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ローザタニア王国物語 〜A FAIRY TALE〜  作者: 月城 美伶
jardin secret ~秘密の花園~

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第4章 Jardin secret ~秘密の花園~ 第二十五話

 少しひんやりとした雨上がりの空気に触れて霧はどんどんと濃くなり、まだ明るい時間にもかかわらず辺りはどんよりと薄暗くなっていきました。

グララスの街外れにある古くて小さい教会に隣接する森に迷い込んだローザタニアのプリンセスのシャルロット様はそこで小さな納屋を見つけました。何の変哲もない、ガーデニング用品がしまってある小さな納屋でしたが、ふと足元の絨毯に引っかかり見てみると、そこには小さな木製の納屋には不釣り合いの頑丈な鉄の扉で出来た地下室への入り口がありました。

少し不思議に思われたシャルロット様がその入り口をジッと注視していると、そっと誰かがシャルロット様の背後に近づき肩をポンッと叩かれたのです。


「きゃ…っ!」

「…シャルロット様、危ないから遠くに行かれないでくださいと申したじゃないですか!」

「バードリー神父様!ごめんなさい…つい好奇心に駆られて…」


音もなく静かにシャルロット様の背後に立っていたのはバードリー神父でした。

シャルロット様は声を掛けて来られたのがバードリー神父だったのが分かって安心されたのか、ホッとした表情で笑顔を見せられました。しかしバードリー神父のいつものたれ目で柔らかい穏やかな鳶色の瞳は少し怒りの炎が灯っているのか、眉間に皺を寄せてキッと強い力でシャルロット様を見つめております。


「シャルロット様…っ!怖がらせる様でしたのでお伝えしませんでしたが、教会の裏は深い森に繋がっているんです!ときおりオオカミやキツネの目撃情報もあり危険なんです!」

「ゴメンなさい神父さま…」

「シャルロット様に何かあったらもう…本当に一大事なんですから!!」


シャルロット様を見つけた安堵からなのか、バードリー神父は頭をガクッと下に向け思い切り大きなため息を吐かれました。


「あっ…本当にゴメンなさい!ちょっと水溜りを飛び跳ねて遊んでいたらうっかりここにきちゃったのっ!」

「ここはただの納屋ですが、刃物も置いてますし怪我でもされたら危ないです。早く出ましょう」

「え、えぇ…」


バードリー神父はシャルロット様の手を取られ、足早に納屋から出ようとされます。引っ張られる形でシャルロット様は納屋から連れ出され、鬱蒼とした森に戻ってきました。


「ねぇ神父様…あの納屋の地面にあった扉は地下室の扉?」

「あ、はい…」

「まだ新しい扉だったけど凄く頑丈そうね。とても私なんかじゃ開けられそうになさそうだわ」


意外と納屋は教会から離れていた様で、お二人は木々の生い茂る森の中を戻って行かれます。時々、風に乗って甘いバラの香りが教会のお庭から流れてきました。

シャルロット様はその香りを嗅がれるとなんだかカルロ様のことを思い出してしまい、少し頬がニヤけて胸がドキドキと高鳴り出すのを感じました。しかししっかりしなきゃと思い直して頭を振って気持ちを切り替えようとしてバードリー神父ににこやかに話しかけられます。


「地下室ってドキドキしちゃう響きね!何だか秘密のお部屋みたいでワクワクしちゃう!」

「そうですか?」

「だって…特にあんな風に扉を隠していたりすると余計に秘密のお部屋感があるじゃない?あ、大丈夫よ!私気にしてないわ!だって男の人には誰にだって一つや二つ、秘密の花園があるってばあやが言っていたもの!」

「はぁ…」

「だから大丈夫よ神父様!いくら神父様だからと言って、誰にも言えないような秘密を持っていても人間なんだからおかしくないもの!」

「…知りたいですか?あの地下室の秘密…」

「え…?」

「実は…あの地下室は秘密の空間に繋がっておりまして…夜な夜な妖しいことをしているんです」

「…えっ!?」

「なーんて!嘘ですよ、シャルロット様!」

「!!」


声のトーンを低くして思いっきり真顔でバードリー神父はシャルロット様を見つめておりましたが、えっと惹かれるくらい驚かれたシャルロット様の反応を見て、パッとあははは…とバードリー神父は笑いだされました。


「いやぁ…すみません。ちょっとおふざけが過ぎました。…あの地下室はね、ゴミ捨て場の入り口です。前の扉が古くて壊れていたので最近新しいのに変えたんですよ。それにやはり匂いがしますから少しでも防ぐために布を掛けていたんですが…私も良くうっかりとひっかかてコケちゃうんですよね、あそこ」

「…そ…そうなの?」

「すみません、何の変哲もないただのゴミ捨て場で…面白くありませんよね」

「んもぅ!ビックリしちゃったわ!何か妖しいモノなんじゃないかって、ちょっとドキドキしちゃったわ!」

「あぁ…怒らないでください~!驚かせてすみません!!」

「もぅ…!…大丈夫よ、そんな怒ってなんかいないわ!神父様って意外とお茶目さんなのね」


ビックリさせられて少しプンスカと怒られていたシャルロット様のお姿を見て慌てるバードリー神父の姿に、シャルロット様はプッと吹き出して笑い出しました。


「いえ、こちらこそ申し訳ございません…っ!?」


シュンとしてしまったバードリー神父のお顔をシャルロット様は見上げるように覗き込まれます。かなり近い距離までシャルロット様のお顔が近づいたからか、バードリー神父はお顔を真っ赤にしてワッと声をあげて後退りされました。


「やだ神父様…大丈夫…?」

「は…はい…っ!すみません、いきなりそんな急にお顔を近づけられたのでびっくりしてしまって…っ!私、じょ…女性に免疫がないので…そんなにキラキラと輝く綺麗なお顔を近づかれたら…ドキドキしちゃいます…」

「え…?あら…ごめんなさい」

「いえ…シャルロット様は…とても無邪気な方ですね…」

「そう?」

「え…えぇ…。本当に…お気を付け下さいね…」


熱を帯びて熱い顔をパタパタと手で仰ぎ、バードリー神父はドキドキと高鳴る旨を押さえます。シャルロット様は悪いことしちゃったかしら…とちょっと肩をすくめましたが、お二人はそのまま時おり談笑しながら来た道を戻り教会のお庭へと戻って来られました。

応接間に戻るとバードリー神父はもう一度温かい紅茶を入れてくれました。お外を散策されて少しお疲れになったシャルロット様は喉が渇いていらっしゃったのか、紅茶を飲み干すくらいの勢いで飲まれます。


「この紅茶美味しいわ」

「お気に召していただいて何よりです。お疲れの様ですから…バラの花びらの砂糖漬けをお入れしておきました。さぁ、マドレーヌもございますのでどうぞお召し上がりください」

「ありがとう神父様」


もう一口紅茶を飲まれると、テーブルに置かれている焼きたてのマドレーヌを手に取りパクッと一口召し上がられました。甘いものが大好きなシャルロット様の瞳が一気に輝きだし、モグモグと小動物の様に頬張りながらマドレーヌをパクパクと口に運ばれます。


「美味しい…っ!」

「こちらにも…バラの花のエキスを少し入れております」

「だからほのかにバラの香りがするのね…!とても美味しくって何個でも食べられそう!」

「まだまだありますから、どうぞお召し上がりください」

「えぇ!ありがとう神父様!」


ニコニコと幸せそうに微笑みながらシャルロット様はマドレーヌを次々に口に入れて行きます。バードリー神父もそんなシャルロット様を見守るようにニコニコと微笑みながらゆっくりと紅茶を一口飲まれております。もう一ついただこうと手を伸ばされましたが、シャルロット様はハッと我に帰られて伸ばした手を引込め、胸の前でグッと留めてぶつくさと自分に言い聞かす様に何やら独り言を言い始めました。


「…っと!いけない、あまりにも美味しすぎて食べ過ぎてしまったわ!晩ごはんが食べられなくなってまたヴィーに怒られちゃう…っ!」

「おや…」

「ごめんなさい神父様、お菓子はもうこれくらいにしておくわ!あ…ねぇ、お兄様たちはいつ頃こちらに来られるの?どうせなら皆で一緒にこの美味しいマドレーヌを食べたいわ」

「そうですね…そろそろ連絡が来ると思うのですが…。少し失礼して様子を見て来ましょう」


バードリー神父は時計をチラッと確認されると、一礼をしてお部屋を出て行かれました。またしても一人取り残されたシャルロット様は、手持無沙汰なのか人気も無く静かになったお部屋をぐるっと見回します。

質素な教会の応接間は飾りっ気が無く、壁際の棚に古びた金細工の小さな十字架と聖書、そしてお香の壷と真っ赤なバラが活けてあるだけでした。

シャルロット様はスッと立ち上がり棚の方へと近づかれます。

古めかしくも細やかな装飾が施された十字架や、同じく少しエキゾチックな雰囲気のこれまた金細工のお香の壷をジッと見つめておりました。


「お待たせいたしましたシャルロット様…。もう少しでこちらに来られるとのことですよ」


コンコンコン、と控えめなノックと共にバードリー神父がにこやかな笑顔で戻って来られました。そしておや?と棚の前にいらっしゃったシャルロット様を見つけられて、そちらの方へとやって来られてシャルロット様の横に並ばれるように立たれます。


「神父様!」

「気になりますか?そのお香立ては、古い友人からもらったんです」

「まぁそうなのね。とても綺麗なお香立だわ」

「ありがとうございます。なんでも…300年ほど昔のペトゥール王国時代に作られたアンティーク品だそうですよ。実は私はお香を焚くのも好きでして、リラックスしたい時や集中したい時などよくお香を焚いたりします」

「へぇ…歴史があるのねぇ。ねぇ、神父様はどういった香りがお好きなの?」

「そうですねぇ…。あ、せっかくですから私の好きな香りのお香を焚きましょうか」

「まぁ嬉しい!」


バードリー神父は棚の引き出しからお香を取り出し、手慣れた手つきで準備をしてお香を焚き始めました。徐々にお部屋にはサンダルウッドのウッディ―な香りと、甘くそして重厚なバラの香りが広がっていきました。


「リラックスできる香りのサンダルウッドと…このバラを調合させた香りです」

「神父様はこのバラの香りが好きなのね」

「えぇ…このバラは…私には命の様に大切なバラですから…」

「そんなにお好きなのね」

「えぇとても…」

「…確かに何だかとても落ち着く香りだわ」

「お気に召していただけましたか?」

「えぇ」

「よかったです。…お紅茶飲まれますか?」

「そうね、もう少しだけいただこうかしら」


シャルロット様は再びソファーに座られると、新たに入れてもらった紅茶を一口飲まれ一息つかれました。ふと窓の外を見ると、霧が薄くなってきているのか青空が少しずつ顔を出し始めました。風もあるのか、雲も流れるように動いて行きます。リラックス効果のあるお香をの香りを嗅ぎながらぼんやりと空を眺めておりますと、シャルロット様は段々とご自分の瞼が重くなっていくのを感じました。

しばらくすると、応接間にはシャルロット様の寝息が微かに聞こえてきました。

バードリー神父は紅茶のカップを静かに置くと、一つ大きく息を吐いてゆっくりと立ち上がりシャルロット様の前にやって来て上から冷たい視線で見下ろします。


「思いのほか、貴女がよくこのバラのエキスを吸ってくださったからかよく効いておりますね」


シャルロット様のスベスベとした頬に手をかざし、スッと指で撫でて金色に輝く柔らかい絹のような髪を一掬いされました。そしてその髪を自分の口元に持ってくると、愛おしそうにそっとキスをして微笑みます。


「…極上の美とは貴女のことですね…。透き通るように白くて美しいビスクドールの様な肌…金糸のような光り輝く柔らかくて美しい髪。…長い睫に紅を引いたように赤い瑞々しい唇と血色の好い頬…。本当に貴女は神が造り給うた芸術品ですね…。あぁ…貴女のことをもっと知りたい…っ!!貴女を奴に渡してなどなるものですか…」


クックック…と喉の奥で笑う声がどんどんと大きくなり、部屋中にバードリー神父の高笑いが響き渡ります。耳を(つんざ)くほどの大きな笑い声に一切反応することなく、シャルロット様は微塵も動かれずにスヤスヤと長い睫に影を落として寝入っております。バードリー神父はソファーに倒れ込むように眠っているシャルロット様を抱き抱えるとそのまま教会へと進んでゆきます。


「さぁ…しばしゆっくりとお休みくださいませ…。そして私と一緒に…快楽と言うの名の天国へ行きましょう…」


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