episode.7
よろしくお願いします
2組戦での私のバドの試合は現在15-9、試合残り時間2分。7分間でポイントを多く取った方が勝ち、というルールを考えれば勝利は間違いないと言っていいだろう。とは言っても、得失点差でクラス全体の勝敗が決まるので、気は抜けない。
「いきます」
何度目になるか分からないサーブ権を握った私は、相手コートの右奥に向かってサーブを放つ。自分がコートの左側にいる時に相手コートの奥にするサーブ、あんま成功率高くないんだよな、なんて思いながら次のラリーに向けて構えていると、里奈はコート右奥に向かってへ返球してきた。
『よかった、入った判定を里奈はしてくれたみたい』
コート中央から右奥へと動き、今度は左奥へのクリアで返す。里奈も同じく左奥へと返球してきて、私はまたそれを左奥へと返球した。何回かラリーを続けながら、相手の思考を読む。とは言っても、打つ瞬間のラケットの面とか、視線の先を読むとかその程度だけどね?
『もうそろそろボディに向けて攻めてくるかな?』
それなら、と次の手を考える。とりあえずはシャトルを浮かせないようにしてーーいや、それだとつまらないな。どうせなら、相手の策に乗ってみよう。
案の定、里奈は少しふわっと浮いた返球をコート中央にいた私のボディに向かって容赦なく打ち下ろしてきた。それを何となくーーまたの名を野生の勘でーー察知すると、相手が打ってくる側をホアサイドにするように体を動かし空間をあける。この試合の中でも1番と言ってもいいくらいのスピードで打たれたシャトルの勢いをいなすようにして、コート左奥に向かって高く、長く返球した。
「ッッーーー」
スマッシュを打ちきった姿勢でいたばかりの里奈は、ラケットを上に振りかぶろうとしたが、コンマ数秒の差でシャトルは上を超え、届かなかった。
「颯ちゃーーーん!!!ナイスラリー!」
「今のめっちゃ凄かったよー!」
背後の紬や瑠依からの声援に、振り返りざまにウインクと指ハートを送る。体を正面に戻し、さらに大きくなった彼らからの声援を背に試合を再開させた。っと、随分と里奈が悔しそうだな。これはスイッチ入れちゃったか?
コート右側から、ふわりと緩めのサーブを放つ。先程余計なことを考えてたのが悪かったのか、相手にとってのチャンスボールを与えてしまった。
そんな隙間も里奈は逃さず、再び私のボディに向かって鋭い返球をしてきた。前回みたいな初動をする余裕がなくて、少し詰まった打ち方で相手が打ちやすい所へ返球。その隙も里奈は逃さずコート右奥への低く鋭いストレートを打ってきた。何とかシャトルの来る方へラケットを振ったが、シャトルは捉えることが出来ずにコートへ落ちた。
「ちょっと油断してるよ颯ちゃん!」
「落ち着いてまだ行けるよー!」
「こらこらー、もっと本気出せー!」
「空振らないんじゃなかったのー?」
上から紬、一織、瑠依、洸太だな。上の3人はいいけど、最後の一人だけは許さない。
「3人ありがとー!でも洸太は許さん!」
ここで押されて、試合後に洸太にからかわれるのもなんか嫌だな。もう一度気を引き締め直そう
「よっしゃ!かもん!!」
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ビビーーッ
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「颯ちゃん!お疲れ様!」
「おつかれー!最後の1分、颯なんか鳥肌するくらい凄かった!」
「なんかもうプロみたいだったよ!」
「おーい、颯ちゃん?」
「ちょっとあんた、いつまでぼーっとしてるの」
「ハッッ」
「え、今までほんとに意識なかったわけ?」
「どしたの颯ちゃん?具合悪い?」
「あー、いや大丈夫だよ、心配かけてごめん」
「それならいいけど……あ、他のみんなも試合終わったみたい!結果聞きに行こ!」
絢音や他のみんなの所に歩いていく紬たちの背中を見ながら、久しぶりに夢中になってしまったな、と思う。こんなに深く『潜る』こと、最近なかったのにな……。想定外に疲れでも溜まってるんだろうか?
「おーい、颯?まだー?」
「ごめん今行くー!」
そんなことより、今は他のみんなの結果を聞きに行かないと!絢音とかはきっと余裕だと思うんだけど、どうなってるんだろう?
「で?颯はどうだった?」
「もう余裕よゆう!ダブルスコアくらいつけて勝ったよん!」
「なんで颯本人じゃなくて紬がそんなどやーってしてるんだよ、全く笑」
「あー!颯ちゃん!おかえり!」
「聞きなさいよこら…」
ちょうどみんなのところに着くと、私に気がついた紬が声を上げた。2人の話しているのを聞くに、点数の報告をちょうど終えた頃のようだ。
「ごめんごめん、遅くなった。絢音の試合はどうだった?」
「私?私の試合は余裕だったよー。25-12くらいだったはず」
「うわ、さすがの点差だね」
「すごいでしょ?で、颯は……って、さっき紬聞いたか」
「あぁ、もう紬が報告してたのか」
「へへへ、私がさっきもう21-12って言いました!」
「やっぱり、さすが、としか言いようがないわ」
「そ、そうかな?」
「そりゃあそうでしょ。言っちゃ悪いけど、初心者同士がやってここまで点差開くとは思ってなかったよ。相手の子は2組の中でもほぼ1番って言ってもいい子なんだから尚更、ね。」
「えへ、ありがとね」
「私の颯ちゃんはすごいんです!」
「いつ私が紬のものになった?」
「それは元からじゃなぁーい?」
「はいはい、夫婦漫才はじめないの!ほら次のクラスも待ってるから行くよ!」
「「はーい」」
私たちの手を引く瑠依について1体をでる。絢音も洸太たちもその後ろに着いてきた。あれ、他の人の結果はどうだったんだろうか?
「あれ、他の試合はどうだったの?私と絢音以外にも、4試合あったよね?」
「女子の残り一つの試合はちょっとの差で落としちゃったみたいだけど、男子は3試合とも全部とったみたいだよ」
「あーそうなんだ、絢音ありがとね」
「それにしても僕たちのクラス強いよね!女バレとバドとれたのはナイスすぎる」
「確かに強いよね。ただねー、まだちょっと安心できないのよね」
「え?なんで瑠依?」
「だってまだ競技自体は2つ残ってるでしょ?今取れたの2競技だけだから、あと最低でももうひとつは取れなきゃ2組戦負けってことになっちゃうから」
「あー、そっか!女バレバド取れてても、男バレは落としちゃったから、今は2-1ってことになるのか!」
「そうそう。残りの女子玉入れか男子ドッヂボールのどちらかを取れなければ、負けってことになるの」
「うわ、ギリギリじゃん!」
「そういうシステムだったんだ、私知らなかった」
「というかそもそも、一織はそこら辺興味無さそう笑笑」
「あーそれわかる笑笑」
「文化運動が説明してた時間、スマホいじってそう笑」
「そんなふうに思われてたの!?って、なんでスマホいじってたのバレてるの?!」
「そりゃあ、ねぇ?」
「まあ私たち?」
「「天才だから?」」
「うわあこの元中コンビ怖いんだけど!」
「確かに笑笑」
「そうだね笑
って、外競技しにいくよ!紬たち次の玉入れ出るんでしょ?」
「いえす、絢音さま!」
「あ、じゃあ私もか」
「あーそっか、瑠依も一緒に出る回だったか」
「みたいだねー。玉入れは確実に取らないとだよね」
会話を続けながら、下駄箱から外靴を取りだし、脱いだ上靴を入れる。床に置いた外靴に足を入れ、つま先でトントンと床を叩いた。
「よし!いこー」
「いこいこー」
紬が先んじて開けた玄関の扉から見えた外の天気は、私たちを勇気づけるような快晴だった。
お読み頂きありがとうございました
表現力が欲しい今日この頃です




