第五十三話 アラビア海海戦(1)
1942年7月25日 トラック泊地
ミッドウェーを無事に手に入れた日本軍、ミッドウェーの防衛を塩沢艦隊に任せ、山本艦隊、南雲機動部隊はトラックへ集結し次段階に備えるべく活動していた。
拡張工事が施されたトラックには応急修理が行える施設が建設され、慶鳳、寧鳳は被弾による損傷の修理を行っていた。
この二隻は設計時の目論見通り爆弾に対して非常に耐性を保持しており、トラックの簡易的な設備でも修理が可能であった。
修理の為停泊している慶鳳、寧鳳は一航戦航空隊を陸上基地へ引き上げ、新型艦載機を受領した寧鳳は五航戦、六航戦と共に開戦前に行われていたような過激な訓練が行われていた。
模擬空戦では毎度一航戦が完勝するほどであったが、五航戦、六航戦の練度が低いわけではなかった。
新型機への順応は源田、淵田が想像していたほどではなく、搭乗員らは上層部の期待以上の練度となっていた。
山本艦隊、南雲機動部隊の司令部が一同に会し会議を行っていた。
「軍令部から、予定通り8月1日にトラックを発ち、ジョンストン攻略を開始するように、だって。」
山本が軍令部から送られてきた文書を机の上に広げる。
それを見て参謀らは顔を合わせて頷く。
「航空隊に不足は一切ありません。寧鳳の新鋭機への入れ替えと搭乗員順応訓練が完了しました。一航戦定数224機、機動部隊合計定数512機。まさに最強です。一切の不足はありません。敵に本格的な迎撃能力がない今、ジョンストンも問題なく落とせるはずです。ジョンストンにはアメリカの新型機が配備されているはずですが、もはや我々の敵ではありません。」
源田の報告に山本は頷き、次に南雲が報告を始める。
「慶鳳、寧鳳は4日の突貫工事で修理を完了しました。作戦能力低下は一切見られないとのことで報告を受けております。」
南雲に続いて山本に報告したのは松田であった。
「大和のバルバスバウの完全な修復は呉に戻らねば不可能とのことです。簡易的な艦首を応急処置で取り付けましたが、艦首の聴音室は使用できません。速力も26ノット程度が限界かと。艦隊の行動速度を維持するにはその分燃料の消費が激しくなるので、本艦は恐らく燃料の補給を余分に受けなければなりませんが・・・。」
松田がそこまで言ったところで黒島が言葉を遮り、発言を始める。
「丁度トラックに重油輸送を行っていた油槽船東邦丸が停泊中でした。松田さんから相談を受けていたので、軍令部にも許可は取り付けてあります。編入し、搭載していた重油そっくりそのまま補給艦隊へ追従させます。」
山本がかわいがっている先任参謀というだけあり、黒島は独断で軍令部にタンカー編入の許可を取り付けるだけの権力を持っていた。
だがそれにも山本は満足げに頷き、助かるよ、と答えた。
「我々は未だ優位、だけど長引けば長引くほどにアメリカという国家は息を吹き返してくるぞ。良いな?迅速に、迅速に、迅速に。ジョンストンの次、ハワイをいかに迅速に攻略するかがこの戦争の命運を分ける、全員心してかかろう。」
伊藤の言葉に全員が気合いを入れ直す。
ジョンストン攻略、負けの確率など皆無に等しいだろうが、今の海軍に慢心する者はひとりとして居なかった。
※
山本、南雲艦隊がジョンストン攻略に動き出した時、艦隊決戦とまでは行かずとも決して小さいとは言えない、後世では海戦として名を残すには十分な戦いが起ころうとしていた。
インド洋ではインド西方からのアメリカ軍の撤退が加速すると共に、日本軍は醍醐率いる潜水艦隊がアラビア海にて通商破壊を過激なものとしていた。
看過できない数の兵士を失いつつあるアメリカ陸軍は海軍に対潜水艦作戦、輸送艦隊護衛の強化を求め、それに対して日本海軍は潜水艦隊護衛のための水上艦隊、司令部偵察機による哨戒を行うことで対抗していた。
アメリカ海軍は護衛空母ボーグ級を中心としたいくつかの任務部隊をインド洋に派遣し、イギリスもまたアメリカからレンドリース供与を受けた同級を使用しインド洋で散発的な活動を行っていた。
日本軍は駆逐艦、潜水艦に複数の喪失を受け、護衛空母部隊撃破のために小沢機動部隊が派遣した。
「こうも散発的に活動されちゃ、この大艦隊で迎撃するには燃料がもったいないですな。」
小沢機動部隊の旗艦大鳳の艦橋で小沢は澤田と話をしていた。
現在小沢機動部隊はより効率的に索敵を行うべく、大鳳、瑞鳳で構成される三航戦と隼鷹、飛鷹で構成される二航戦が分離して広範囲を索敵していた。
「護衛空母の数は合計12隻ほどと考えられる、4~6隻を1つとして2~3つの艦隊で構成されていると考えるのが妥当だろう。まあ数だけ揃っても脅威になる戦力とは考えにくいが・・・アメリカの兵士をより多く沈めるためにもここは手を抜くわけにもいかん。」
「既に近藤艦隊では駆逐艦野分と嵐が空襲によって沈み、不知火が大破しています。潜水艦隊においても数隻の戦没が。小型空母と言えど何隻も居られたら大変です、早いうちに撃破せねばならんでしょうな。」
「わかっている、既に大方の予想は付いている。12隻程度、隻数では不利だが、単純な艦載機ではこちらの方が上回っている可能性もある。」
小沢は海図へ目を落とす、艦隊の現在位置はセイロン島西方のモルディブを抜け、アラビア海に300kmほどの地点、活発にアメリカ兵の輸送が行われているシーレーンまで1,000kmほどの地点まで来ており、近藤艦隊が空襲を受けたポイントから逆算してもそろそろ発見できておかしくない時間であった。
既に甲板ではすぐに発艦できるように第一次攻撃隊が準備しており、パイロットらも甲板脇で待機していた。
一時間ほどがたち、時刻が正午を過ぎた時、その時はやってきた。
最初に発見したのはアメリカの偵察機であった、より進出していた三航戦を発見、同時に大鳳に搭載された一式一号三型電探改が40km先の同編隊を探知した。
SBDは攻撃を行わずに偵察だけを行い退避し、そのころに大鳳から発進した彩雲が敵任務部隊を発見した。
「直掩隊を追わせますか?」
「いや、深追いして上空を空ける方が良くない。逃がしても良い、あれは。それよりも敵の機動部隊だが・・・。」
小沢の問いかけに澤田が応じる。
「ボーグ級護衛空母4隻を中心に構成された任務部隊がここに。恐らく近くに別の部隊が居ると思いますが、敵はこの型の空母4隻一組で部隊を構成しておるんでしょう。」
「攻撃隊の準備は?」
「第一次攻撃隊は準備完了、瑞鳳は全機出します。本艦の第二次攻撃隊もすぐに準備可能。二航戦は現在こちらへ進路を変えていますが、待っているのは時間が勿体ないでしょう、待っていれば敵の攻撃隊がこちらに来てしまう。」
その言葉には小沢も同感を示した。
「第一次攻撃隊発進、すぐに本艦は第二次攻撃隊の発艦準備にかかれ。別の敵艦隊の発見後すぐに放つ。」
すぐに甲板に待機していた艦載機へ搭乗員が乗り込み、一斉に発艦を始める。
零戦、九九艦爆、九七艦攻、最新鋭の艦載機組は南雲機動部隊の充足に手一杯で彩雲以外は配備されていないが、それでも護衛空母相手であれば十分すぎる編成であった。
大鳳、瑞鳳から第一次攻撃隊として零戦20機、九九艦爆10機、九七艦攻19機の49機。
これらが先程発見した任務部隊を攻撃する。
第二次攻撃隊として大鳳で待機するのは零戦が12機、九九艦爆10機、九七艦攻10機の32機。
分散したこともあり南雲機動部隊などの主力には到底及ばない戦力であったが、それでも80機を超える戦力を持つ。
更に護衛空母で運用される艦載機はF4Fなどである、零戦などで構成される小沢の持つ航空隊であっても性能差は明らかであり、その護衛空母を主軸とした任務部隊相手であれば少なくとも戦力は対等、そして小沢にはこの二隻で、大幅に隻数で上回る敵を相手にできる確証があった。
「これは、情報総局の堀さんからの情報だ。敵の護衛空母、ボーク級はアメリカ、イギリスを発つ前に艦載機を再編したが、それはどれもF4Fか、SBDだ。雷撃機は表に載っていない。」
「つまり・・・大鳳にとって恐れるに足らない、と?」
小沢は「そうだ。」と頷く。
「何のためにこの艦がインド洋に派遣されたのか、その真価を発揮する絶好の機会だと思わないか。太平洋における飛号作戦が日本という国の未来を決めるのであれば、インド洋ごときで要らぬ問題を起こしてはならん。だが寧ろの話だ。ここで敵の任務部隊を撃破、撤退する輸送船を沈めればアメリカは太平洋どころかこちらへより戦力を割かざるを得なくなる。それはハワイ防衛においても大きな足枷となるはずだ。」
小沢は言われるまでもなく、軍令部や山本らが近藤、小沢両指揮官に託した重要な役割をその聡明な頭脳によって完全に理解していた。
甲板では続々と発艦を続ける様子が見えた、扉からベランダへと出ると、乗組員が帽子を振っている光景が見えた、小沢もまた、続々と発艦していく部隊に対して無意識のうちに敬礼をしていた。
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