第一部 第十九章「助けると決めて」
「もっと詳しいこと、聞いてきたよ」
翌日、セフィはグレタの家から戻ると、興奮気味にリアナへ報告した。家の中は薄暗く、窓から差し込む夕方の光だけが、埃っぽい空気に、細い筋を作っている。
「どんな風に、連れていかれるの?」
「兵士が数人で村に来て、獣人の子どもたちを、一列に並ばせるんだって。それで、何人かを選んで、そのまま馬車に乗せて連れていくの」
「選ぶ基準は?」
「分からない。でも、大体、七つか八つくらいの子が多いみたい」
セフィは、グレタから聞いた話を、一つ一つ思い出しながら伝えた。
「連れていかれた後は、二度と戻らない。抵抗しても、無駄みたい。帝国の権限には、逆らえないから」
「時期は、正確にいつなの?」
「グレタさんも、はっきりとは分からないんだって。でも、毎年、同じ季節の、同じ月の頃合いらしい」
「それなら、まだ少し、時間がありそうね」
リアナは、指折り数えながら、これからの日程を確かめた。
「その間に、できる限りの準備を、しておかないと」
「うん」
*
「どうやって、助ければいいと思う?」
セフィが真剣な顔で尋ねると、リアナは、腕を組んで考え込んだ。
「正面から、兵士たちに立ち向かうのは、無理があるわね」
「うん……セフィたちだけじゃ、絶対勝てない」
「馬車を追いかけて、途中で助け出す、というのはどうかしら」
「でも、馬車がどこに向かうのか、分からないと」
「村の誰かに、詳しい道を聞いてみるのは?」
「聞いてみたけど、誰も、その先まで知らないみたい。みんな、途中で追い返されちゃうんだって」
二人は、あれこれと案を出し合ったが、なかなか現実的な方法には辿り着けなかった。
「馬車に、こっそり忍び込むのは、どうかしら」
「見つかったら、余計に危ないと思う」
「それもそうね……」
「それに、連れていかれた後、その子たちがどこにいるのかも、分からないもの」
リアナが、悩ましげにため息をついた。
*
しばらく黙り込んでいたセフィが、ふと、目を見開いた。
「ねえ、リアナお姉ちゃん。もし……セフィが、連れていかれる側になったら?」
「え?」
「獣人の子どもに化けて、一緒に連れていかれるの。そうすれば、連れていかれた先が、どこなのか分かる」
リアナは、驚いたように目を見開いた。
「それは……危険すぎるわ」
「でも、それしか、方法がない気がする」
セフィは、真剣な眼差しでリアナを見つめた。
「セフィには、リアナお姉ちゃんがいる。それに、修行も頑張ってる。きっと、大丈夫」
リアナは、しばらく黙り込んでいた。危険すぎる、という思いと、それ以外に有効な方法が見当たらない、という現実。その間で、葛藤しているようだった。
「本当に、覚悟はあるの?」
リアナが、真剣な声で尋ねた。
「うん。覚悟してる」
セフィの声には、迷いがなかった。
「怖くないの?」
「怖いよ。でも、このまま何もしないで、また誰かがいなくなるのを見てるのは、もっと怖い」
セフィは、まっすぐにリアナを見つめた。
「セフィは、もう、大切な人を守れなかった経験がある。今度は、守れる方に、なりたい」
その言葉に、リアナは、しばらく黙り込んでいた。セフィの覚悟の重みを、噛みしめるように受け止めているようだった。
「分かったわ」
リアナは、ゆっくりと頷いた。
「その代わり、絶対に、無茶はしないこと。危険だと思ったら、すぐに知らせて。わたしが、できる限りのことをするから」
「うん、約束する」
*
「でも、獣人の子どもに、どうやって化けるの?」
リアナが尋ねると、セフィは、少し考えてから答えた。
「毛皮とか、耳とか、尻尾を作ればいいんじゃないかな」
「なるほど。手作りするのね」
「うん。何か、材料を集めないと」
「見た目だけじゃなくて、仕草も、それらしくしないと、見破られてしまうかもしれないわね」
「耳を動かしたり、尻尾を揺らしたり、練習しないと」
「そうね。時間はあるから、じっくり準備しましょう」
こうして、二人の計画は、少しずつ形を成していった。危険を伴う計画であることは、二人とも重々承知していた。それでも、見過ごすことができない理不尽があった。
「もし、途中で危なくなったら?」
セフィが不安げに尋ねると、リアナは、しっかりと頷いた。
「その時は、迷わず逃げること。誰かを助けるためとはいえ、あなた自身の命が、一番大切なんだから」
「うん、分かってる」
「絶対、成功させよう」
セフィがそう言うと、リアナは、力強く頷いた。
「ええ、必ず」
窓の外では、夕暮れの光が、静かに二人を照らしていた。新たな挑戦への決意が、この日、確かな形を取り始めていた。




