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まだ、続いていく  作者: たべられて候
第一部
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第一部 第二十一章「待機の日々」

事件が起きるとされる季節までは、まだ数ヶ月あった。その間、セフィとリアナは、これまで以上に、修行に励む日々を送っていた。夏の盛りを過ぎ、朝晩の風には、わずかに涼しさが混じり始めていた。


「今日も、頑張ろう」


朝、目を覚ますとすぐ、セフィはそう自分に言い聞かせるのが習慣になっていた。感応、対話、同調、制御、顕現――五つの段階を、繰り返し磨き続けた。


「セフィ、大分様子が板についてきたわね」


リアナが感心したように言うと、セフィは誇らしげに笑った。


「うん! もっと強くなる」


日々の修行に加え、村での暮らしにも、少しずつ慣れていった。ミナとの間柄は、以前のようにとはいかなかったが、それでも、時折、他愛のない挨拶を交わせるようになっていた。小さな変化ではあったが、セフィにとっては、確かな救いだった。


*


ある日の修行の合間、二人で川辺に座って休んでいると、リアナが、ふと懐かしそうな顔をした。


「そういえば、昔、祖母から聞いた話を思い出したわ」


「どんな話?」


セフィが興味津々に尋ねると、リアナは、遠くを見つめながら語り始めた。


「わたしの祖母はね、アンブラシルの中でも、力の強い人だったの。若い頃、色んな土地を旅して回ったことがあるんですって」


「すごい人だったんだね」


「ええ。その祖母がね、昔、こんなことを言っていたの。『バルドウィックには、死者の声にまつわることに、とても詳しい人がいる』って」


「バルドウィックって、あの、大きな街の?」


「そう。詳しいことは、祖母も、又聞きだったみたいで、はっきりとは分からないみたいだったけど……」


リアナは、記憶を辿るように、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「『いつか、その力に本当に困った時は、バルドウィックを訪ねるといい』って、そう言っていたのを、覚えているの」


セフィは、その話に、目を輝かせた。


「その人に会えたら、もっと色んなことが、分かるようになるかな」


「かもしれないわね。いつか、機会があったら、訪ねてみるのもいいかもしれないわ」


「バルドウィックって、ここから遠いの?」


「ケルヴィンよりは、ずっと大きな街だって聞くわ。道のりも、それなりにあるでしょうね」


「いつか、行ってみたいな」


セフィがそう呟くと、リアナは、優しく目を細めた。


「ええ、いつかね。今は、目の前のことを、一つずつ片付けていきましょう」


その時はまだ、二人とも、それがどれほど重要な意味を持つことになるか、知る由もなかった。ただ、遠い未来の、漠然とした目標として、セフィの心に、その言葉は静かに刻まれた。


*


修行の合間には、他愛のない日常も、変わらず続いていた。


「今日のご飯、何にしようか」


「そうね、新しい罠を仕掛けてみましょうか」


そんな会話を交わしながら、二人は、川で魚を捕り、森で食べられる草木を探し、焚き火を囲んで語り合った。当たり前の日々の積み重ねが、二人の絆を、さらに深いものにしていった。


「リアナお姉ちゃんは、ずっと、セフィと一緒にいてくれるんだよね」


セフィが、ふと不安げに尋ねると、リアナは、優しく微笑んだ。


「ええ、もちろん。あなたが、一人でも大丈夫になるまで、ずっとね」


その言葉に、セフィは、安堵の笑みを浮かべた。まだこの時は、その約束が、どんな形で終わりを迎えるのか、想像もしていなかった。


*


修行を重ねるうちに、セフィの力は、着実に成長していった。複数の気配を同時に感じ取ることも、以前よりずっと自然にできるようになっていた。同調で得た知識や技術も、少しずつ、体に馴染んでいった。


「これなら、いざという時も、きっと大丈夫」


セフィが自分に言い聞かせるようにそう呟くと、リアナは、頼もしそうに頷いた。


「ええ、自信を持って。あなたは、ちゃんと強くなっているわ」


夜、修行を終えて家に戻ると、二人は、簡単な夕食を囲みながら、その日の成果を振り返るのが、日課になっていた。


「今日は、四つの気配を、同時に感じ取れた」


「すごいじゃない。日に日に、成長しているわね」


「リアナお姉ちゃんのおかげだよ」


「ううん、あなた自身の頑張りよ」


そんなやり取りを重ねながら、二人の時間は、静かに、けれど確かに、積み重なっていった。


季節が少しずつ移ろい、事件の起きる時期が、確実に近づいていた。二人の胸には、緊張と、それに負けない確かな決意が、静かに満ちていった。


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