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ローザタニア王国物語 〜A FAIRY TALE〜  作者: 月城 美伶
真夏の夜の悪夢 ~Le cauchemar de Vincent~

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第3章 真夏の夜の悪夢 ~Le cauchemar de Vincent~ 第四話

 「シャル、気分は悪くないか?大丈夫か?」

「えぇお兄様、大丈夫よ」

「そうか…少しでも気分が悪くなったらいつでも言うんだぞ」

「…ありがとう、お兄様」


シャルロット様を自分のベッドに優しく寝かせると、ウィリアム様はご自分もお布団の中に入られて少し不安げな表情のシャルロット様のお顔を優しく見つめられました。


「ねぇお兄様…」

「ん?」

「私…皆に何か悪いことしちゃったの…?」

「お前は何もしていなよ。だから安心しておやすみ…」

「本当?」

「あぁ」

「ヴィーの態度がいつもと違ったの。だから…私…ヴィーに何かしちゃったの?」

「シャル…」

「だったらヴィーに謝らないと。私の意識がない時の話だけれど…それでもヴィーに何か悪いことしちゃったのならちゃんとごめんなさいって言わないと駄目だと思うの…」


シャルロット様はとても困惑したようなお顔でウィリアム様のお顔を見上げるように見つめております。ウィリアム様はシャルロット様の真っ直ぐな瞳をしっかりと受け止めてちゃんとシャルロット様の仰っていることを聞いておりました。


「…じゃあ明日、自分でヴィンセントにちゃんと聞いてごらん?そして何かお前が悪いことをしていたのならちゃんと謝りなさい」

「お兄様…」

「さぁ、明日は少し早起きしなければならないから、早く寝よう」

「えぇ…」

「…おやすみ、私の可愛いシャルロット」

「おやすみなさい」


ウィリアム様はにっこりと微笑んでシャルロット様のおでこにキスをされました。シャルロット様は嬉しそうに笑顔を見せられると、いたずら盛りの子猫のような瞳でウィリアム様を見つめてお返しに頬にキスをされました。そして二人はお顔を見合わせて笑い合い、肩までお布団に入りゆっくと瞳を閉じられました。

先程まで強く拭いていた風もいつの間にか吹き止んでおります。

空には星々が瞬いており、とても静かな夜のことでした。


・・・・・・・・


 翌日の午前中のことです。ローザタニアの城下街の王都・パラディスの大聖堂では司教の元、大規模なミサが急遽行われました。ウィリアム様、シャルロット様、ヴィンセントやその他多くの人々が大聖堂で司教と共に祈りを捧げて身も心も綺麗にしようとしております。

眩しいくらい太陽の光を浴びた大聖堂のステンドグラスが大聖堂の床に美しく色とりどりに映し出されて参列者のお顔にも降り注いでおりました。

数時間にも及ぶ長いミサが終わったのち、ウィリアム様たちはお城に戻られてお茶の時間を楽しんでおられました。

執事長のセバスチャンやばあやが甲斐甲斐しくお茶の準備のため動き回っております。

少しシックなお衣裳のウィリアム様とシャルット様は、お二人とも長時間のミサで疲れたのか少しぐったりとした様子でソファーに座っておりました。


「陛下…今日のお茶はジャスミンティーでご用意しております。どうぞお疲れが残りませんよう…」

「ありがとうセバスチャン」

「それでは…どうぞお召し上がりください」


お二人の前には高級感ある香りの漂うジャスミンティーと、そしてパティシエたちが心を込めて作ったたくさんのスイーツがアフタヌーンティーとして所狭しと並んでおります。まるで宝石箱のようにカラフルで輝いているスイーツに、シャルロット様の瞳はキラキラと輝きだし一気にテンションが上がっておりました。


「美味しそう!いただきます❤」


シャルロット様は早速スコーンを2つ取られて、クロステッドクリームとイチゴジャムをたっぷりつけるとリスのようにパクッとスコーンにかぶりつきました。そして美味しい~っと言わんばかりに目を細めてうっとりとされております。

ウィリアム様はそんなシャルロット様を見て微笑まれると、ご自身もスコーンをまず取られてシャルロット様と同じくクロステッドクリームとイチゴジャムをたっぷりと塗りたくって一口召し上がられました。


「うわ…よくそんな甘ったるくして食べられますね。さすが兄妹…」

「美味しいぞ?お前も食べてみたらどうだ?」

「絶対遠慮しておきます」


ヴィンセントはウィリアム様の背後から身を乗り出してソファーの縁に手をついて覗き込みます。ウィリアム様はスコーンをヴィンセントの顔の近くに持って行って勧めますが、ヴィンセントは怪訝そうな顔で甘ーい香りを放つスコーンを見つめて思いっきり拒絶の態度をとっておりました。


「はぁ…疲れも吹っ飛ぶくらいの美味しさよね」

「よく言いますよ。ミサの最中寝てたでしょう、姫様」

「ねっ寝てなんかいないわよ!あれは真剣に司教様のお話を聞いていただけよ!」

「え?めっちゃくちゃ頭船漕いでいましたよ?」

「うっ!」

「まったく…まさに馬の耳に念仏ですね」

「何よそれ」

「東の国のことわざです。またの言い方は豚に真珠」

「誰が豚よ!」

「そんな甘いもんばっかり食べていたらそのうち豚になりますよ。ですがきっと残念ながら…付くところには付かずに…」


ヴィンセントはシャルロット様の頭からつま先までジッと見つめ、ハッと息を吐いて小馬鹿にしたように笑いました。シャルロット様はそんなヴィンセントの挑発に乗りプンスカとお怒りになっております。


「んもぅっ!ヴィーったらレディーに失礼よ!!」

「こらこら二人とも落ち着いて」


ヒートアップしていくシャルロット様とヴィンセントの子供のような言い合いにウィリアム様はなだめる様にストップをかけて二人を諌めました。


「そういえば、ルドルの泉の水はいつ届きそうだ?」

「そろそろ届くころかと。見てきます」


シャルロット様は手をグーにして拳を握りヴィンセントに飛びつこうとしていたのをウィリアム様に抑えられてぐぬぬ…とばかりに蠢き、頬を膨らませてジッとヴィンセントを睨むかのように見ておりました。しかしそんなのはどこ吹く風とばかりにヴィンセントは何事も無かったかのようにスッとお辞儀をすると、足早に部屋を出て行きました。


「んもぅ!ヴィーなんか大っ嫌いっ!!」

「まぁまぁ…ヴィーの口の悪さはいつものことだから。それにしてもなんだか本物の兄弟喧嘩みたいで面白いなぁお前たちは」

「私は面白くないわ!んもぅ!いつかヴィーをぎゃふんと言わせてやるんだから!」


そう鼻息荒くシャルロット様は息巻いておりましたが、ばあやがまぁまぁ落ち着いて…とシャルロット様のお口にクロステッドクリームと今度はママレードのジャムをたっぷりと塗りたくったスコーンを放り込むと、シャルロット様は全体的につり上がったお顔から一転目尻も眉も垂れ下がり、口角だけ上げて幸せそうな表情でスコーンをモグモグ食べ始めました。


「美味しい~❤」

「それはよかった」


ウィリアム様はそんなシャルロット様をご覧になってにっこりと微笑まれると、紅茶を口に運びました。


「あら?そう言えばセシルは?」

「あぁ…セシルでしたら今日は新人のメイドにつきっきりで指導しておりますよ」

「そうなの?」

「えぇ。ここの所、政務官室近くの書庫の本が良く移動していることが多くて…。調べたところ、書庫によく猫が出入りしておりましてねぇ…棚の上に上るときに本やファイルを落としてしまうんですが、書庫担当の新人メイドが棚に直すときよく間違えるんですよ。ですからセシルが今きっちりと指導しているところです」

「ふーん…」

書庫(あそこ)には大事な書類もあるしなぁ。いくら猫だからと言え簡単に入り込めるのはやはりよくないな…」

「でも猫にとっては良い休憩場所だったんじゃない?」

「まぁそうだろうな。基本的に人の出入りが少なくて静かだろうからな」

「猫くらいいいじゃない。このお城は森とも一部繋がっていてお庭にはよくタヌキとかキツネとか野兎だって自由に出入りしているじゃない」

「まぁヴィンセントと相談してみよう。アイツのことだ、このことを知ったら頑丈な鍵でも用意しそうだな」

「10個くらい付けそうね」

「そうだな」


ウィリアム様とシャルロット様はプッと吹き出してそのまま豪快に笑い出し始めました。執事長のセバスチャンはスッと瞳を伏せて直立不動で控えておりましたが、口元には笑みがこぼれております。ばあやはと言いますと、お二人につられて笑っておりました。

お城のティーサロンからは楽しそうなお声が溢れており、今日も平和に時が流れております。


・・・・・・・・


 「…っつくしょい!」


廊下を早足で歩いていたヴィンセントは突然くしゃみをかましました。近くで掃除をしていた使用人たちはヴィンセントがくしゃみをするのが珍しく、驚いた表情でヴィンセントを見つめます。


「失礼、作業の邪魔をしたな」


ポケットからハンカチを取出し鼻を拭くと、ヴィンセントは何もしていませんよと言わんばかりの涼しげな顔で足早に廊下を進んでいきます。


「…風邪か?いやいや、そんなことは無い。それとも誰か私の事を噂でもしているのでしょうか…?」


ぶつくさと独り言を言いながらズンズン歩いて行き、お城に搬入される荷物が届く裏口の方へとヴィンセントはやって来ました。そこには大きな荷台の上に大きな樽が10個ほど置かれておりました。


「バルト、届きましたか?」

「あ、はい!今しがた届いたところです」

「ではそれを兵士たちに中に運んでもらってください」


筋肉隆々の屈強な身体の兵士たちが数人で大きな樽を担いでお城の中へと運んでいきます。ヴィンセントはその様子を見守っておりましたが、バルトは腕を組んでちょっと胡散臭いと言った表情でした。


「しかし、本当に効くんですかねぇ~」

「はい?」

「いや、幽霊にですよ!幽霊なんか本当に居るんですかねぇ?」

「…信じるか信じないかはまぁ自由ですがね。念には念をです」

「え、ヴィンセント様は信じるんですか?絶対信じなさそうなのに…」

「…」

「昨日なんですけどね、俺はちょっと他の仕事があったから行けなかったんですが同僚(アンリとグレブ)たちが少し早く仕事が終わったから街の酒屋に行ってたんですよ。久々だったんであいつらまぁ…結構飲んでいたみたいで、そこで意気投合したどこぞのブルジョワの人たちと最近交霊会?ってのが流行っているからやろうぜ~って酒の勢いでやってみたらしいんですよ」

「…ほぅ」

ヴィンセントが切れ長の流し目で、馬鹿にしたように笑いながら話すバルトをチラッと見ました。その氷のように冷たい空気の様子に全く気が付かないバルトはそのまま話を続けております。


・・・・・・・・

 

 少し時間が戻り、昨晩のことです。

ローザタニアの王都・パラディスの城下街のとある酒屋では、日頃のうっぷんを晴らすかのようにバルトの政務秘書官の同僚であるアンリとグレブと、まるで水を飲むかのような勢いで豪快に酒を飲んでおりました。時計の針はまだ8時だというのに二人はそうとうな量を飲んでいるようです。


「…ったくさぁ~本ッ当に!あの人は人使いが荒いよなぁ~っ!!」

「ホントだぜっ!この間会議の報告書持って行ったらさぁ~…まず報告書の書き出しからネチネチ嫌味言われたし…もうあの時間ホンット胃に穴開くぜ…」

「俺なんかさぁ机が汚い、整理整頓が出来ていないってののしられたぜ。あの時机が荒れていたのは、ヴィンセント(女王)様に渡す資料を作りために色々溢れていただけなのによぉ~!」

「俺もこの前…腹が出て来たって怒られた…」

「そう言えば俺も…襟足伸びすぎだって…。あと髭の剃り残しとかネチネチ言われたぜ…。誰のせいで家に帰るのが遅くなっていると思ってんだっ!!家に帰ったらもう午前様で、気絶するかのようにベッドにバタンキューで倒れ込んで気が付いたらもう朝!毎日毎日そんなんの繰り返しばっかりで…見た目のこととか気にしていられるか!」

「だよな!聞いてくれよ~、俺最近いい感じの女の子居たんだけどさぁ…忙しすぎて全然デートとかできなくてやっと久しぶりに会おうと思って家に行ったら…もう他の男とよろしくやっててさぁ…。問い詰めたら全然構ってくれない男なんか嫌っ!寂しいから我慢できなかった!って…。くそぅ…」

「グレブ…」


グレブと呼ばれた長身の男は思いっきり肩を落として背を丸くし、この世の終わりかと思うくらいの表情でしくしくと泣き始めました。かと思うといきなりテーブルに拳を叩きつけ、思いっきり顔を上げてフンッと大きな息を鼻から吐きました。その顔は明らかに真っ赤で目は虚ろで座っており、完全に酔っぱらっております。


ヴィンセント(女王)様のせいで俺たちの人生めちゃめちゃだぜっ!くそうッ!!今日はとことん飲み明かしてやるっ!!!」

「そうだそうだ~!!」

二人はグラスを高らかに持つと、乾杯~っと声高らかに音頭を取って一気にお酒を飲み干しました。

「ふぅ~…沁みるねぇ」

「命の水だぜっ!!」


と二人が完全に酔っぱらってフワフワした気分になっている頃、他のテーブルの男たちもたいそう盛り上がって大量の酒を飲み散らかしておりました。

趣味の悪いギラギラした装飾が施されたジャケットを着た明らかに成金と言った感じの二人の男たちが、若い女性を数人侍らせてこちらも浴びるように酒を飲んでおります。


「そこの御仁方!何やら相当溜まっている様子ですなぁ!!よろしければ私たちと一緒に飲みませんか!?」

「え~、良いんですかぁ?じゃあお言葉に甘えて…一緒に飲みましょう!!」


完全に酔っぱらっているグレブは、女の子の方目掛けて千鳥足でその集団に合流しました。アンリも手招きしている女の子たちの方へ鼻の下を伸ばしながら近づいて行きます。


「いやぁ~こんなにかわいい子たちと一緒に飲んでいらっしゃるなんて!旦那良いですねぇ~!!」

「なぁに!お金は正義!金があれば女たちも寄ってくる!そのうち爵位も金で買えるようになりますよ!はっはっはっ!!」

「あぁ…俺も金持ちになりたいっ!いつまでも誰かの下でこき使われるなんて嫌だっ!!」

「先程から聞こえてきてはいたんですが…貴方方、相当上司からひどい扱いを受けていらっしゃるようですね…」

「えっ!聞こえておりましたかっ!?」

「えぇ、よーーーーーーーーーーーーく聞こえておりました。心中お察し申し上げます。さぁさぁ…そんな事忘れるくらいパーッと飲み明かしましょうっ!!」

「ありがとうございますぅ~!!」


グレブとアンリ、それに成金男二人と女の子たちはまたグラスを重ねて乾杯し、一気にお酒を流し込むと皆で何もないのに笑い出してそれはそれは楽しそうにしております。


「そう言えば…最近貴族やブルジョワ階級(我々)の間で『交霊会』と言うのが流行っておりましてなぁ。今からそれをやろうと思って景気づけに飲みに来たんですが…どうです、もしよろしければ貴方方も参加されませんか?」

「『交霊会』~?なんですかそれぇ~!」


成金男の一人がそう言い出すと、グレブは爆笑しながら聞き返しました。全員いい感じで酔っぱらっているのでもう何が起きても笑い続けてご機嫌になっております。


「文字通り幽霊を降ろす…呼び出すんですよ!そしてその貴方方の上司の方をちょっとビビらしてもらいましょう!!」

「良いっすねぇ~それ!!是非ぜひ!!やりましょうっ!!」

「では今から私の屋敷に参りましょう~!がははははっ!!!!」


そして皆肩を組んで酒屋を出て、成金男の屋敷へとフラフラした千鳥足で向かって行きました。


・・・・・・・・

 

 「…―――で、今朝アイツらに交霊会の感想聞いてみたんですよ。酔っぱらっててあんまり覚えていないらしいんですけど、まぁ特にいわゆる心霊現象ってやつですか?そんなんは何も起きなかったんですって。やっぱり幽霊なんて居ないんですよねぇ~っ!!」

「へぇ~…そうなんですか…ふーん…」


ははは~と陽気に笑うバルトの横で、ゴゴゴゴゴ…と静かに怒りがたぎっているヴィンセントが氷の様な冷たさのトーンで返事をしました。

その時やっとバルトは蛇に睨まれたカエルのような状態であることに気が付きました。


「…えっと…ヴィンセント…さま…その…もしかして…」

「バルト…グレブとアンリはどこに?」

「そう言えば…今日皆さん大聖堂に行かれてました…っけ…」

「バルト」

「…もしかしてのもしかして…」

「言いなさい」

「…二人とも今日は二日酔いで死んでおります…なので…きっと中庭でサボっているかと…」

「…とどめを刺し行きましょう」


氷のように冷たい微笑みを浮かべたあと、サディスティックな表情に一変したヴィンセントはマントを翻してその場を足早に後にしました。

バルトは恐怖の余りヘタッとその場に座り込みました。そして今からヴィンセントに確実に言葉攻めで殺されるであろう仲間たちを売ってしまったことをすまないと思い、涙しておりました…。


・・・・・・・・


 「…なぁグレブぅ…」

「なんだよアンリ…。俺まだ昨日の酒抜けてなくて気持ち悪ぃんだから話しかけんなよ…」


お城の奥の政務官秘書室の近くの中庭では、昨晩の深酒がお昼を過ぎてもまだ抜けないグレブとアンリがベンチに突っ伏したままちょっと仕事をしては休んで…といった具合にダラダラしておりました。


「俺だってまだ頭痛いんだよ…。結局昨日の交霊会ってさぁ…なんだったんだろうなぁ」

「さぁ?あんなもん…インチキだろ?女の子の一人が霊媒師とかって言ってたけどさぁ、結局お札買わせようとかしてきたし」

「だよなぁ。『影が…蛇みたいなのが来たっ!』ッとかって騒いでいたけど何も起こんなかったしなぁ」

「結局『交霊会』なんて貴族様たちの暇つぶしの娯楽なんだろうなぁ…。昨日のあいつらだって、あんなインチキみたいなこと言って金せしめとってんだろうよ」

「ケッ…やっぱ金持ちなんてクソくらえだわ」


政務秘書官室で忙しなく働く同僚たちを尻目に二人はベンチで項垂れてダラダラとした口調でダラダラと過ごしておりました。


「そう言えばさぁー、昨日の夜何かお城で騒動あったらしいぜ」

「は?何だそれ」

「なんか…メイドのメイリンちゃんが言ってたんだけど…何か夜にシャルロット様が大暴れしたとかなんとか…」

「え、いつものことじゃん」

「…だよな」

「あぁ。結局いつも通りの日常しか起こらねぇよなぁ」


二人はまだ気が付いておりませんでした、、絶対零度の怒りを抱いたヴィンセントが背後の垣根からそっと気配を殺して近づいてきていることを―――…。

そしてその後、お城中にアンリとグレブの悲鳴がこだましたのが聞こえたとか聞こえていないとか。


・・・・・・・・


 「ルドルの泉のお水飲んだら何だか身体がスッキリしたわ」

「そうですか!それはよかったです~」

「ばあやのお蔭ね。ありがとう」

「いえいえ~、滅相もございません!さぁ姫様、今日もお疲れでしょうから早くおやすみなさいな!」

「そうね。今日はお兄様もヴィーもご出張でいらっしゃらなくて暇だし…早い所寝るわ」

「では灯りを消しますよ。お休みなさいませ」

「おやすみなさい」


ばあやはそっとシャルロット様のお部屋の灯りを消しました。ベッドサイドには新しいランプが置かれ、その光と窓の外から降り注ぐ星々の煌めきだけがお部屋をぼんやりと照らしております。

お布団を肩までかけてシャルロット様は瞳を閉じました。しばらくするとシャルロット様は頭に霞がかかったような気配を感じてそのまま脱力をして眠りこけてしまいました。

普段はこうなると誰が何をしてもめったに起きることはありません。しかしシャルロット様は頬っぺたに何かペチペチとくすぐったいものが当たっているのを感じました。

そしてそのくすぐったいものがシャルロット様のお鼻をかすめると、シャルロット様は思わずくしゃみをして珍しく起きてしまいました。


「何っ?」


パッとシャルロット様が起き上がると、シャルロット様のお顔のすぐ傍にはお城に住み着いている猫が座っており、ゴロゴロと喉を鳴らしてシャルロット様に尻尾をペチペチと当てておりました。


「猫…」


ホッと安心したシャルロト様は猫を抱きかかえました。


「もしかして最近書庫を荒らしている猫ってあなたのことかしら?」


真っ黒な毛皮の猫はまるでシャルロット様の言葉が分かるかのようににゃーんと一声鳴くと、ペロッと舌を出してシャルロット様のお顔を舐めました。


「んもう…くすぐったいわ!…書庫じゃ身体も痛いでしょう?今日はこのベッドで一緒に寝ましょっか」


シャルロット様は猫をご自身の横に置いて、ゴロンっと寝っころがりました。


「おやすみ、猫さん」


そして大きな瞳を閉じられると、またもの凄い速さで眠りについてしまいました。

静かな夜の星明りが、シャルロット様と猫を照らします。お二人はスゥスゥと寝息を立ててふかふかのお布団に包まれながら眠っているのでした。


・・・・・・・・


 その日の晩、シャルロット様は夢の中で不思議な夢を見たそうです。

一緒に寝ていたはずの猫が黒曜石の様な美しい黒髪をたなびかせサファイヤのように青く輝く瞳の美しい青年となり、騎士のような格好をしてシャルロット様を迎えに来てお二人で夢の国幸せに暮らすというような、そんな夢を見たそうです。

そして朝目が覚めると、猫はもうどこかに行ってしまったみたいでベッドにはシャルロット様お一人しかおりませんでした。

シャルロット様はそんな話をセシルに話すと、セシルはプッと笑ってそんな子供っぽい夢の話を茶化したりしておりました。

今日もローザタニアのお城では、いつも通り何も変わらない平和な時間が流れているのでした―――…。

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