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まだ、続いていく  作者: たべられて候
第一部
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第一部 第二十三章「変装テスト」

「よし、今日は、実際に村の中で試してみましょう」


朝食を終えたリアナが、そう切り出した。セフィは、耳と尻尾を装着し、鏡代わりの水面で、最後の確認をした。


「変じゃないかな」


「大丈夫、よく似合ってるわ。あとは、堂々としていること」


「うん!」


「もし誰かに話しかけられたら、はきはきと答えること。もじもじしてると、逆に怪しまれるわ」


「分かった!」


セフィは、気合を入れるように、両頬を軽く叩いた。今日から数日は、村の中で、この変装がどれだけ通用するか、試していく予定だった。


*


まず試したのは、広場で遊んでいた、幼い子どもたちだった。


「あれ、見ない子だ」


「新しい子?」


小さな子どもたちが、興味津々に近寄ってきた。セフィは、緊張しながらも、練習してきた通りに、耳をぴくぴくと動かしてみせた。


「わあ、耳、動いた!」


「すごい! 触っていい?」


子どもたちは、無邪気に、セフィの周りに群がった。予想以上の好反応に、セフィは、内心でガッツポーズをした。


「えへへ、そうだよ。動くよ、耳」


「尻尾も、触っていい?」


「いいよ!」


すっかり調子に乗ったセフィは、尻尾を左右に振って、子どもたちを喜ばせた。


「本物みたい!」


「でしょでしょ!」


「ねえ、どこから来たの?」


一人の子が尋ねると、セフィは、事前に考えておいた設定を、すらすらと語った。


「遠くの村から、引っ越してきたの」


「そうなんだ! これから、よろしくね」


「うん、よろしく!」


すっかり打ち解けた様子で、子どもたちは、セフィを遊びの輪に誘った。予想以上の順調さに、セフィは、内心で密かに驚いていた。


離れた場所で見守っていたリアナは、その順調な滑り出しに、胸を撫で下ろしていた。


*


けれど、調子に乗ったのが、良くなかったのかもしれない。


次に向かったのは、村の市場だった。木箱に積まれた野菜や、吊るされた干し肉の匂いが、あたりに漂っている。品定めをしていた行商人の男が、セフィの姿に、ふと目を留めた。


「おや、坊主。お前さん、その耳と尻尾……」


行商人は、眼鏡を押し上げながら、じっとセフィを観察し始めた。


「え、あ……」


セフィの背筋に、冷や汗が流れた。


「随分と、精巧な耳だな。素材は何を使ってるんだ?」


行商人は、商売柄なのか、妙に鋭い観察眼を持っていた。手を伸ばし、耳に触れようとする。


「あ、あの、触らないでください! 恥ずかしいので!」


セフィは、咄嗟に後ずさりながら、そう叫んだ。


「ほう? 恥ずかしがり屋の獣人もいるもんだな」


行商人は、怪訝そうにしながらも、それ以上は追及しなかった。セフィは、心臓が飛び出しそうなほど、ドキドキしていた。


*


「危なかった……」


物陰に隠れたセフィが、胸を撫で下ろしながら呟いた。リアナは、必死に笑いを堪えている様子だった。


「な、なに笑ってるの!」


「ご、ごめんなさい。あの慌てふためいた顔が、あんまりにも面白くて」


「もう、リアナお姉ちゃん!」


セフィが頬を膨らませると、リアナは、堪えきれずに、とうとう吹き出した。


「くくく……『恥ずかしいので』は、傑作だったわ」


「だって、他に言うことが、思いつかなかったんだもん!」


セフィが抗議すると、リアナは、目に涙を浮かべながら、なおも笑い続けた。


*


「でも、大人の目は、やっぱり鋭いのね」


ひとしきり笑った後、リアナが真剣な顔に戻って言った。


「子ども相手なら、大丈夫そうだけど、大人には、もっと注意しないと」


「うん……あの人、鋭かった」


「なるべく、大人には近づかないようにしましょう。それと、触られそうになったら、はぐらかす練習も、しておいた方がいいわね」


「触らないでくださいって言うの、意外と効果あったよ」


セフィが得意げに言うと、リアナは、また笑いを噛み殺した。


「そうね、それは、覚えておきましょう」


*


その日の夕方、二人は、その日の成果を振り返った。


「子どもは、簡単に信じてくれるけど、大人は、もっと工夫がいるね」


「ええ。あと数回、練習を重ねましょう」


「うん!」


冷や汗をかいた出来事ではあったが、セフィにとっては、どこか楽しい経験でもあった。緊張と隣り合わせの毎日の中で、こうした小さな笑いが、二人の間に、確かな余裕を生んでいた。


「次は、もっとうまくやってみせる」


セフィが意気込むと、リアナは、優しく微笑んだ。


「ええ、期待しているわ」


その後も、数日にわたって、セフィは村のあちこちで、変装の練習を重ねた。子どもたちとは、すっかり自然に打ち解けられるようになった一方、大人の視線には、依然として気を使う必要があった。


「今日は、誰にも怪しまれなかった」


「上達してきた証拠ね」


繰り返す練習の中で、セフィの変装は、少しずつ、隙のないものへと磨かれていった。


夕暮れの空の下、二人は、次の練習に向けて、また気持ちを新たにしていた。


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