遣隊を退けた方で間違いないですね」


「そうだ」


 今更偽る理由がない。

 男は満足そうに頷くと二の句を紡いだ。


「なるほど。道理で彼では敵わないわけだ」


 彼、とは先遣隊の隊長のことだろう。

 敵ばかりに喋らせるわけにはいかない。俺は疑問に思っていたことを口にする。


「本隊であるお前らが来たのは、先遣隊からの連絡が途絶えたからだろ? それは分かる。だが、何故先遣隊はこんな辺鄙な地を強襲したんだ?」


 男が再び頷く。


「はい、私達魔王軍第18部隊が来た理由は貴方が仰る通りです。そして、先遣隊がここを訪れた理由は、以前この村の者に一部隊が壊滅させられたことがあったからですよ」


 訪れた、という言い方は気に食わないが……。この男の言っていることは……!


「一人、その戦いから生還した男がいましてね。その男の話しによると、成人のケットシー二人にこっぴどくやられたと。そして、その二人を辛うじて倒した時」


 一拍間を置いて、男が口元を歪めながら告げた。


「悪魔が現れた」


 悪魔……? 話し方によると、それまではいなかったようだが。急に何故……?

 シェイラを振り返るも、彼女は首を横に振るばかり。それもそうだ。なにせ彼女は気絶していたんだから。


「その悪魔相手に部隊は壊滅。男は命からがら帰ってきたというわけですよ」


 ハハハ、と愉快とばかりに男が嗤った。完全に他人事だ。


「話が逸れましたね。今度はこちらの番です」


 男が改まった様子で俺に向き直る。


「貴方はそれほどの力がありながら、何故正義に加担するのですか?」


「目的があるからだ」


 それに、俺に正義も悪もない。目的を達成できるのならどんな手を使うのも厭わない。だが、納得できないものある。ただ、それだけだ。


「そうですか。では、単刀直入に申しましょう」


 男……クレバリートが申し出る。


「私たちの仲間になってください。レクス様も大層貴方のことを気に入られていました」


「断る。っていうか、レクスって誰だ」


 断られたことを全く意に介さず、クレバリートが語る。


「貴方も一度はお目にかかったことがあるはずです。終日ひねもす仮面を付けておられる方ですよ」


「なっ……!?」


 あの、仮面の男か!? 


「どうやら思い出したようですね。それでは、再度問いますが、私たちの仲間になってもらえませんか? 貴方なら直ぐにでも幹部に迎い入れる準備が整っております。貴方の目的も、こちらについた方が成し易いのでは?」


「答えは変わらない。断る」


 今度は男の表情に明確な怒りが現れた。


「そうですか。では……」


 指先を俺に向けて立てた。攻撃かと身構えた次の瞬間には――。

 ヒュッ、と風を切る音が耳朶に触れた。反射的にソレを叩き落す。


「お見事です。しかし、ひとつとは限りませんよ?」


 疑問を感じた次の瞬間、


「あっ、ああ……」


 背後から呻くような声が聞こえた。

 振り返れば、先程の少女の首筋にナイフが刺さっていた。完全な致命傷。もう、どれだけ手当しようと助かることはない。  

 血が一筋、少女の首から垂れた。


「お兄……ちゃん」


 最期にそう呟き――少女はこの世を去った。


 『ひとりの死は悲劇であるが、万人の死は統計である』。とある独裁者がこんな言葉を残している。俺はその独裁者のことは好きではなかったが、この言葉は胸に響いた記憶がある。 

 これは、まさに悲劇だった。沢山の人が死んでしまったと、過去形で悲しむより、目の前で死なれたことの方がずっと印象的だった。


「ハハハ、人間は弱いですね」


 そう言って、クレバリートが嗤う。見下し、嘲笑う。追従の笑い声がそこかしこから聞こえた。


「てめぇ……」


「貴方が仲間にならないからこうなるんですよ。さあ、次はこの人の番ですよ~」


 愉快気に笑いながら部下に引っ張ってこさせたのは、


「おら、キリキリ歩け!」


「うっ……シェイラ!」


 村長だった。彼はシェイラの姿を見るなり安堵の表情を浮かべた。まるで、彼女さえよければ自分はどうでもいいかのよう。表情ひとつで自身が温厚篤実な人柄だと証明してみせた。

 村長がこちらを向くと、申し訳なさそうに頭を垂れた。


「ユー様。申し訳ございません。村の面倒事に巻き込ませてしまって」


「過ぎたことはしょうがない」


 それに、これは俺の所為でもある。


「それだけではありません。わしは嘘をついておりました」


「ああ、知ってる」


 村長は一瞬驚嘆の表情を浮かべたが、直ぐに渇いた笑みを取り繕った。


「そうでしたか。さすがはユー様」


「問題は事実を隠蔽する理由だ」


 何故、俺に事実を伝えなかったのか? それだけがずっと引っかかっていた。

 村長が呟くように告げる。


「それは……シェイラのためです」


 シェイラのため?


「彼女は……」


「もういいですよお爺さん。さあ、ユーさん。私達の仲間になる決心はつきましたか?」


「くっ……」


 クレバリートの指示で村長の口が塞がれた。同時に、俺はだんまりを決め込む。こんな外道共と同列に扱われてたまるか。

 だが……。


「分かっていないようですね。仕方ない。……やりなさい」 


 村長の首筋に魔人の爪が突き立てられる。人の喉笛など一瞬で掻き切れる強固な爪が。


「わかっ……」


 そう、俺が声を上げようとした時だった。


「アアァァァアああァァアアァァァアああァァ!!!」


 背後で呻くような、はたまた怒声であるような叫喚が響いたのは。見れば、シェイラが頭を抱えて地をのたうちまわっていた。


「やめて、やめて、やめて、もうやめてよぉぉぉおぉぉ!!」


 叫び声に共鳴するかのように、彼女の瞳が次第に色を濃くしていく。

 その光景に見覚えがあるのか、村長が矢も楯もたまらず叫んだ。


「もう、これ以上シェイラを刺激するのをやめるんじゃ! このままでは……」


 継いだ言葉は、おおよそ信じられないものだった。


「この場に居る者、全員が死ぬ! 彼女は……」



「特異体質『境界反転者』(タルミヌス)じゃ!」

単語で分からないものがあれば、過去の話を見ていただければ分かります。

それにしても、最後の方力尽きていますね。最近、本当に疲れが溜まっていて……。

次の更新はいつになるやら。……なるべく早いうちに出したいと思います。

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