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まだ、続いていく  作者: たべられて候
第一部
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第一部 第二十五章「潜入」

馬車に揺られること、半日。車輪の音と、荷台の揺れだけが、時間の経過を伝えてくれた。時折、外から聞こえる兵士たちの会話に、セフィは耳を澄ませたが、これといった手がかりは得られなかった。


ようやく止まった先は、森の奥深くに隠されるようにして建つ、古い砦のような建物だった。蔦に覆われた石壁は、長い年月を経てきたことを物語っている。


「降りろ」


兵士に促され、子どもたちは、一列になって馬車から降ろされた。周囲は、高い塀に囲まれ、逃げ場らしい逃げ場は見当たらない。塀の上には、等間隔で見張りが配置され、物々しい雰囲気が漂っていた。


*ここが、連れてこられる場所……*


セフィは、周囲の様子を、必死に目に焼き付けた。塀の高さ、見張りの兵士の数、建物の配置――全てが、後で役立つかもしれない情報だった。門をくぐる瞬間、頭上に掲げられた紋章にも、セフィは目を凝らした。見たことのない、奇妙な意匠だった。


*


案内されたのは、地下へと続く、薄暗い通路だった。牢屋のような小部屋が、いくつも並んでいる。セフィたちは、その一室に押し込まれた。


「大人しくしていろ。手荒な真似はしたくない」


兵士は、そう言い残し、鉄格子の扉を閉めて去っていった。


薄暗い部屋の中、セフィは、既に囚われていたらしい、他の子どもたちの姿を見つけた。皆一様に、怯えた表情を浮かべている。壁際に座り込んだまま、身動き一つしない子もいた。


「大丈夫? 怪我、してない?」


セフィが優しく声をかけると、隅の方に座っていた一人の少女が、鋭い視線を向けてきた。


*


その少女は、銀灰色の髪に、狼の耳と尻尾を持っていた。琥珀色の瞳が、警戒するように、セフィを見据えている。他の子どもたちとは、明らかに違う、張り詰めた空気を纏っていた。腰には、粗末な布に包まれた、何か細長いものを、大切そうに隠し持っている。


「……お前、新入りか」


少女の声は、低く、抑揚に乏しかった。年齢は、セフィよりいくつか上に見える。


「うん。今日、連れてこられたの」


「そうか」


少女は、それ以上何も言わず、視線を逸らした。話しかけるな、とでも言うような、冷たい態度だった。


けれど、セフィは、その少女の手が、微かに震えていることに気づいていた。震えているのは、恐怖からではない――もっと別の、抑え込んだ何かのように、セフィには感じられた。


「あなたも、怖い?」


セフィが尋ねると、少女は、一瞬だけ動揺したような表情を見せた。


「……別に。怖くなんかない」


強がるようなその声に、セフィは、なんとなく親近感を覚えた。


「わたし、セフィって言うの。あなたは?」


少女は、しばらく黙っていたが、やがて、ぽつりと答えた。


「……キーラ」


*


「キーラは、いつから、ここに?」


セフィが尋ねると、キーラは、僅かに視線を落とした。


「三日前。自分から、志願した」


「志願?」


「……お前もだろう。その耳、作り物だ」


キーラの鋭い指摘に、セフィは、思わず息を呑んだ。


「なんで、分かったの?」


「動きが、不自然だった。それに、匂いが、本物の獣人と違う」


キーラは、そっけなくそう言った。


「あなたも、何か、目的があって、ここに?」


セフィが尋ねると、キーラの表情が、一瞬、険しくなった。


「……お前には、関係ない」


それ以上、何も語ろうとしないキーラの態度に、セフィは、深追いすることを諦めた。けれど、その瞳の奥に宿る、燃えるような何かを、セフィは見逃さなかった。


*


夜が更ける頃、セフィは、キーラに、そっと話しかけた。


「わたしね、この事件を、終わらせたいの。だから、わざと捕まった」


「……無謀だな」


「うん、無謀かもしれない。でも、見過ごせなかった」


セフィの言葉に、キーラは、しばらく沈黙していた。


「……わたしも、同じだ」


小さく、そう呟いた声が、薄暗い牢の中に、静かに響いた。


セフィは、その言葉に、確かな手応えを感じた。目的は違うかもしれない。けれど、同じ場所に立ち、同じ敵に立ち向かおうとしている――それだけで、心強い仲間になれる気がした。


「一緒に、何とかしよう」


セフィが手を差し出すと、キーラは、しばらく躊躇っていたが、やがて、その手を、そっと握り返した。


「……ああ」


「キーラ、その荷物、何が入ってるの?」


セフィが、布に包まれた細長い荷物を見つめて尋ねると、キーラは、一瞬、答えを躊躇った。


「……短剣だ。二本」


「武器、持ってるんだ」


「これがないと、何もできない」


キーラは、そう言って、布の結び目を、確かめるように、そっと握りしめた。その仕草には、単なる武器以上の、何か特別な意味が込められているように、セフィには感じられた。


牢の外では、見張りの足音が、規則正しく響いていた。二人の、新たな共闘が、この薄暗い場所で、静かに始まろうとしていた。


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