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異世界魔眼魔術師の軌跡 旧名:6seconds  作者: 結城紅
第一章 異世界アークフィリア
15/41

015.師弟関係は面倒くさい

「あの~」


 不意に、後方から声が掛かった。

 控えめに誰何する声に振り向く。


「はい?」


「大丈夫……ですか?」


 どうやら俺は相当不審に見えたらしい。

 どうでもいい感慨を抱き、振り向いた先には――。


「……ッ!?」


「……?」


 頭上に疑問符を浮かべ、『猫耳』を立てている少女がいた。


 ロングスカートに薄手のインナー、その上にカーディガンという、いたって普通の出で立ち。だが、少女の隠しきれないオーラが端々から伝わってくる。端的に言えば、可愛らしい。控えめな口調といい、相貌といい完璧パーフェクトと言わざるを得ない。そして、何より目を引くのが『猫耳』! まさか、生きている内にお目にかかれるとは……。

 俺は拝み奉りたい気持ちを懸命に抑え、尋ねた。


「あの……ここはどこでしょうか?」


「えと……本当に大丈夫ですか、頭?」


 出会い頭にいきなり頭の心配をされた。

 何を言う。この頭には約3万5000冊もの蔵書がインプットされているんだ。(さすがに10万3000冊とまではいかないが)この俺が馬鹿なはずがない。


「私、地面の上でのたうちまわった挙句にここはどこと聞かれるなんて初めてです」


 なるほど、俺は馬鹿だったな。人目も憚らずにそのような愚行を冒すとは。


「大丈夫。そんな特殊な人は君だけだろうから」


 とりあえず、誤解は解いておかないと。


「えーっとですね。私は通りすがりの旅人でして。あっちこっちフラフラしてる内に迷ってしまったのですよ」    


 我ながら適当すぎる言い訳だな。

 俺のいた世界では普通に交番に連れていかれるが、この世界ではその限りではない。なにせ、旅人は実在する(はず)だからな。修験者みたく修行し、己を鍛えるために魔術師やら戦士やらが旅に出るらしい。

別に、ポケ○ンマスターになるためじゃない。


「それは大変ですね。えと、ここはアルンカ村の外れです」


 村の外ってことか。

 因みに、普通に話しているように見えるが実際はこの国の言語で話している。父さんの書斎樣様だな。 


「アルンカか……」


 不幸中の幸いというやつで、アルンカは王国の城下街『ライベル』の郊外に位置する村。ライベルとの距離はそれほどない。どうやら、俺の当面の目的は安易に達成できそうだ。


「どうかしましたか?」 


「いや、なんでもないよ」


 とりあえず、金銭を確保しなきゃ話しにならない。リアル(元の世界)だったらバイトするか、なんて安直に決められるがこの世界ではそう上手くいくまい。なんとかして金回りの良い仕事を探さねば……。


「あの、少しお伺いしたいところなのですが……」


「はい?」


 俺の知っていることでよかったらなんでも話そう。情報交換は大切だし、もしかするとこの少女が金銭の問題を解決できる話を知っているということもなくも……なければいいな。

 まあ、世の中そう上手くはいかないか。


「旅人さんということですと、戦士職か魔法職でいらっしゃるのですよね?」


「ええ、はい。俺は魔術師です」


「まっ、魔術師様ですか! こ、これは失礼なことを……」


 言うなり、少女は「ははぁ~」とばかりに深々と頭を地に擦りつけた。俺は苦笑いしつつ少女を俯瞰した。


 アリストクラシー、『貴族制』。先般説明した通り、この世界にはリアルでは因習じみた制度が施行されている。階級は、貴族には男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵と五段階。それ以外に、『職』にも階級がある。

 下位職、一般職、上位職、聖職、右から順に高い。貴族は上位職に含まれており、王族なんかは聖職に位置づけられている。

 一般職は町民や村民から戦士職、鍛冶職までと幅広い。その下の下位職というのは、奴隷や罪人、魔人のことを指す。この世界には奴隷制もあり、なんらかの罪を犯した刑罰に奴隷にさせられることもある。罪人は一時的なもので、死刑でなければ元の階級に復帰できる。では、魔人はなにかというと、これは完全なる差別だ。歴史を紐解くと人の形をした魔は魔物共々王国に甚大な被害を与えている。もちろん、ごく一部のものであり全てがというわけではない。しかし、いくつかの種族が魔王の配下になり侵略してきたのは史実。一部の例外を除き下位職にあてられる。その例外というのは、ケットシー、つまり猫耳族で三代目国王に貢献した功績から一般職に引き上げられた。

 上位職は主に貴族の出である者がついた職業のことで、騎士(一般職でいう戦士)や魔術師を指す。騎士と戦士の違いは、騎士は王宮を守護する公職であり戦士はフリーの傭兵だということだ。魔術師は教養がないとなれないため上位職に位置づけられている。この国の識字率は低いので、たいていの魔術師は貴族の出となるわけだ。

 後は、聖職についてだが、これは王族や戦果を上げた騎士が聖騎士になることで得ることができる。(それでも王族の方が偉いが)また、戦士が功績を上げることで騎士になることもある。

 まあ、そんなわけで目の前にいる猫娘は俺が上位職である魔術師と知った途端平伏したということだ……。実際には更にその上を行く聖職なんだけど。


「いや、そういうのはいいよ。一文無しの旅人だし」


「い、いえ。そういうわけには参りません」


 緊張した面持ちで少女が告げた。意外と強情だな。


「あの、わ、私ですね……」


 弾かれた琴線のように声が震えている。俺の階級が高いからって、そこまで緊張しなくてもいいと思うんだが。

 控えめな子なのかな?


「実は少しだけ魔術が使えるのですが……。教えてくれる人がいなくて困ってるんです」 


 前言撤回。凄い押してくる子だ。超アグレッシブ。

 面倒な予感がする。


「つまり、俺に師事したいと?」


「はい!」


 顔を上げ、溢れんばかりの笑顔を咲かせた。喜色満面の笑みを浮かべこちらを見上げてくる。

 猫耳美少女が輝かしい笑みで頼み事をしてきた。それも、ドギツイのをだ。

 こ、これは精神攻撃に他ならない……!

 しかし、だからといって了承するわけには……了承するわけには……ッ!


「お願いです!」


「い、いや……でも」


「お願いします!」


「え、えと……」


「一生のお願いです!」


 目尻に大粒を煌めかせ、上目遣いで見上げてくる。

 これは、断るのが酷すぎる……!


「お願いですぅ……グスン」


 一滴の水粒が一筋の無色の軌跡を描き頬を伝って地に落ちた。蒸気した頬、泣き腫らした瞳。それら全てを含んでの上目遣い。そして、泣かしてしまったという罪悪感。

 断れる奴は鬼か悪魔だ。 


「お願い……」


「わかった。わかったからもう泣かないで……」


 罪悪感に圧迫されてこっちが泣きたくなる。

 俺が頼みを了承した旨を聞くと、少女は猫耳をピンと張り満面の笑みを浮かべて抱きついてきた。


「お、おい……」


「本当ですか! 本当ですね!?」


「本当だから、大丈夫だって」


 名前も知らない女の子を弟子にしちゃったよ……。まあ、一生のお願いならしょうがないよな。しょうがないよね。でもこの子何回も一生のお願い使ってそうだけど……。


「102回目の一生のお願い、聞き届けてくれてありがとうございます!」


 おい、待てやコラ。


「これからは貴方様のことを師匠とお呼びいたします!」


 嬉しいんだけど嬉しくない。102回も一生のお願いを使っていることが腹立たしい。

 そんなことより……。


「その前に、君の名前を教えてもらっていいかな?」


「はい! 私はシェイラっていいます。これからよろしくお願いします!」


「うん、俺は咲野優。よろしく。あと、過剰な敬語は遠慮して。疲れるから」


「ユーさんですか。分かりました。苗字があるということは貴族様なのですね?」


「うーん、そんなとこかな」


 俺は言葉を濁しておく。歯切りが悪いのにはちゃんとした理由がある。

 苗字をもつことが出来るのは、貴族と王族だけだ。そして、この世界では俺は王族だ。

 俺の本名は、こちらではユー・ウェルト・ライベル。しかし、簡単に明かすわけにはいかない。王族ともなれば祭り上げられるだろうし、なにかと拘束されることになる。俺は自由に動ける方が都合がいい。それに、簡単に証明できるものがないしな。『カイロスの瞳』については一部の権力者しか知らないだろうし。俺が所持しているということは、この時代の王は持っていないということだから、存在そのものを秘匿しているかもしれない。


「えーと、シェイラ。俺についてくるということは各地を放浪することになるんだけど、それでもいいのか?」


 彼女が俺の弟子になるということは、村を捨てることと同義だ。いつ村に戻れるかさえ分からない。魔物とも戦うことになるから命の危険も伴う。

 しかし、それでもシェイラは面持ちを崩さなかった。


「はい、元より承知しています。きっと村長も許してくださるはずです」


「そうか。ところで、シェイラはここでなにをしていたんだ?」


「私は薬草を摘んできたところでして。これから村に帰るところだったんです」


「それはちょうどいい。俺からも村長に言わなきゃいけないだろうし」


 兎にも角にもアルンカ村まで向かうことになった。

 緑豊かな森林があちこちに散見され、路肩には種々雑多な花々が咲き乱れている。唯一整備された一本道を通り、雑談混じりに進んでいく。

 彼女の話によると、アルンカ村は農業が盛んで、必要な物資を村の商人が週に一度来るライベルからの商人と取引するそうだ。城下街に行くならその時がチャンスだな。

 一方、俺はというと、女神や黒騎士、仮面の男、魔女の話を聞かせた。どれも信憑性が低いものだが、シェイラは素直に受け入れてくれた。


「あと、シェイラ。俺の左目を見てくれ」


「はい」


「俺のこの瞳は特殊でな。『カイロスの瞳』っていうんだが、これについて何か知っていることはないか?」


 俺の問いにシェイラは唸り、首を捻った。懸命に頭の中をひっくり返している様子。

 この問いは、『カイロスの瞳』を知っているかどうかを知りたくて尋ねたものだったが、この様子じゃ知らないだろう。どうやらこの国の王は民衆には露見していないようだ。


「魔眼の類ですよね。その名前は聞いた覚えがないです」


「そうか。つまらないことを聞いてすまない」


 っていうか、『カイロスの瞳』以外にも魔眼って存在したのか。

 そのことについて聞くと、特異的な体質を生まれ持った人が先天的に発現することがあり、個人によって効力は様々で今までも数種類確認されているらしい。

 特異体質については知っている。これには先天的に発現するタイプと後天的に発現するタイプがある。前者は個人特有のオリジナルの能力。身体の一部に異常を来す。

 後者は内面に異常を来す。主に、使える魔術の系統が増えたりする。珍しいものだと、『召喚術』。三代目が使っていたとされるが、本人と術についても謎が多い。

 ……先天的な特異体質が目に発現し『魔眼』となるわけか。

 俺の『カイロスの瞳』は違うけど。


「あっ、もう少しで村に着きますよ」


 シェイラが前方を指差す。

 指先には視界いっぱいの家と農地が見えた。人々はせっせと畑を耕し、洗濯物を干したりと忙しそうだ。

 ……平和だな。

 村の入口には人二人分くらいの高さのアーチがあり、その横には『アルンカ』と書かれた立札が立っていた。

 シェイラと共に村に入り、中央の道を進んでいく。

 やがて、シェイラの先導により村長らしき人物の家(周りと比べて造りが若干綺麗だった)に着いた。

 コンコンとノックをして、中の返事を確認せずにシェイラはガチャリと扉を開けた。


「おい、返事ないのに開けてもいいのか?」


「いいんですよ。ここ、私の家ですし」


 …………は?

 シェイラ、村長の娘だったのか?

次も少し早めに更新したいと思います。

設定が多くて本当にすみません。

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