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異世界魔眼魔術師の軌跡 旧名:6seconds  作者: 結城紅
第一章 異世界アークフィリア
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014.強引女神と猫耳少女

 ぐるぐると、目紛るしく光景が変遷していく。数秒おきに切り替わる視界に嘔吐感を催すと同時に、嫌悪感を抱く。

 強制転移――。空間を移動する術だろう。そもそも、空間を超越するなど、人が手を出してはいけないことだ。俺はそれを今、身を以て体験している。生理的嫌悪と、身体が引き裂かれるような痛みに悶える。

 時空が安定していないのか、四方八方の世界に引き寄せられる。


「なんという饗応……」


 これを、他の常人も一様に体験したというのか。俺は<身体強化>(コルペ・ロブル)があるからいいものの、魔術が使えない一般の人たちは耐え難い思いをしたはずだ。例に漏れず、花梨も……。

 あの……ル○ーシュ気取り、もとい仮面の男は、俺を[他の人たち同様の世界に送る]と言った。その言葉が真実であるならば、俺は花梨と同じ場所に跳べる。花梨だけでなく、他の人を救うことだって出来る。

 しかし、俺は一体どこに跳ばされるのだろう?

 無数の世界が視界の端に過る中、正面に見えた世界は溢れんばかりの光を放っていた。

 泡のようなものに包まれた世界は、俺の目を引くには十分だった。

 皓々と輝く世界に、自然と俺は引き寄せられていた。

 ベクトルが反骨心でも抱いたのか、重力に逆らい前方へと浮揚する。それと同時に、


『時期尚早のように思えるけど、来てくれたのね』


 聞き覚えのある声が耳朶に触れた。

 毎晩夢に出てきた、あの女の子の声だ。


「正確には、無理矢理来させられたんだけどね」


 少女は俺の言葉を聞き届けると、目前に姿を現した。


『ごめんなさい。私にもっと力があれば……』


 不謹慎にも、憂う彼女の相貌に一瞬視線を奪われてしまった。

 白いワンピースを肩からかけているだけの素朴な服装だが、その頭上にある荘厳な天輪の放つ圧倒的な存在感が、彼女を天上の者たらしめていた。

 この世のものとは思えない美しさ。世界中を探し回ってもこれほどの美女はそうそういないだろう。


「君のせいじゃない。俺の責任だ」


『ううん、違うの。彼女を止められなかったのは私だから』


 彼女……?

 少女は悲痛に顔を歪めると、一転してこちらに顔を向けた。


『私は彼女……魔女ルベリアに力を取られてしまい弱体化してこのような姿になってしまいました』


 話がよく見えないが……。過去にこの女の子とルベリアっていう魔女との間に何らかのいざこざが生じて力を取られた、ということはわかった。けど、弱体化してこの姿になったっていうのは……? 


『自分で言うのはおこがましいですが、私、こと[女神アイテール]の力をその身に取り込んだ魔女は禁断の術を発動させようとしています。その術が完成してしまうと、魔力を持つ全ての人種は駆逐されてしまうのです! つまり、世界の滅亡です。そして、魔女に加担する者も現れました。最早、私の力では彼女を止めることはできません。お願いです、彼女を倒して、世界を救ってください!』


 め、女神……だと?

 いや、事が重大だということはわかった。世界が滅亡の危機に瀕しているということも分かった。そして、目の前にいるのが女神様様ということも。いや、ですが女神ですよ? 世界の滅亡の危機ですよ? 助けて下さいって……。

 俺、夢見てるのかな……。

 でも、異空間を飛ぶ痛みは感じるし、きっとこれは現実だ。

 だとしたら、女神の話にはきちんと対応すべきなんだろうな。


「今までの数々の無礼をどうかお許し下さい。……ですが、私には救わねばならない人がいるのです」


 そう、俺は花梨を助けなくてはならない。ぶっちゃけ、今俺が言っているのは[俺は幼馴染を助けなくちゃいけないので世界なんて二の次]ということだ。

 よく考えれば、急に知らない世界を助けて下さいと言われてもどうしようもない。こちら側には何もメリットなんてありはしないし、そもそもそれがどこの世界なのかも分からない。それよりも花梨と同じ世界に飛んで救う方が先決だ。どうやらこの空間には無数の世界があるらしいし。


『分かっています。ですが、それを承知の上で言っているのです』


「……というと?」


『貴方の救おうとしている子は私の世界にいます』


 ……面倒くさいことになったな。

 この女神様が世界を救ってほしいがために嘘をついている可能性がある。


「……証拠は?」


『貴方の幼馴染の名前は徳島花梨。違いますか?』


 合っている。ついでに俺との関係性も把握している。この女神の言っていることは正しいのか?

 読心の可能性もなくもないし、そもそも女神なのかすら怪しく思えてくる。文献で見たライベル王国の女神を騙っているだけかもしれない。疑い出すとキリがない。

 だが、もし女神の発言が正しいものであれば? 俺は花梨を見捨てることになる。

 だとすると、選択肢はひとつしかない。


「分かりました。貴方の願い、引き受けましょう」


 というか、女神様。私たちの世界では、それはお願いではなく『脅迫』というのですよ。

 俺はもう、疑心暗鬼の心境に陥りそうだよ。


『本当ですか! ありがとうございます』


 ペコリと頭を下げられ、いやいやこちらこそと、はた迷惑なのに頭を下げた。社交辞令って大変だな。


『貴方のもつ[カイロスの瞳]、その真価を発揮すればきっと魔女にも勝てるはすです!』


「あの……あんまり期待しないで下さいね?」


 かつて、ここまで小心者の勇者がいただろうか。

 というか、[カイロスの瞳]の存在を知っているとなると、いよいよ女神というのは確かなようだ。


『いえ、負ければ世界は滅亡。魔女の悲願が達成されてしまいます。そうすると因果律が崩壊し二重の意味で世界が滅亡します』


 因果律……?

 もうちょっとわかりやすく説明してくれないかな。言葉自体はわかるけど、説明が飛んでるんですよ。


『私の最後の力を貴方に託します。受け取って下さい』


 スーっと女神の身体から淡い光の球体が飛び出し、俺の身体に触れるなり消えた。胸の内に温かいものが染み込んでいくのを感じる。だが、感動より、受け取ってしまったという後悔に近い念が胸を満たした。

 それでも、溢れんばかりの魔力を感じる……! これが、噂に聞く女神の加護という奴ですか!


『世界の命運は貴方に託されました』


 そして、重圧的なプレッシャーをかけて女神の姿が空に掻き消えた。

 なんか……。


「いまいち実感が湧かないな」


 とはいえ、女神から力を授かったのは確か。

 僅かな興奮を抱き、俺は眼前に迫る世界を凝視した。

 こぼれんばかりの光を一身に受け、俺という存在が飲み込まれていく。

 終わってしまったことは仕方ない。力を貰った以上は、きちんと役目を果たそう。

 自分の中で割り切るのは早かった。

 俺は抗うのを止め、光の奔流に身を任せた。

 感慨に浸ると、俺の視界が真っ白に染まった。


『ようこそ、異世界アークフィリアへ』


 凛とした声音だけが空間に響いた。

 





「ん……」


 眩しい陽光に目が覚める。

 寝台の横に立てかけておいたはずの目覚ましを事前に止めようと、寝ぼけ眼をこすりつつ手で押そうとして……。

 その手は空を掻いた。

 あれ、おかしいな?

 もう一度、二度、三度。

 幾度やれど手は虚しく空を掻くばかり。

 俺は慌てて跳ね起きた。


「……!?」  


 そして、目の当たりにした光景に愕然とする。

 広漠とした、どこまでも続くような草原。滋味に富んだ青空。現代日本ではお目にかかれないような豊かな木々。見たこともない実や品種ばかりだ。

 背後には切り立った崖。横手に見えるのは、対岸を繋ぐ木製の橋。

 青色の絵の具を零したような空を仰ぐ。


「……きてしまった」


 思い出した。俺は、脅迫じみた文言を叩きつけられ女神様に異世界を救えと頼まれたんだった。これも全て、ここに飛ばした仮面の男の所為だ。

 っていうか、背後が崖って。寝返りでも打ったらどうするんだよ。俺を殺す気か。

 胡蝶の夢……とでも言えばいいのだろうか。未だに夢と現実の区別がつかない。

 でも、これを現実と認め受け入れるしかないんだよな。


「差し当たり、この国内での通貨と食料、花梨の行方、魔女打倒の手がかりを見つけないと……」


 いきなり前途多難で心が折れそうだ。いや、この時点で折れた。

 不幸中の幸い、女神の発言からするとこの世界にはライベル王国が実在する。父の文献からライベルに関する情報は山ほど得ているため、若干とはいえ安心できる。


 ……ライベル王国は異民族が種々雑多と混じり合い、自己生産率、物資の普及率も高くアリストクラシーの存在する独裁政治を敷かれた社会だ。代々カイロスの瞳を受け継いだ王族が王を襲名する決まりとなっている。現在は14代目……のはず。時間の流れが違う、なんていうとんでも理論が持ち出されてはかなわない。

 ライベル王国は戦に強く、隣国を全て自国に取り込んでいる。そのため、大陸上で最も版図が広い。地球とは違い、この世界はひとつの大陸の上に人々が生活しているので、ライベルの武力が圧倒的だということが窺える。過去に何度か反逆があったようだが、内憂を払う力もある。更には移民も多いため、色々な文化が存在する。地球でいうところのアメリカと思ってもらっていい。

 特産も、取り込んだ国の数だけ存在する。中でも代表的なのが……何故か米。クレモレム(アイスクリームのようなもの)、リブム(生地の薄いパンケーキのようなもの)といった異世界然とした食べ物を押しのけ、何故か米が市場で人気をかっさらっているらしい。

 ……何故だろうか? 文献では、三代目の王が提唱したとされているが……。この、三代目の王に関しては文献が殆ど残っていない。名前すら分からないのだ。

 一体何者だったのだろう?

 兎に角、これらの情報は文献で得たものなので現在も情報通りとは限らない。もしかするとクレモレムやリブムの方が米より人気かもしれないし、王国そのものが廃れているかもしれない。今のところはこの目で視る他ないわけだ。


「とりあえず、現在の位置を確認してライベル王国の城下街へと向かうか」


 情報が流通しているのは都市部に決まっている。

 通貨、食料、花梨、魔女、最低限の問題だけでも山積みだ。寝床や生活必需品なんかも必要だな……。だが、喫緊を要するのは現在位置の確認だ。


「ほんとここどこなんだろう。そして、飛ばされてからどのくらい時間が経った?」


 ゴロゴロと青草の上をのたうちまわる。

 傍から見れば不審に思えるだろう。


「あの~」


 不意に、後方から声が掛かった。

 控えめに誰何する声に振り向く。


「はい?」


「大丈夫……ですか?」


 どうやら俺は相当不審に見えたらしい。

 どうでもいい感慨を抱き、振り向いた先には――。


「……ッ!?」


「……?」


 頭上に疑問符を浮かべ、『猫耳』を立てている少女がいた。

久しぶりの更新でした。

一週間以上も空けてしまいました。

これからはもう少し早く上げられるよう努力します。

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