第六十話 第二次真珠湾攻撃(2)
「敵襲-ッ!」
島全体がけたたましいサイレン音で覆われた、だがこれも初めてのことではない。
ここ真珠湾では一年前にも同じことが起きていた。
滑走路には大量の単発機が待機しており、そこには軍が期待を込めている新型機が大半を占めていた。
海兵隊航空隊の一員でもあったケン・ウォルシュは、つい先月受領したばかりの愛機、F4U-1コルセアのほうへ駆け足で寄っていく。
F4Fとは全く違う特性をもつこの機体をほとんどのものは嫌煙としていたが、ウォルシュはどちらかというと使いこなせば無類の強さを誇ると感じていた。
「クソ、なんで日本軍がここに?!話じゃ来月じゃなかったのか・・・!」
「わからねえ、だが復旧も完全じゃない今の真珠湾が再び襲われたとなりゃ、次の戦いにも響きかねねえ・・・。」
一緒に駆けていたのはグレゴリー・ボイントン。
自身の相棒でありVMF-214「ブラックシープ隊」隊長、日中戦争時にフライングタイガースとして戦った経験のあるエースだった。
会話しながら滑走路を横切ると、すでにそこには暖機運転を済ませた機体が並んでいた。
VMF-214はフライングタイガースから引き揚げてきたエースであるボイントンを隊長として、かき集められたパイロットで構成される戦闘機隊であったが、その構成はエースから新兵まで様々、機体もまた同じようにフォード島に流された計200機近いF4U-1で構成される戦闘機部隊となっていた。
しかしF4Uへの順応訓練中、しかもほとんどは着陸失敗によりすでに80機近いコルセアが戦闘不能となっており、120機のコルセアと、残りの20機のF6Fで真珠湾を守ることとなる。
「全機発進!急げ!小隊単位で迎撃に急行!」
ボイントンの命令と同時にフォード島から次々とコルセアを先に発進が開始される。
ウォルシュはスロットルを思いっきり押し込み、強引に機体を進ませる。
同じエンジンでもF6Fとは全く違う、大口径プロペラによる圧倒的な加速性能に体が席に押し込まれる感覚になる、だがそれが快感でもあった。
迎撃で燃料搭載量も少ないF4U-1は身軽であり、すぐに高度を上げることができた、すでに敵の編隊は目でも見えるほどになっていたが、もしかすれば攻撃隊の迎撃に間に合うかもしれないとすら感じる飛行性能を持っていた。
だが当然護衛もつけずに攻撃を仕掛けに来たわけでもなかった。
すでに敵の主力から分離した機体がこちらへ急行してくるのが見える。
「ボイントン、上から来るぞ!」
「各機上昇中断、加速して速度を稼げ!」
ボイントンの命令で皆が上昇していた機体を水平に戻す、機体はみるみると加速を再開し、敵機が突っ込んでくるころには350km/hほどまで速度を回復させていた。
先頭を行くウォルシュの眼前にやはり最初に日本軍機が突っ込んでくる、だがその初撃は易々と躱すことができた。
「うわ!」
思いっきり操縦桿を右に倒すと、それまでの戦闘機では想像もつかない勢いでロールする。
この機体は、それまでの機体なら落とされたであろう今の一撃離脱にもたやすく回避を行えた。
だが、肝心の位置優位は完全に喪失しており、日本軍機は執拗な一撃離脱を繰り広げ始める。
格闘性能でも勝る日本軍機に一撃離脱までをも続けられれば勝ち目が0に等しいのは明らかであった。
「畜生、ボイントンはどこだ・・・?仕方ない、小隊一旦離脱するぞ。おい、この無線が聞こえる機体はついてこい!一撃離脱も無限にできるわけじゃねえ、いつかへばってくるはずだぜ!」
ウォルシュの命令に付近にいた機体があとについてくる、次々と落とされている僚機を尻目に自身らは一旦空域を離脱した。
そしてそのウォルシュの判断は正しかった、全機が散らばれば各個撃破されるだけだが、主力が団子となり回避を続ける間に、小隊単位で離脱をしても損傷機ととらえたのか日本軍機は追ってこなかった。
烈風が離脱するだけの速度を失い、友軍と大規模な格闘戦へと突入した時、ウォルシュの小隊は速度を回復し、格闘戦で速度を失い始めた日本軍機へと襲い掛かった。
「突撃、各機ロッテを組んで一撃離脱!」
目の前に入った深緑の機体はボイントンの機体を狙っていたが、そこを逃がさず上空後方から一撃で燃料タンクを打ち抜いた。
機体を一瞬並べると、ボイントンは右手を上げていた。
「こうなることくらいわかるはずだぜ!」
ウォルシュにはまだ余裕が見えた、確かに日本軍機の練度はけた違いなのがわかるが、自分ら16機はエネルギーを回復し、機体重量すらメリットに変える一撃離脱を繰り出せる状況へと落とし込めているからだ。
自身が引き連れて一時離脱していたメンバーは乱戦のなかの日本軍機をうまく落としているように見えた。
だがすべてがうまくいくとも限らない、ウォルシュは慎重に観察し、孤立しつつエネルギーも失っている日本軍機を離脱際に見つけた。
そしてついでといわんばかりに射線に捉えようとしたが、トリガーに指をかけた瞬間に響いたのはブローニングの射撃による衝撃ではなく、そして目に飛び込んできたのはキャノピーの上を右主翼が通過していく光景であった。
「なん・・・何だ?!」
間違いなくいま吹き飛んでいったのは主翼、そして右に視線を移せばそこにあるべき巨大なパーツが消失していることがなによりの証明であった。
堅牢なコルセアの主翼を吹き飛ばすほどの威力を一瞬で受けたことも衝撃だが、なによりも驚いたのはウォルシュの視界には自分のことで精いっぱいの機体ばかりで、僚機を助けようとできる機体などこの場の日本軍戦闘機隊にはいなかったはず、ということであった。
だが、それは過ちであった、機体がバランスを崩して錐もみ状態となったときに見えたのは、機体の後方が無数のピンク色の桜マークで覆われた機体であった。
「チェリー・・・ブロッサムッ・・・!」
ウォルシュは遠心力に抗いながら必死にキャノピーを開く、アドレナリンによって気が付かなかったのか、トリガーにかけていた右手の小指は吹き飛び、手袋は赤く染まっていた。
※
「ウォルシュー!」
自身についた敵機を落としてくれた相棒が、まさに今目の前で落とされた。
まさに一瞬の出来事、離脱途中の500km/hは優に出てたであろう機体を、一瞬のチャンスを逃さずに一機の日本軍機が射線に捉え、ウォルシュの主翼をもぎ取った。
速度的に見ても、その一瞬のチャンスを逃せば追いつけるわけもなかった、だがそいつはその一瞬を寸分の狂いもなく撃ちぬいた、なによりも恐ろしいのはそれが乱戦の最中、普通なら余裕もなく気が付けないだろうことを悠々と成してしまう視野の広さにあった。
フライングタイガースとして戦った時にも一度経験した未曽有の練度差、ボイントンにとってこれはトラウマを思い出させるレベルのものであった。
幸いなのはウォルシュがパラシュートで脱出したことだった、下はハワイで救助は容易だろう。
「畜生・・・!日本軍ってのはどいつもこいつもどうしてこんな強いんだ・・・機体よりも驚くべきは練度だ・・・中国ですら地獄だったのに、こいつらはあれよりも何倍も強い!コルセアだって、あの時のウォーホークとは比にならない性能だというに!」
ボイントンは、今自身らが戦っているのが中国戦線で突如現れた戦闘機隊メンバーであることなど知る由もなく、絶望の淵に立たされていた。
そして悪いことは幾度にも重なるものであった。
ボイントンらのF4Uが必死に敵戦闘機と乱戦をし、その隙にF6Fたちに爆撃機の迎撃をさせようにも上空には零戦が居残っていた。
F6Fでは零戦と同等の性能だろう、乗っているのがコルセアで着陸失敗した新兵連中であることを考えると勝ち目はない、新型機には新型機を、F6Fには零戦を残した、敵の編隊長は優秀だとボイントンは直感していた。
当然数百を数える攻撃隊を止めることなどできない、やがて対空砲火が上がり始めたが、なだれ込むように殺到する攻撃隊を止めることなど到底できないだろう。
不思議なことに、敵の攻撃隊はみなフォード飛行場に殺到していく、港湾設備の破壊が目的でなく、不思議と飛行場に固執しているように見えた。
「畜生・・・ラッキーといえばラッキーだが、これでは当分我々は稼働できない・・・!着陸すれば全機大破だ・・・。ハワイはただの港となってしまう!」
当然、一パイロットであるボイントンは日本軍攻撃隊の真意を汲みかねる、むしろ真珠湾の港湾機能を狙われずに安堵したが、その安堵はまさに束の間のものであった。
久々に時間が取れたので、連日投稿できました。またいつ更新間隔開くかわからない不定期具合ですがお付き合いいただけましたら・・・




