第五十九話 第二次真珠湾攻撃(1)
「真珠湾だ・・・久しいように感じて、その実たったの一年ぶりだ。たった、たったの一年で我々はアメリカをここまで・・・!」
南雲機動部隊が放った攻撃隊はなんの障壁もなく真珠湾上空へと到達した。
攻撃総隊長の淵田は、一年ぶりの真珠湾を眺めて感無量となっていた、自分たちが一年前に行った攻撃の傷跡は癒え切ることはなく、あの時自分たちの手によって破壊されたのであろう痕跡が無数に残っていた。
そして此度の立場というのは、決して挑戦者ではない、アメリカという世界最強の国家に、とどめの刃を突き立てるべく自分たちは居るのだと、淵田は編隊全体に無線を通じて言葉を発する。
この一年で失った戦友は二割に迫るが、それを上回るメンバー、それを上回る練度をこの部隊は保有していた、一つの部隊として考えたとき、この南雲機動部隊航空隊を超える部隊などこの世に存在しえなかった。
だがアメリカも二度も同じ過ちを犯すような国家ではない、すでに滑走路からは迎撃機が発進し、部隊を少しでも足止めするべく立ちはだかろうとしていた。
「今回の目標はフォード飛行場、港湾設備の一切は不要だ。全機、徹底した攻撃を!」
「了解!」
「こちら岩本、敵の迎撃機が上がりました。我々が食い止めます。奴ら、発進してから高度を取るまで早い、新型機かもしれません。」
無線から聞こえてくる言葉に目線を上にやると、烈風隊がスッと速度を上げ部隊の眼前を降下していく。
そのけたたましいエンジン音の数々は、同じ発動機を搭載しているとはいえ安易に全力運転することを許された戦闘機隊だからこそ聞ける演奏であった。
「こいつらやはり新型機だ、なんだあの見た目は?!」
「岩本さん、こいつら烈風に少し似ていませんか。それとF6Fも見える!」
岩本率いる戦闘機隊は零戦隊を上空待機に残し、烈風を操る主力メンバーにより迎撃に上がってきた部隊を撃滅するべく襲い掛かっていた。
その岩本の眼前に迫っていた機体はグラマンが製造する新型戦闘機であるF6Fヘルキャット、そしてまったく見たことのない不気味な機体であった。
そのシルエットは烈風に似ているといえば似ているかもしれない、だが極度なまでにいびつな形のそれは、見るものすべてに強烈な印象を残した。
その機体とはF4U-1コルセア、チャンスヴォート社によって開発されたそれは先月海兵隊に配備が開始された最新鋭戦闘機であった。
初期生産型であるF4Uであり、様々な不良を抱えているこのタイプはすでに改良型を量産することを軍は決定していたが、海兵隊にだけ納められていたF4U-1は厄介払いといわんばかりにフォード基地へと集結していた。
幸か不幸か、アメリカ軍が注力して見切り発車で製造した初期生産型の総数は一二〇を数える、F4Uは着陸に致命的な欠陥を抱えるだけで戦闘には支障のない機体であり、それらが今まさに烈風の前へと立ちはだかっていた。
二〇〇〇馬力を発揮するダブルワスプエンジンと超大口径のプロペラ、そして逆ガル翼という組み合わせは見るものすべてに烈風を思わせ、烈風を操るもの皆が同じことを直感していた。
その機動性により低空から一気に駆け上がり、今までのアメリカ機では到達できない高さまですぐさま上昇してきていた。
「お前ら、あれは間違いなくこいつらの好敵手だ。ゼロ戦の相手じゃあないぞ!集中しろ!」
「了解!」
高高度から急降下した烈風隊六〇機、基地から迎撃のため発進してきたF4U一二〇機、圧倒的な速度差のまま交差し、ついに戦闘が始まった。
「なにっ?!」
交差するとともに岩本は思わず声を漏らした、とっさに後ろを向くと後続もやはり同じ現象に見舞われる。
「疾い・・・!」
岩本が必殺技として絶対的な自信をもつ一撃離脱攻撃、それを岩本のミスでなく易々と交されたのはこの戦争が始まってから初めてのことであった。
圧倒的なロール性能から繰り出されるその一瞬の俊敏性に思わず岩本も驚きを隠せなかった。
更に高高度から急襲をしかけた岩本らの速度は600km/hを超える、新機構により強引なロールが可能になったとは言え烈風のロール速度は機体を壊さないレベルにセーブされているため、高速域でそのロール挙動についていくことはできなかった。
日本軍戦闘機が陥ったことのない、その圧倒的な性能差を縮められた瞬間に熟練のパイロットらですらも少しの不安を覚えていた。
だが岩本の感性は研ぎ澄まされている、すでに超一流の領域に達していたその技術は最高の場面で発揮されている。
「全員落ち着いて襲え、こいつらは腐ってもアメリカ軍機、重たいはずだ。継続した格闘戦で烈風に勝ち目はない!」
岩本の直感は正しかった、F4U-1の搭載するエンジンは二〇〇〇馬力、烈風の誉よりも一〇〇馬力ほど低く、さらに機体重量も重かった。
一撃の機動性ではロール速度の速いコルセアの方が優位なこともあるだろうが、継続した戦闘において烈風を上回るスタミナを保有しているわけではなかった。
倍以上の数がいるにしても搭乗員練度までもが雲泥の差、烈風は一撃離脱を繰り返していくうちにF4U-1の数はみるみると減っていった。
だがそれでも一撃離脱を繰り返せばおのずと烈風の速度も落ちてくる、離脱するエネルギーを使い切り、本格的な格闘戦に突入した時、烈風の数は五五、F4Uの数は九〇と数の差で抑え込まれようとしていた。
だが、中国戦線から鍛えられ続けた岩本直属の部隊の本領はここからであった。
隊長の岩本をはじめとし、小隊長である西沢、酒井、武藤、藤田という豪傑らは各々の小隊を率いて縦横無尽に飛び回り始める。
格闘戦というのは状況把握が命であり、その状況把握というのは天性のスキルか、経験値によって裏付けされるものであるが、烈風隊にはその両方を兼ねそろえた者たちだけが集結しているのだから一撃離脱よりも得意分野と呼べるだろう。
当然一番目立った挙動を示したのは岩本であったが、数にして倍近い相手にもむしろ優勢を感じさせるだけの働きを続け、F6Fがおいつき参戦してきたときにも意に介さないような戦いを続けていた。
岩本の直感通り、格闘戦を継続して行った際のエネルギーロスの多さはアメリカ軍機共通の弱点であり、F4U、F6Fに搭載されたR-2800エンジンは大出力だったが重い機体を常に振り回せるほどではなかった。
二号銃4門から繰り出される圧倒的な火力を前に頑丈な機体もたやすく粉砕され、次々と機体は脱落していった。
装弾数も多い烈風は戦闘を継続しても弾切れを起こしにくく、さらに直掩には零戦隊ものこされている、激しい戦闘をよそに攻撃隊は悠々とフォード島上空へと到達していた。
超絶お久しぶりです。二か月ぶりの更新となってしまいました・・・申し訳ありません。
個人的な話、起業した関係でまったく手に負えませんでした。ボチボチと更新していく予定です。
また、完結させることができて、さらに落ち着いて時間確保できるレベルになってきたら新たな作品を始めるべく構想を重ねているところですので、遅々として更新進みませんがご覧いただければ幸いです。




