第二部 第二十章「深まる絆」
修行の合間、フィンが、珍しく、こんなことを言い出した。
「たまには、三人で、飯でも食いに行くか」
「フィンさんが、誘ってくれるなんて、珍しいですね」
セフィが、驚いたように言うと、フィンは、少し照れくさそうに、視線を逸らした。
「別に、深い意味はない。ただ、たまには、いいだろうってだけだ」
*
案内されたのは、黒猫亭とは違う、こぢんまりとした食堂だった。フィンの行きつけらしく、店主が、親しげに声をかけてきた。
「おや、フィン。今日は、お連れさんと一緒かい」
「弟子と、その連れだ」
フィンが、そう紹介すると、店主は、興味深そうに、セフィとキーラを見比べた。
「へえ、あんたが、弟子を取るなんてねえ。長生きはするもんだ」
店主の言葉に、フィンは、うんざりしたように、肩をすくめた。
*
運ばれてきた料理を囲みながら、三人は、他愛のない話に花を咲かせた。湯気の立つシチューと、焼きたてのパンが、テーブルに並んでいる。
「フィンさんは、何百年も生きてるって、本当なんですか」
セフィが、思い切って尋ねると、フィンは、あっさりと頷いた。
「ああ、本当だ。もう、正確な年数は、自分でも覚えてない」
「そんなに長く生きてると、飽きませんか」
キーラが、率直に尋ねると、フィンは、少し考え込んだ。
「飽きる、というより……色々と、擦り切れていく感覚はあるな。だが、時々、お前らみたいな、面白い出会いもある。それだけで、生きてる意味は、あるのかもしれない」
その言葉に、セフィとキーラは、顔を見合わせ、微笑んだ。
「昔は、どんな暮らしをしてたんですか」
セフィが、興味津々に尋ねると、フィンは、遠い目をした。
「色々だな。旅をしたり、どこかに腰を落ち着けたり。同じ場所に長くいると、周りが年を取っていくのに、俺だけ変わらないから、不審がられる。それで、また旅に出る、その繰り返しだ」
その言葉には、これまでのフィンからは、あまり感じられなかった、寂しさのようなものが、微かに滲んでいた。
「それって、寂しくないんですか」
「寂しいさ、そりゃあ。だが、慣れるもんだ。何百年もやってればな」
フィンは、そう言って、シチューを、一口すすった。
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「なあ、フィン」
キーラが、ふと、真剣な顔で尋ねた。
「あんたは、2000年前の戦争について、どれくらい知ってる」
その問いに、フィンの表情が、一瞬、変わった。
「……随分と、踏み込んだことを聞くな」
「セフィが、探してる真実に、関わってることかもしれない」
キーラの言葉に、フィンは、しばらく黙り込んだ。
「今は、まだ、話す時じゃない。だが、いずれ、話すべき時が来るだろう」
その意味深な言葉に、セフィは、胸がざわつくのを感じた。けれど、フィンの目には、拒絶ではなく、むしろ、何かを見極めようとするような、真剣な色が宿っていた。
*
「今は、まず、お前が、もっと力をつけることだ。真実を知るには、それに耐えうるだけの、強さがいる」
フィンの言葉に、セフィは、深く頷いた。
「はい。頑張ります」
「その意気だ」
食事を終える頃には、三人の間に、これまでにない、温かな空気が流れていた。師と弟子、そして、その仲間――言葉にすれば単純だが、そこには、確かな絆が、育まれ始めていた。
*
店を出た後、フィンは、セフィとキーラに、それぞれ、小さな包みを手渡した。
「これは?」
「土産だ。店主が、余分に持たせてくれた」
包みを開けると、中には、焼き菓子が入っていた。
「フィンさんも、こういう気遣い、するんですね」
セフィが、からかうように言うと、フィンは、むっとした顔をした。
「悪いか」
「ううん、嬉しいです」
セフィの笑顔に、フィンは、少し照れくさそうに、視線を逸らした。
「キーラの分も、ちゃんとあるからな」
「ああ、ありがとう」
キーラが、素直に礼を言うと、フィンは、満更でもなさそうに頷いた。
「また、今度、三人で飯に行くか」
フィンの提案に、セフィとキーラは、顔を見合わせて、笑顔で頷いた。
「はい、ぜひ!」
「約束だぞ」
夜の帰り道、三人は、他愛のない会話を交わしながら、それぞれの宿へと、歩いていった。この街で築かれた、新しい関係性が、セフィの心に、確かな温もりを灯していた。師匠と、仲間と、こうして笑い合える日々が、これからも、ずっと続いていけばいいと、セフィは、静かに願っていた。




