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ローザタニア王国物語 〜A FAIRY TALE〜  作者: 月城 美伶
jardin secret ~秘密の花園~

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第4章 Jardin secret ~秘密の花園~ 第二十二話

………………………… 


 それはとても静かな夜のことでした。

オレンジ色に光る街燈がぼんやりと見える街はずれの霧深い人里離れた森に、酒場でしこたま酔った中年のおそらく労働者階級の男と、その男たちと盛り上がって一緒に店を出てきたお化粧の濃い女がケラケラと何かに盛り上がって笑いながらもつれ合いながら、千鳥足でよたよたと歩いてきております。


「もぉう~やだぁ…旦那ったらっ!こんなところでぇ」

「いいじゃねぇか!たまには開放的なのもいいだろ?」

「誰か人が居たらどうするのさぁ」

「誰も居ねぇよこんな森にゃあ」


男は女を大きな木に持たれかけさせ、顎をクイッと持ち上げてぷっくりとしたどこか淫靡さを持つ女の唇を貪るように吸い付き出します。

女は最初は顔を横に向けたりとして抵抗してみるものの、徐々に身体をモジモジとさせて男の首に腕を回し、男の唇を受け入れて何度も何度も男からの無骨な熱いキスを受け入れていました。安っぽいペラペラのドレスの間から力仕事でゴツゴツとした筋肉のついた太い手を差しこみ、女の足の間や腰をまさぐっています。女もそんな太い指の男らしい手の感触にうっとりし、甘いため息を何度も何度も漏らし始めました。


「お前やっぱり色っぽくてたまんねぇなぁ…最高だぜティナ…」

「フフフ…」


虫の声とフクロウの声しか聞こえない静かな森の中で二人はお互いを激しく求めあいながらひと時の快楽を楽しんでおりました。

しばらくして二人は最高潮に盛り上がり始め、ついに男が女を後ろ向きにさせてまさに今から女の身体を楽しもうとしたその時です。男は頭に何か殴られたような強い衝撃を受けたのを感じました。


「っ!」


ドサッと乾いた土の上に倒れ込むような音が響きました。


「…旦那?」


女は異変を感じて後ろを振り向こうとしました。しかし女が振り向くよりも早く、今度は女の首筋に何やら強い衝撃が加わったのです。


「…っ!?」


女は何が起こったのか分からずにジタバタと動いて必死に抵抗します。しかし後ろ向きにされている上に酔っぱらったままの身体では普段よりもさらに力が弱くなっており、女は自分の首筋に加わる力に必死で抵抗しますが全く歯が立ちません。

女は段々と意識が遠のいていくのを感じ、そのままブランと身体を放り出してついには動かなくなってしまいました。

そして地面に倒れている男と、女を襲ったモノ―――…黒いローブを頭からすっぽりと全身に被り、男なのか女のかましてや人間なのか異形の者なのか正体が分からないその黒い姿は、自分の腕の中でダランと意識を失っている女を抱えると、そのままズルズルと森の中に引き込んでいきました。そしてその後、微かに女の悲鳴が聞こえてきましたが静寂が広がる森の中にそっと掻き消されていきました。

新月で空には星の灯りしか無く、とても暗い夜のことです―――…。


・・・・・・・・


 「おい、また街外れの森の中で女が殺されたらしいぜ…」

「えっ!?怖いわねぇ…」

「安酒場インフェルノの踊り子のティナって子だろ?可哀想に…乱暴された後、全身の血を首から抜き取られていたらしいぜ」

「怖いわねぇ…」


翌日の昼下がりのことです。教会でのミサが終わり、街の人々がバラバラと教会から出て行きながら口々に今朝街外れの森の中で発見された事件の話をしておりました。


「前にも同じような事件が何件かあったよな…」

「あぁ。先月は娼婦が同じような手口で殺されてたな」

「その前は男娼の少年だったか?」

「その前に孤児の女の子が殺されてるよ!何だか…変な事件ばっかりだな」

「ちくしょうっ!犯人はいったい誰なんだっ!!こんなひどいことをしやがって…」

「全身の血を抜かれるだなんて恐ろしいっ!まるで吸血鬼みたいだね…」


ゴーンっと教会の鐘が鳴り、木に止まっていた鳥たちがバサバサと羽根を羽ばたかせて飛び去って行くと、街の人たちは口々に恐怖や不安等を言い合って教会から家へと足早に帰っていきました。そして人気がなくなり静かになった教会から一人の若い男性がふっとため息をついてそっと表に出てきて、今にも泣き出しそうな曇った空を見上げました。


「ジャン神父様…!」

「…ルチア!どうしたのですか?」


ジャン神父と呼ばれたその男性は、爽やかな鳶色の瞳と、同じく鳶色の髪が映える端正な彫刻の様な顔を少し青ざめながら声の方へと顔を上げました。そこには心配して狼狽した表情の一人の修道女(シスター)―――…ルチアの姿がありました。


「…今の話は本当ですか?」

「聞いていたのですか」

「…申し訳ございません。聞くつもりはなかったのですがつい耳に聞こえてしまったので…」

「そうですか。あまりにも恐ろしいので女性である貴女にはお聞かせしたくない話ですが…えぇ、本当のことです」

「まぁ…」

「殺された女性の魂に神の救いを…祈りましょう」


神父様は悲しそうに顔を下に背けて十字を切り支社を弔うように祈りました。ルチアも神父様に続いて祈りをささげます。少しの沈黙の後、神父様は辺りを見回すとルチアを教会の中に入るように促しました。


「人に聞かれてはならないと思いますので中へ…」

「神父様…?」


曇天の弱い光を浴びて床にぼんやりと映るステンドの影がひしめく人気のない静かな教会の中に二人は入り、キョロキョロと辺りを見回して他に誰も居ないことを確認すると神父様はゴクッと唾を飲みこみ神妙なお顔で小声でルチアにそっと打ち明け始めました。


「実は…少し前から警察から相談されていたのですが…犯人はどうやら私と同じくらいの背格好の男の様だと聞いております」

「え…?」

「もし私と似たような背格好の男が、この教会に自分の犯した罪を抱えきれずに懺悔に来るかも知れません。その場合は…すぐに警察に連絡できるように手筈を整えねばなりません」

「神父様…」

「その時はルチア、貴女にも協力していただきたい…」

「はい…」

「たとえそれが…知り合いであろうとも」

「え?」

「頼みましたよ、ルチア」


神父様はキュッとルチアの手を強く握り、獲物を狙う鳶のように真っ直ぐで鋭く力強い瞳でルチアの顔を見つめました。


「ま…待ってください神父様…!どういうことですか…?」

「…ルチア、誠に申し上げにくいことですが…私は貴女の元婚約者であるカルロ伯爵殿が怪しいのではないかと…警察もそのように疑っている節がありました」

「…何ですって!?」

「まだ証拠も何もありませんので伯爵殿を犯人扱いするのもどうかと思いますが…ですが殺された方々が発見されたのは伯爵殿の領地の森であったりその近くの川べりだったり…」

「でもそれだけでカルロ伯爵を犯人だなんて…っ!」

「…私だって信じたくありません。ですが…貴女も噂で耳にしていると思いますが、あの伯爵がとんでもない好色家だというのはご存知でしょう?社交界の貴婦人を始め、娼館の娼婦や男娼までも抱き…そして妖しい香りのする薬を使い複数で乱れるような夜会を毎晩あの館で行っているという噂もあります」

「…」

「そのような貞淑・純潔の神の教えに背く不埒なことをする者は悪魔に身体を乗っ取られているのかそれとも伯爵殿自身が悪魔なのか…」

「そんな…」

「…それに、伯爵殿の背格好は私ととてもよく似ています…。きちんとした証拠はありませんが…疑うには充分の理由があります」

「神父様…」

「とにかくルチア…あの伯爵殿には近づいてはなりません。貴女とあの伯爵が過去に婚約者同士だったと知っているのはごくわずかな人間だけですが…接点があると分かれば貴女も疑われてしまうかも知れない。ルチア…いいですね?」

「…」


神父様はもう一度ルチアの手を強く握り、語尾を強くしてルチアに言い聞かせるように言いました。

青白い顔で言葉を失っているルチアはまっすぐ前を見ておりましたが、瞳は焦点を定めておらずに明らかに動揺しているかのように見えました。

神父様はそんなルチアを落ち着かせる様に優しく肩を抱き寄せてギュッと力強く包み込むように抱きしめました。洗いたての清潔な石鹸の香りとどこか甘い花の香りのするお香の香りがする神父様の腕の中に包まれてルチアは小さくこくんと頷くと、そのままキュッと神父様の腕を掴み、不安で震える子供のように小さくなってしまいました。

神父様は心配そうに眉をひそめておりましたが、そろそろ講義の時間ですね、とルチアに告げてポンポンと優しく背中を叩くと一足先に奥の部屋の方へと帰っていかれました。

一人教会に取り残されたルチアは、神父様の足音が聞こえなくなると教会に掛かっている大きな十字架をぼんやりと見つめながら呆然とその場に立ち尽くしていたのでした―――…。


・・・・・・・・


 時は200年前のグララスです。

大きくそびえ立つ山々の裾野には大きな湖が青く煌めき、緑豊かな山々や畑や牧場といった農村の風景が広がります。

そして街の外れの小高い丘には教会と修道院が人々が行き交う街を守るかのようにポツンと建っておりました。

この修道院にはたくさんの若いシスターたちが在籍しております。そのほとんどはグララス近郊の貴族や良家の年頃の娘たちで、花嫁修業の一環として修道院での倹しく清く正しい生活を学び、そして貞淑な妻になれるように神の教えを勉強するために半年から1年ほどこの修道院で過ごすのが慣例となっております。


「今日のジャン神父様の講義面白くてよかったわねぇ」


数人の若いシスターの格好をした娘たちが、ワラワラと教会の奥にある講堂から出てきました。神父様からの神の教えを学ぶ講義があったようで、彼女たちは手に聖書やノートを持って思い思い感想を述べながら教会から修道院へと繋がる広い中庭を突っ切って修道院の方へと帰っていっております。

一人の三つ編みを垂らした丸顔の少女が、まん丸の頬を赤く染めながらて喜びの表情でため息をつく様に息を洩らしました。


「ホント!あの彫刻のように美しい端正なお顔にあの心地よい低音のお声…。他の神父様だと眠たくて仕方のない講義でもジャン神父様だと全然眠たくないわ!一日中聞いていられるわ!」

「とか言ってるけど…神父様のお顔ばっかり見つめていて講義なんてちっとも聞いてないじゃない、テレーズは!」

「アガタ!そんなことないわ!ちゃんと私講義聞いていたわよ!聖書の165ページ、第4章の神の御子対悪魔の荒野での戦いの場面のお話でしょ?ちゃんと聞いていたわよ!」

「へぇ~」

「『悪よ…そなたの甘い誘惑の声になど私は決して負けたりしない…。私は神の御子である!光と共に私は歩いて行くのだっ!!』…って神父様の力強いお声で仰っていたのをちゃんと聞いていたわよっ!!」


少女たちはケラケラとはじける笑顔で笑い合い足取りも軽く修道院へと戻っていきました。

少し遅れて、静かになった中庭をゆっくりとした足取りで何か考え事をしながらルチアは歩いております。


「ボーっとしていたら危ないわよ…」

「ッ!シスターマチルダ…っ!」


背後から肩をポンッと叩かれ、考え事をしていたルチアはビクッと驚いて後ろを振り返りました。

そこには切れ長の瞳に吸い付きたくなるほど瑞々しい唇、ベールから覗く輝くような金色の麗しい髪にどこか甘い香りを漂わせ、制服の上からでもはっきりと分かる豊満なボディーのその女性―――…シスターマチルダがジッとルチアを見つめておりました。


「どうしたの?さっきから呼びかけていたんだけれど…上の空ね」

「も…申し訳ございませんシスターマチルダ…」

「何か考え事…?」

「あ…いえ…」

「…そう。顔色が悪いようだけれど大丈夫…?」


シスターマチルダはスッとルチアに近づき、ルチアの顎をクイッと上げてお顔を覗き込みました。


「…貴女…」

「え…?」

「とても甘い香りがするのね…」

「えっ!?シ…シスターマチルダの方が甘くていい香りされますけどっ!?」

「…お香の話じゃないのよルシア…。なんだかこう…身体の奥から湧き上がってくる香り…とでも言うのかしら。とても蠱惑的ね…」

「こ…蠱惑的っ!?」


マチルダはさらにルチアに近づき、クンクン…とルチアを嗅ぎまわります。そして首筋の辺りをじっくりと執拗なまでに嗅ぎまわるとベールを少しかき上げてルチアの白くて細いうなじに唇を這わせる様に近づけてきました。


「…っ!?」

「可愛いわね…貴女…」


フフフ…と微笑みながらマチルダはさらにルチアに近づいて行きます。ルチアは驚きの余り目を大きく見開いて固まってしまい動くことが出来ずにおりました。

マチルダの唇がルチアの首筋をスーッとなぞり、そのままどんどん上に上がっていき、お顔の方まで上がって唇の近くまでやって来た時、後方から誰かが近づいてくる気配がしました。


「おやおや…何やらとても楽しそうなことをされておりますね」

「まぁカルロ伯爵…貴方もご一緒にお戯れなさります?」


マチルダはニコニコと満面の笑みでこちらに近づいてくるカルロ伯爵に妖しくにっこりと微笑んで振り返りました。カルロ伯爵はマチルダとルチアの手を取り両方の手に同時にキスをして挨拶をし、そのまま二人を抱き寄せるように腰に手を添えてきました。

ルチアはもの凄い勢いでカルロ伯爵の手を叩き、腰に添えられて手をまるでゴミでも触るかのように素早い動きでどかしました。マチルダは動じることなくカルロ伯爵の手の上に自分の手を重ねてそのまま見つめ合うような体勢を続けておりました。


「咲き誇る瑞々しいバラの花のようにお美しいお二人と是非ともご一緒させていただきたいんですが…あいにく今から院長(シスターハンナ)と面会の約束があるんですよ」

「まぁ…それは残念ですわ…」

「またの機会に…是非貴女方とはめくるめく一夜を過ごしたいものですね」

「まぁ…背徳的ね」


フフフ…とマチルダは微笑み、腰に添えられているカルロ伯爵の手をスッと外しました。カルロ伯爵もマチルダに微笑んでそっと頬にキスをして返します。とそこへ、顔を真っ赤にしているルチアが二人の間に割って入りパッとカルロ伯爵の方を睨むように見上げて早口で捲し立て上げました。


「カ…カルロ伯爵っ!!でしたら早急に院長(シスターハンナ)の所へ行かれてはっ!?お待ちではないのでしょうかっ!?」

「おっと…そうでした。このままここで花のような貴女方と戯れていたいのですが…名残惜しいですね」

「そう言えば私も同席するように院長(シスターハンナ)言われておりましたわ。参りましょうか、カルロ伯爵…」


まるで何事も無かったかのようにマチルダはそう言うと、スッと踵を返してカルロ伯爵に合図をして修道院の方へと歩き出しました。


「それではまた…愛しのルチア…」


再びルチアの手を取ってキスをさりげなくすると伯爵はフッと微笑んでマチルダの後に続いて修道院の方へと向かって行かれました。だんだんと遠くなっていく伯爵とマチルダの後姿が見えなくなると、ルチアはもぅっ!と大きな声を出して頭を抱えてヘナヘナと座り込みました。


「や…やっぱり昔と何一つ変わっていないじゃない…っ!女好きで…すぐにあんな軽々しく口説いてくるしっ!それにここをどこだと思っているのっ!?神聖なる教会の敷地の中よっ!!…もうっ!カルロなんてどうなろうと知らないんだから―――っ!!」


・・・・・・・・


 「フフフ…何だか一人で悶えているわね」

「えぇ。何とも言えない愛おしさでしょう?私は昔からルチアのああいう初心な反応がたまらなく大好きなんです」

「まぁ…伯爵ったら…酷い人ね」


遠くの方で聞こえるルチアの声を背後に、カルロ伯爵とマチルダは微笑みあいながら仲縄から続く修道院の真っ白な廊下を歩いております。ドンドンと進んで行くとまったく人気の無いだだっ広い廊下が広がります。


「サディスティックにしか愛せないんですよ」

「…そう。羨ましいわね」


マチルダはどこか愁いを帯びた切れ長の瞳をチラッとカルロ伯爵に向けました。ふと立ち度また伯爵はマチルダの手を取るとまた優しくその手に口づけをしてそっと細い腰に手を当てて抱き寄せます。


「…今晩…お部屋にお邪魔しても?」

「フフフ…そうね。いつものように裏口を開けておくわ」

「夜が待ちきれませんね」

「私もよ、伯爵…」


マチルダはスッと伯爵の首に手を回してにっこりと微笑みました。伯爵は微笑み返しながらマチルダの艶やかな唇にそっと自分の唇を重ねると、二人はそのまま何度も何度も唇を重ね合わせます。マチルダの唇からは熱を帯びた甘い吐息が漏れ聞こえだしました。


「…今はここまで…。早く行かないと院長(シスターハンナ)に怒られますわ」

「そうですね…」


ゆっくりと唇を離すとマチルダは指を伯爵の唇に手を当ててこれ以上ヒートアップするのを制止しました。伯爵はフッと口角を上げて艶やかに微笑み返すと、スッと二人は身体を離すと何事も無かったかのように再び歩き始めました。

カツンカツンと静かな人気のない廊下には二人の足音だけが響き渡っていたのでした―――…。


…………………………

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