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まだ、続いていく  作者: たべられて候
第一部
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第一部 第十四章「詰め寄る大人たち」

柵の門をくぐった瞬間、村人たちの視線が、一斉にセフィへと集まった。土埃にまみれた小さな旅装、栗色の髪、そして左右で色の違う瞳――そのどれもが、村人たちの注意を引くには十分だった。一月ぶりに目にする、大勢の人間の姿に、セフィは思わず息を呑んだ。隣にはリアナがいる。それだけで、セフィは少しだけ、勇気を持って足を踏み出すことができた。


「あんた……見ない顔だね。どこから来たんだい」


井戸端にいた女が、真っ先に声をかけてきた。セフィが答えるより先に、周囲にいた他の大人たちも、次々と集まってくる。荷を運んでいた男、洗濯物を抱えた女、井戸端で立ち話をしていた老人――皆が手を止め、この見慣れない少女に、興味と警戒の入り混じった視線を向けた。


「もしかして、セローズの子か?」


「その目の色……そうだろう」


「セローズって、あの、山向こうの?」


「まさか、こんな小さな子が、一人で歩いてきたのか」


大人たちの声が、次第に重なり合い、セフィを取り囲むようにして詰め寄ってきた。輪はどんどん狭くなり、セフィは逃げ場を失ったように、その場に立ち尽くした。


「セローズは、どうなったんだ」


「まさか、全部……」


「おい、待て、驚かせるな。ちゃんと話を聞こうじゃないか」


「うちの取引先が、あの里にいたはずなんだ。頼む、教えてくれ」


別の男が、必死な形相で割り込んできた。矢継ぎ早に浴びせられる質問に、セフィは体を強張らせた。喉の奥が、急に渇いていくのを感じる。あまりに多くの大人たちの視線が、一斉に自分に注がれているという事実だけで、押し潰されそうだった。


「大丈夫よ、セフィ」


隣に立つリアナが、そっと囁いた。


「わたしが、代わりに話すから」


リアナはセフィを庇うように一歩前に出て、大人たちに向かって口を開いた。


「セローズは、天変地異に見舞われました。この子は、その生き残りです。今は、まだ辛い状態なので、あまり根掘り葉掘り聞かないであげてください」


それに続くように、セフィも震える声を絞り出した。


「セローズは……なくなりました。天変地異で、崩れて……みんな、いなくなりました」


その言葉に、大人たちの間に、重い沈黙が落ちた。


「そんな……全部か」


「うちの親戚が、あそこにいたはずだ」


「まさか、本当に……」


「信じられない、あんな大きな里が」


大人たちは、口々にそれぞれの動揺を口にし始めた。セローズに縁のある者、噂に聞いたことがあるだけの者――反応は様々だったが、誰もが一様に、この報せに衝撃を受けているようだった。


「もう、休ませてあげて。この子、今にも倒れそうじゃないか」


年配の女が一人、人混みをかき分けるようにして進み出て、セフィの肩に優しく手を置いた。その凛とした声に、大人たちの追及が、ようやく止んだ。セフィは詰めていた息を、ゆっくりと吐き出した。


「ありがとうございます」


「礼はいいから、こっちにおいで。何か、温かいものでも飲ませてあげよう」


年配の女――のちにグレタという名だと知ることになる人物が、セフィの手を引いて、自分の家へと案内してくれた。がっしりとした体格に、日に焼けた顔。厳しさの中に、隠しきれない優しさを持った人物のようだった。リアナも、当たり前のように、二人の後ろをついて歩いた。


グレタの家は、質素だが手入れの行き届いた、温かみのある佇まいをしていた。壁際には編みかけの籠がいくつも並び、窓辺には干された薬草の束が、いい香りを漂わせていた。


「座りな。今、温かいスープを持ってくるから」


グレタはそう言って、竈の方へと向かった。セフィは勧められた椅子に腰掛け、隣にリアナも並んで座るのを、なんとなく目の端に確認した。


「はい、お待たせ」


グレタが湯気の立つスープを持ってきて、テーブルに置いた。


「ありがとうございます」


セフィはスープを一口すすった。温かさが、冷えきっていた体に染み渡っていく。久しぶりに口にする、誰かが作ってくれた温かい食事だった。焚き火で炙った魚や、拾い集めた木の実とは、また違う、ほっとするような味がした。


「もっと飲んでいいからね。遠慮しなくていいよ」


グレタが向かいの椅子に腰掛けながら、そう声をかけてくれた。セフィは頷き、もう一口、スープを口に運んだ。


「大丈夫よ、セフィ。わたしは、ちゃんとここにいるわ」


リアナがそっと寄り添い、囁いた。セフィはその言葉に、小さく頷き返した。


窓の外では、まだ何人かの村人たちが、遠巻きにこちらを窺っているのが見えた。セローズの報せが、これから村中に広まっていくのだろう。セフィはスープの温かさを感じながら、ようやく人心地ついた自分を、少しだけ不思議に思った。長い旅の果てに、こうして誰かの家の中で、温かいものを口にできる日が来るとは、道中では想像もしていなかった。


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