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ローザタニア王国物語 〜A FAIRY TALE〜  作者: 月城 美伶
jardin secret ~秘密の花園~

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第4章 Jardin secret ~秘密の花園~ 第二十六話

…………………………


 「大変だぁっ!ティサ川の橋の下でまた血を抜き取られた死体が見つかったぞっ!!」

「なんだって!?で…一体誰が殺されたんだ??」

「先日孤児院のから行方不明になったサラって子さ。まだ14歳なのに…可哀想に…」

「…くそっ!!いったい犯人は誰なんだ…っ!!」


まだ少し肌寒い朝のことです。グララスの街にはまた血生臭い事件が起こってしまい、野次馬の街の人たちは怒りと悲しみにくれながら警察の実況見分を見て口々に何やら話しておりました。


「おいっ!魚屋のジミーが、昨日の夕方に街外れの森の近くでサラとマントを被った背の高い男が連れ立って歩いているのを見たらしいぜ!」

「何だと!?」

「じゃあそのマントの男が犯人か…?」

「街外れの森って…カルロ伯爵様の屋敷の近くじゃねぇか!」

「やっぱりあの噂は伯爵さまが吸血鬼って本当なのか…?」

「無類の女好きでその上…男だって抱くって噂だぜ?複数と一緒に乱れまくったりとか…神の教えに反している悪魔の所業をいつも行っているっていつもあの若い神父さん言ってたな」

「伯爵は神の教えを守らない…つまり悪魔ってことか!?」

「女好きなのは女の血を飲むため…?男だって…前に殺されたのはまだ10代の男娼だったな。伯爵は男娼の館にも出入りしているらしいぜ」


由緒正しき家柄のカルロ伯爵がもしかしたらこの吸血鬼事件の犯人かも知れない…と、集まった街の人たちはザワザワと驚きや疑念の声をあげて自分たちが知っているカルロ伯爵の噂話を口々に話し始めました。面白おかしく話し出す者、固唾を飲んで話を聞いている者…と街の人々の反応は様々でしたが、とある青年は人一倍大きな声で悲しみに打ち震える声を絞り出して被っていた帽子を投げ拗ねながら叫びます。


「くそうっ!!神をも恐れぬ奴めっ!!絶対許さねぇ!!」

「でもいつも俺たちの悩みやお願いを一緒になって考えてくれる気さくで優しい伯爵が悪魔だなんて…俺は信じられねぇ…っ!」

「いや…分からねぇぞ。悪魔ってのは聖人の仮面を被って近づいてくるんだ。俺たちは騙されているのかもしれねぇ!」

「…一度確かめようぜ。伯爵の屋敷に忍び込んで来てやるっ!!もし伯爵が犯人なら何か証拠があるはずだっ!!」

「俺も行くぜっ!俺のお気に入りだった踊り子のティナだって殺されたんだ!」

「お…俺も!よし、今晩皆で確かめに行こうぜっ!!」

「あぁっ!!」

「まずは神父様に相談しに行こうっ!!」


街の人たちは一致団結し声をあげました。そしてそのまま皆連れ立って教会の方へと一目散に息を巻いて走って行ったのでした。


…………………………


・・・・・・・・


 オレンジ色の空が徐々にビロードのような紺色に染まっていく頃、深い森の中を四人の男性たちが馬を飛ばしながら駆け抜けていきます。焦る気持ちを持て余すかのようにウィリアム様は少しでも早く目的地に着く様にと馬を鼓舞し続けます。

皆焦る気持ちを抱きながら猛スピードで朽ち果てた古い教会を脇に通り過ぎ、しばらくすると街外れの古びた小さな教会へと到着いたしました。


「…静かだな」

「不気味なくらいに…ですね」

「私が中を見て参ります」

「あ、私も行きましょう」


ワトソン署長が教会の中に入ろうとすると、ヴィンセントもその後に続いて歩いて行きます。心強いです、とワトソン署長は緊張した面持ちのまま口角を少しだけ上げて微笑まれました。

二人はゆっくりと音を立てないように静かに教会の扉を開けると、ワトソン署長はそっと顔を覗き込ませて中を伺います。物音一つせず、ひんやりとした空気の流れる空間をぐるっと見回すと、ワトソン署長は振り返りヴィンセントに向けてコクンッと頷きました。


「カルロ殿?どうかされましたか?」

「バラの香りがする…」

「え?」

「私の庭に咲いているあの赤いバラと…同じ香りがします」

「カルロ殿…?」


カルロ伯爵は呟く様にそうウィリアム様に告げると、眉間に皺を寄せてジッと教会を見つめます。そして花の香りに誘われるかのようにフラッと庭の方へと歩きだしました。ウィリアム様は慌ててカルロ伯爵の後を追って行きます。

一行はワトソン署長とヴィンセント、カルロ伯爵とウィリアム様と二手に分かれて教会を捜索し始めました。

教会の中に入ったワトソン署長とヴィンセントは水を打ったように静かな空間をゆっくりと見渡しました。これと言って何の変哲もない教会にオレンジ色の夕焼けがステンドグラスに影を落とし、無機質な白い床を彩ります。ヴィンセントは嗅ぎ覚えのある甘ったるい香りが教会の中に充満しているのに顔をしかめ、鼻を袖口で押さえてしかめっ面になりながら教会の中をぐるっと見回しました。


「…誰もおりませんな」

「えぇ…。それにしてもこの香りどうにかなりませんかね?甘ったるくて気分が悪いですよ」

「確かに。お香…ですかな?確かに甘い…蜜のようなバラの香りですねぇ」


2階の聖歌隊席に上がり、ヴィンセントは上から教会を一望しました。やはりこれと言って何かあるわけでもなく、誰か居るわけでもなく教会には静かな時間が流れております。やはり杞憂か、と思ったヴィンセントは下に降りようとした時、祭壇の奥に何かが光ったのを目に留めました。


「ヴィンセント様…?」


リズミカルに階段を降りてそのまま真っ直ぐ祭壇の方へと進み、先ほど光が見えた場所の辺りを覗き込むように身体を動かして探し出しました。ワトソン署長は妙な動きに見えるヴィンセントの動きに思わず声を掛けてしまいましたが、ヴィンセントには聞こえていなかったのかはたまた無視しているのか、祭壇の辺りをずっと何やら覗き込んでおりました。


「ヴィンセント様?どうかされましたか?」

「…この辺に何か…光るものが見えたんですが…。あれか…?」

「?私には見えませんが…」

「…こちらは私が探します。署長殿は懺悔室の方を見てきてください」

「わ…分りました」


いまいち鈍くてピントの合わないワトソン署長に少し呆れたのか、ヴィンセントはチラッと横目でワトソン署長を見つめると懺悔室を見てくるように促しました。

ヴィンセントの冷たい視線に耐性がなくて身がキュッとなるほど恐れたワトソン署長は裏返った声で返事をして小走りで懺悔室の方へと走っていきました。

ふぅ…と小さくため息をついてヴィンセントは祭壇に手を突っ込み、ゴソゴソとしばらく弄っていました。そして何か掴んだようで、スッと手を引きまじまじとそれを見つめました。


「…ネックレス…」


光っていたモノは小さなダイヤモンドが散りばめられた女性物のネックレスでした。裏の留め金のところをよく見ると持ち主の名前らしきものが彫ってあります。ヴィンセントは薄暗い中目を凝らしてその文字を読み上げました。


「Iris Boleyn…イリス・ブーリン…?ってあのイリスのことか…?」


ヴィンセントが吸血鬼に襲われたイリスのネックレスがなぜここにあるのか考え込んでいたら遠くの方でワトソン署長の悲鳴が聞こえてきました。その声に驚きヴィンセントが振り返った瞬間、頭に何かで殴られたかのような強い衝撃を感じ目の前が真っ白になり、ヴィンセントはよろめいておりました。そしてもう一度強く頭を殴られ、ヴィンセントは思わずその場に倒れ込んでしまったのでした。


・・・・・・・・


 「…どうしてここにこのバラが咲いているんだ…?」

「カルロ殿?」


庭を分け入り、カルロ伯爵とウィリアム様はお庭の奥にある赤いバラの花畑へと辿り着きました。

まるで血に濡れたかのように真っ赤に咲き誇るたくさんのバラを目の前に、カルロ伯爵は震える手をグッと握り困惑しているように見えます。


「伯爵殿?」

「このバラは…私が品種改良した特別なバラなんです。吸血鬼はバラの花からそのエネルギーを…生気を吸うとお伝えしましたよね?」

「あぁ…」

「このバラは通常のバラの3倍ほどの生気を持っておりまして…エネルギーを…人の生き血を吸わないように私だけのために作ったといっても過言ではないバラで、教会の総本山(アルカディア)の領地にのみ私が植えているんです。なのでどうしてここにこのバラが植えてあるのか…」

「ここは教会の総本山(アルカディア)の領地ではないのか…?」

「グララスには私の館以外領地はないはずです…」

「…」

「… Saint Vierge の香りだ…」


カルロ伯爵はバラを一本手折るとそっとご自分のお顔の近くに持って来てその香りを嗅ぎました。ふぅ…とその香りをじっくりと嗅いでそのバラがSaint Vierge だと確認するとごくっと固唾を飲み込みました。


「…バードリー神父殿は教会の総本山(アルカディア)から派遣された者なのか…?」

「いえ、そのような報告は聞いておりません…。ですが、ここにこのバラがあるということは…そうなのかも知れません」

「とりあえずこの教会を探そう。もしかしたら吸血鬼に見つからぬように…身を隠しているだけかも知れん…」

「そうですね…。バラの強烈な香りが邪魔で分かりにくいですがこの辺りに人の気配はなさそうですね。教会の中を見に行ったヴィンセント殿と署長殿に合流いたしましょう」


お二人は踵を返し、教会の入り口の方へと向かいます。教会は水を打ったかのように静かで、物音一つせずお二人の足音だけが教会に響き渡ります。ウィリアム様もカルロ伯爵も教会の中に充満する甘ったるい香りに思わず顔をしかめました。


「…ヴィンセント?」

「署長殿もいらっしゃらないですね。入れ違い…でしょうか?」

「そうかもな…」

「…血の匂いが…する…」

「何だって…?」


カルロ伯爵は袖口で鼻を覆い血の匂いを嗅がないようにすると、教会の中をキョロキョロと見回します。そして甘ったるいバラのお香の香りしかしない中で血の匂いに誘われるがごとくフラフラとした足取りで歩き出しました。

ウィリアム様は、どんどんと高まっていく心臓を押さえてカルロ伯爵の様子を見つめておりました。


「…祭壇のテーブルの下に…誰か…居るのか?」


ウィリアム様も空が薄暗くなっていくと同時に薄明かりもなく視野が悪くなっていく教会の中を見回しておりますと、ふと教会の正面の祭壇辺りで何かを見つけられ、足早に教会の真ん中を突っ切り剣の鞘に手を掛け近づかれました。

息を飲んで驚かれたウィリアム様は祭壇の下にしゃがみこみます。


「…ヴィー、どうしたんだ…っ!しっかりしろっ!」


質素ながらも重厚な木製で出来た祭壇の下で、白い制服に身を包んだヴィンセントが倒れ込んでおりました。ウィリアム様はヴィンセントの肩に手を置き声を掛けます。

制服の襟元が強引に引っ張られたのか乱れた跡があり、ヴィンセントの白い首筋が露出しておりました。ウィリアム様は必死にヴィンセントの名前を呼んでいると、ん…と小さい声が返ってきてゆっくりとアメジストのような瞳を開きました。


「…陛下…」

「よかった…っ!無事だな…」

「痛…っ」

「大丈夫か…?」

「不覚にも後ろを取られ…頭を殴られた様です…」

「お前が後ろを取られるとは珍しいな…」

「全く人の気配がありませんでした…ってそうだ…ワトソン署長…っ!…痛っ…」


ヴィンセントは頭を押さえてゆっくりと起き上がりました。何かが当たって切れたのでしょうか、少し血の滲むこめかみの上辺りを押さえます。そして記憶の整理をしておりますと、ワトソン署長の悲鳴が聞こえたことを思い出し、パッと勢いよく立ち上がろうとしましたが殴られた頭の痛みと貧血のような感覚に襲われ、再び頭を下にして座り込んでしまいました。


「大丈夫か…?」

「陛下…ご心配をお掛けして申し訳ございません…」

「謝ることではない。それよりワトソン署長はどこに…?」

「署長殿は懺悔室を見に行ったのですが…その後すぐに彼の悲鳴が聞こえてきたのです。その悲鳴を聞いて振り返った途端、何者かに殴られて…倒れてしまいました」

「…悲鳴…」

「えぇ…」


支えてくれているウィリアム様の手を取りヴィンセントはまだズキズキと痛む頭を押さえてゆっくりと立ち上がります。ポケットからハンカチを取出し傷口の血を拭い、辺りを見回すと懺悔室の前で立ち尽くすカルロ伯爵の姿を見つけそちらの方へと歩いて行きました。

鉄の様な血の匂いがほのかに漂い、血の気の引いた真っ白なお顔で無言で立ち尽くすカルロ伯爵を見て、ヴィンセントは思わず声を掛けます。


「伯爵殿…?」

「…貴方方はご覧にならない方がいい…」

「え…?」


懺悔室の入口を塞ぐかのように立ち、スッと顔を背けてヴィンセントやウィリアム様に中を見ないように、とカルロ伯爵は震える声で告げました。

それでもカルロ伯爵の肩越しにヴィンセントとウィリアム様が懺悔室の中へとチラッと視線をやると、ハッと息を飲み目を見開き、胃の辺りから込み上げてくるモノを必死で押さえようと顔を背けて口に手をやりました。


「血溜まりが…」

「酷いな…」

「署長殿は吸血鬼に…襲われたのか…?だが部屋には誰もいないぞ?署長殿は…どこに?」

「陛下、こちらに血の跡が…」


壁にまで飛ぶほどまでに血塗られた懺悔室から、三人がいる入り口付近にポツリポツリと血の跡が残っておりました。

ヴィンセントは壁にあるランタンを一つ抜き取ると、ライターで火をつけて灯りを灯して足元を照らしました。薄暗い教会の中にオレンジ色の温かい光がほんのわずかですが灯りました。


「あっちの部屋に続いていますね…」


懺悔室に向かってカルロ伯爵は十字を切り、そっと扉を閉めました。まだ青白い顔をしているウィリアム様とヴィンセントでしたが、お二人とも気を切り替えるように息を吐き出しました。


「…私が懺悔室を見入って来てくださいと署長に頼んだばっかりに…こんなことに…」

「ヴィンセント殿…」

「署長殿は吸血鬼に…襲われたのか…?」

「分かりません。ですが可能性は高いです。そしてヴィンセント殿…貴方もあと数分遅かったら血を吸われていたかも知れません」

「…」

「微かですが…吸血鬼(ヤツ)の気配を感じます。急ぎましょう。もしかしたら…この教会に吸血鬼は潜んでいるのかも知れません」

「そのようですね」

「ヴィンセント?」

「陛下…これを」


襟元の乱れを直しながら、ヴィンセントはポケットからまた別のハンカチを取出してウィリアム様とカルロ伯爵の前で広げます。ハンカチの中には小さなダイヤモンドが散りばめられた女性物のネックレスがあり、薄らとした暗闇の中でも小さくキラキラと輝いておりました。


「…なんだこれは?」

「裏をご覧ください」


ランタンをウィリアム様のお顔の近くに持って行き良く見えるようにと小さい炎の光の下、ウィリアム様はネックレスの裏側に刻印されている文字を読み上げました。


「Iris Boleyn…。イリス・ブーリン…だと?!」

「このネックレスは吸血鬼に襲われて意識不明の重体に陥ったイリスのモノだと…。こちらの祭壇のこの装飾の中に隠す様に入っておりました」

「祭壇の中に…?」

「えぇ…」

「やはりこの教会には…吸血鬼が潜んでいるのか…?」

「だったらなおのこと、バードリー神父と姫様の身に危険が迫っているかも知れません」

「…よし、この血痕を追うぞ」

「陛下、奥に扉が」

「居住スペースだろう。電話か何か…外に連絡を取る手段を探そう」

「は…」


血痕を消さぬように、まずはヴィンセントが先頭に立ち、辺りを警戒しながらも三人は奥の扉を通り抜けて神父用の居住ペースの方へと進んで行かれました。教会と同様物音一つせず人気のない空難には甘い香りが漂っております。

ヴィンセントはゆっくりと扉を開くとある部屋の中を顔を入れて覗き込みました。

壁一面に棚一杯に本が詰められた大きな本棚がある部屋には大きくて簡素なデスクとその上に電話が載っておりました。ヴィンセントは警察に連絡しようと受話器を取り耳に当てましたが、その受話器からは何も聞こえてきませんでした。よく見ると電話の線が誰かによって切られていたのです。


「ヴィンセント?」


別の部屋を見ていたウィリアム様が入って来られて声を掛けると、ヴィンセントは溜息をつきながら受話器を戻しました。


「陛下、ダメです。電話線切られております」

「寝室にも電話があったが、同じく電話線が切られている…」

「こんなことならマリアに言って他国でも使えるように通信機を改良してもらっていればよかった…」

「今更仕方ない。…この居住スペースには誰も居ないな」

「陛下!ヴィンセント殿!」


別の部屋から、カルロ伯爵の呼ぶ声がしました。ウィリアム様とヴィンセントがその声のする応接間へとやって来ると、カルロ伯爵は応接間の大きな窓を開けて外をじっと見ておりました。


「どうされましたか、伯爵殿」

「こちらを…」


スッとカルロ伯爵が指さした方をウィリアム様とヴィンセントが見ると泥だらけのレンガのタイルの上にはまだ新しい血痕が落ちており、さらにその先にあるまだ湿っぽい庭の土にはまだ新しい足跡がありました。


「男性の足跡と…女性の足跡…それにいくつかの足跡も混在していますね」

「まだ新しいですね…」

「あぁ」

「何度かここを行き来しているな」

「…そうですね」

「あっちに…飛び跳ねたような間隔の広い女性の足跡もあります」

「…ここ割と最近まで誰か居たんだな」

「そういうことですかね…」

「…追ってみよう」

「陛下!」

「もしかしたら…バードリー神父が吸血鬼から逃げるために安全な所へ行ったのかも知れん。それに女性の足跡は…もしかしたらシャルかも知れない…。血だらけのワトソン署長を連れて吸血鬼がそれを追ったのかも知れんな」

「その可能性に掛けてみましょうか…」


三人はそう言うと足跡をたどって庭へと降りて歩き出しました。どこからともなく、バラの花の香りが流れて辺りを漂います。ヴィンセントは横目でチラッと眉間に皺を寄せて神妙なお顔をされているカルロ伯爵を見ました。なにやら考え込んでいるようで、ヴィンセントの視線にも気が付かずにおります。


「…陛下、この足跡森の中に入って行っております」

「行こう」

「ですが闇雲に進むのは危険かと…」

「だがそれ以外に方法がない。行こう」


ウィリアム様は力強くそう二人に告げると足跡と所々に落ちている血痕を見ながら森の中へと入って行きました。ふぅ…と小さく息を吐き、ヴィンセントも足早にその後を追い、カルロ伯爵も少しその後に続きました。

すっかり夜の闇が辺りを覆いどこかでフクロウの無く声も聞こえてくる漆黒の森の中を、三人は足跡を頼りに進み続けます。どこからともなく葉がガサガサと動く音が聞こえて、三人はそのたびに警戒して剣杖に手をやり辺りを伺います。少し待っても、それ以上何もなかったので三人は手を緩め、再び歩き出しました。

しばらく森の中を歩いておりますと、カルロ伯爵は何かの気配に気が付きパッと後ろを振り返りました。


「…伯爵殿?」

「近くに…獣のような…吸血鬼(アイツ)の血生臭い臭いが…します」

「あ…伯爵殿っ!」


カルロ伯爵は独り言のようにそう呟くと、何かに吸い寄せられるかのように足早に歩き始めました。

瞳が金色に光りだし、明らかに尋常ではない様子に慌ててウィリアム様が追いかけようとした時、ウィリアム様とヴィンセントの背後からガサガサと大きな音を立てて何かが近づいてきました。

そしてお二人が振り返ると、二人は動くことすら出来ずに息を飲んで立ち尽くしてしまったのでした。

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