第五十二話 ミッドウェーを巡る戦い(8)
仕事などの関係で執筆活動がほぼ出来ない期間が続いていました。とてつもない期間、更新まで時間が空いてしまい申し訳ありませんでした、また暇な時間を見て更新できるよう頑張ります。
南雲機動部隊が想定外の敵からの急襲を受け、一時は混乱したものの結果的には慶鳳と寧鳳が小破したに過ぎず、結果日本軍の飛号作戦を止めるには至らなかった。
南雲機動部隊はトラックへとひと足早く撤退したものの、ミッドウェーの航空基地が破壊され、任務部隊もハワイへと引き返したため山本艦隊、塩沢艦隊だけでもミッドウェー攻略に支障は出ていなかった。
空襲から1日ほどは何も起こらなかった、塩沢艦隊が山本艦隊に合流してから両艦隊は南下、ミッドウェーまでの距離が10kmの地点まで到達し降伏勧告が打電されたとき、既にミッドウェーの運命は決して居るも同然であった。
「ミッドウェーは降伏勧告には応じません。」
「流石に重要拠点を無血開城というわけにはいかないか・・・残念だけど、それならやるしかないね。」
伊藤の言葉に山本がそう返すと、要員は皆頷く、再び虐殺とも言える圧倒的火力を叩きつけることに同意した証だ。
山本が言わずとも渡辺は塩沢艦隊へと上陸部隊発進の命令を伝達し、松田もまた砲術長へと命令を下していた。
「主砲三式弾装填!全艦、目標イースタン島!」
「了解!」
全ての主砲が左舷を向き始め、仰角を取り始める。
それに併せて武蔵、伊吹、帝釈、高雄、愛宕、そして塩沢艦隊の扶桑、山城、摩耶、鳥海までも主砲を指向し始める。
速度も10ノットほど、艦首が破壊されたといえこれほどまでに速度を落とせば艦の揺れは皆無に近く島が目標であれば今の日本艦隊の砲術手たちが外すわけもなかった。
「五十六、こちら塩沢。陸戦隊は上陸まで30分ほど、それまでに頼むぞ。」
「任せろ。」
塩沢からの報告がスピーカーから流れてきて、山本がそれに対して応じる。
少しの間が空き、他艦から続々と報告が入る。
「全艦発射準備完了。」
伊東からの報告に山本は頷く、大和はブザーがなっていることからも準備完了であることは明らかであった。
「艦砲射撃開始!」
山本の号令とともに大和から主砲が発射される。
左右砲の発射から少しの間を経て中間砲が発射される、46センチ砲による一斉射撃は何度見ても圧巻であった。
大和が発射するとそれに呼応して他の艦からも一斉に射撃が開始される、暇を持て余している対空要員などは窓から皆覗き込んでいた。
およそ十数秒がたち、水平線が一斉に朱色に染まった。
46cm砲18発、35.6cm砲24発、22cm砲20発、20.3cm砲40発、陸上に撃つにはあまりにも過剰な火力が一斉に炸裂し、その衝撃は艦隊まで届いていた。
扶桑、山城から放たれた35.6cm砲はこれまでのものとは違う、炸薬に零式爆薬を使用した最新の砲弾は旧式化した35.6cm砲ですら蘇らせ、それによってもたらされた轟音は床や壁を振動させる。
「こんな虐殺じみたことやりたくはないけど、我々の陸戦隊から一人戦死者を出すくらいであればアメリカ兵を1万人でも殺さねばならないからね。これが正しいことだよ。」
そう呟く山本の表情は暗いわけではなく、むしろ周りの士官らを落ち込ませないために言っているようにも感じる。
大和が装填している間にも続々と重巡から射撃が続けられ、ミッドウェーは火の海に包まれる。
10分ほどが経ったころ、三式弾の焼夷弾はありとあらゆるものを破壊し尽くしていた。
「戦艦は目標変更、サンド島へ。重巡は継続してイースタン島へ艦砲射撃。」
飛行場のあるイースタン島が火に包まれると、山本はもう一つの島であるサンド島へと目標を変更させる。
再び火を噴く主砲、小高い丘があったはずのサンド島は見るも無残なほどに形を変え、その丘は着弾するたびに削り取られる。
上陸用舟艇が近づき射撃中止命令が下るころ、既にそこには陣地と呼べるものはなく、残っているのは穴だらけの陸地だけであった。
アメリカ軍が構築した建造物などはことごとく破壊され、係留されていたPBYなども燃えさかり浅瀬へと沈んでいる。
山本自身も天楼へ上り、ミッドウェーに向かって双眼鏡を覗きこむが、そこから脅威となるものは一切見えなかった。
陸戦隊の上陸用舟艇が接岸した時、塹壕からの生き残った者が少しの反撃を繰り出したが、即座に制圧されミッドウェーは一瞬にして陥落してしまった。
※
「アッズもそうだったが、ここまで徹底的に艦砲射撃されては、我々が戦う必要もないな。おい、まだ木は燃えている、間違っても火に吞まれるではないぞ!」
目の前では大火災が起きており、火元から離れている海岸でも既に肌が火照っている。
そんな中イースタン島へ上陸した陸戦隊長の安達はアッズ環礁上陸作戦を思い出していた。
思い返せばあの時も艦砲射撃によってほとんどの障害は取り除かれていて、自分たちがしたことと言えば旗を突き立てたことくらいであった。
歩いていると何か柔らかい物を踏む、ふと地面に目をやると砂を被り分かりにくかったが、爆風で身体中を欠損させたアメリカ軍兵士の死体がそこにはあった。
安達はとっさに足を退けると、自然と掌を合わせていた。
名どころか顔すらも今となっては分からない遺体に合掌していると、通信機を背負った兵士が駆け寄ってきた。
「隊長、向こうの島の地下壕にミッドウェー島の指揮官が居ます。」
「おぉ、そうか。すぐ向かうと伝えてくれ、くれぐれも丁重に扱うように。こちらの島の指揮は足立少佐に任せる。」
安達はそう言ってサンド島の指揮を任せると舟艇に乗り込みすぐにイースタン島へと移動する。
本来であればどこから撃たれてもおかしくないほどに開けた場所であったが、既に発砲音は聞こえなかった。
イースタン島へ移り少し歩いたときに映り込んできた光景は驚きのものであった。
人が掘ればどれだけ時間がかかるかもわからないような穴が至る所に掘られ、それは入ろうとすれば安達の頭まであるだろうかという深さまである。
部下がスコップを使い海岸沿いを掘っている、何をしているのか問えばなんと生き埋めになったアメリカ軍兵士を救い出しているという。
「なっ・・・この溝はもしや塹壕か?」
安達の足下には数センチほどの溝がずっと海岸沿いに続いている。
話から聞くに恐らくそこが塹壕だった場所なのだろうと安達は思った。
塹壕から飛び出れば爆風で吹き飛ばされ、塹壕内で耐えようとすれば崩れて生き埋めになるという極限の状況だったのだろう。
だが救出すると言っても敵の指揮官の意思確認が出来ていない、万が一にでも徹底抗戦するとでも言われてしまえば生き埋めのままにしていたほうが得であった。
「敵の指揮官はどこだ?」
「隊長、こちらです!」
安達の言葉に寄ってきたのはアッズでも通訳として連れていた多田であった、アメリカ軍兵士を連れている。
だがそれはそこら辺に転がっている死体や、救出される兵士の軍服とは違い、見るからに軽装であった。
安達は要らぬ警戒をさせないために手にしていた拳銃を仕舞うと、右手を差し出す。
「私はこの部隊の隊長の安達だ。君は?」
「ラングトン・ケロッグ・フィーバーリング大尉、海軍パイロットだ。」
安達の右手を握ったその人物は、先の襲撃で大和に魚雷を命中させたラングトン・K・フィーバーリング雷撃隊長その人であった。
「パイロットだと?一応だが島の指揮官は陸上勤務のものだろう。」
安達の言葉にフィーバーリングは睨みながら答える。
「本来の指揮官はシマードだ、だがあの方ならそこら辺でくたばってんじゃねえかな、こんな状況だ、守りについた奴が生きている方が可能性としては低いだろ。こいつにも聞かれたが、あんたらが捕らえたいだろうウィリアム・ハルゼーJrはとっくに脱出済みだ。つまり、少なくとも生存が確認できている中で、トップなのはこの俺だ。パイロットは陸上で戦力にならないから、塹壕ではなく地下壕に退避していたのでな。」
「そうか・・・。すまない、いや。」
安達はトップが生きている前提で安易に話したことを少し後悔した。
実際目の前の惨状を鑑みると地上にいる生き残りは地下壕に入っていたパイロットらが主で、塹壕や防御陣地で守りについていたものは殆どが吹き飛んでいるのだろう。
「もう我々に抵抗する術はないだろ、降伏したいのだが。この期に及んで無駄な死を生みたくもない。我々パイロットに生身の人間の死体は堪えるものがある・・・。」
「そうしてもらえるとこちらも助かる。投降した兵の保護は保証する。」
フィーバーリングがそういうと、安達はそれを了承し、部隊にその旨を伝える。
そしてフィーバーリングは沖合に浮かぶ艦隊にふと目を向けた。
表情が一気にこわばる、ありえないという心情と裏腹にそこには撃破したはずの「それ」が浮かんでいた。
「おい、どういうことだ・・・?なぜアレがここに居る、魚雷5本を受けてもなお作戦を続行できるというのか?」
「ん?あぁ、あれか。あれはまぁ、我が軍の最新鋭戦艦だ。なに、アメリカ軍は魚雷を5本も当てたのか?」
安達らには襲撃にあったことは知らされていても、わかっていたのは退避した川内と愛宕の被害だけであった。
大和は所々に損傷が見えても、当然のように作戦に参加していたので、被害は軽微であると皆が思っていた。
「知らされてすらいないのか・・・?魚雷を5本も受けて沈没はおろか作戦を続行できる艦が居るなど・・・想像にもしなかった。いや、今でも信じられん、あの時俺は確かに沈没させたと思っていたが。あれは確かに2隻いたし、片方には確実に5本の魚雷を当てたはずだが・・・。」
フィーバーリングは魚雷を当てたのに作戦を続行していることよりも、自身の隊長が命を賭してまでダメージを与えた相手が悠々と浮かんでいることが受け入れられないでいた。
「クソ、無駄だったのか、隊長らが死んでまで攻撃したって言うのに。」
「そんなことはない、戦争という大きな目で見ても、どちらかが必ず負けるものだ。負けた方の軍人全てが無駄死にだったのかというとそういうわけでもないだろう。」
安達の言葉にフィーバーリングは反応しなかった。
今の安達の言葉は、勝者側であるからこその言葉であることを知っているからであった。
「・・・とにかく、ここミッドウェーはあんたらの物だ。ハルゼー提督も、シマ―ドも、ミッドウェーはどうせ落ちると考えていた。守り切れるわけがないってな。俺が差し出しても国は怒らないだろう。」
フィーバーリングの言葉に安達は頷くと、近くの通信兵を呼ぶ。
艦隊から水偵を飛ばさせると、兵士と共にフィーバーリングを艦隊に向けて飛ばした。
塩沢艦隊からはすぐに工兵部隊がミッドウェーに向けて放たれ、すぐに基地能力を回復させるべく作業が始められた。
ミッドウェー防衛隊に生存者は殆どいなかった、アメリカ軍もまたミッドウェーを完全に見放し、奪還するための作戦は行われない、日本軍はひとまずはミッドウェー島攻略を成し遂げたこととなる。
艦隊の被害も発生はしたものの、トラックでの短期修理で済む損害のみであり、飛号作戦続行に支障はなかった。
日本軍は次にジョンストン島を攻略するべく、予定通り少しの間トラックで準備を進めることとなった。
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