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ローザタニア王国物語 〜A FAIRY TALE〜  作者: 月城 美伶
運命の女 ~Femme fatale~

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第2章 運命の女 ~Femme fatale~ 第十話

 「まったく…汚い手でウチの姫様に触らないでほしいですねぇ」


爽やかな石鹸のような清廉な香りと共に真っ白なマントが翻り、絹糸のような銀髪がふわっとシャルロット様の前で揺れております。

制服の袖を汚れを落とすかのようにパッパッと払ってふぅ…と溜息をついてヴィンセントはそう呟くと、シャルロット様はニコッと微笑んで少し斜に構えて大きな瞳でヴィンセントを見上げました。


「…遅いわ、ヴィー」

「勝手に出歩く貴女を探すのに時間掛かるんですよ。っていうか私、貴女のお世話係じゃないんで本当にこれ以上余計な手間煩わせないでください」


眉間に深い皺を刻みながらヴィンセントは愚痴愚痴とまた一つ溜息をつき、シャルロット様の方に近づいて少し屈まれてお顔にそっと手を当てると、思いっきり頬っぺたを摘まんで引っ張りました。


「痛…っ!」

「痛くしているんだから当たり前でしょう。今の私の気持ちをこのお餅のようにプ二プニしている頬っぺたに込めていますから」

「んもぅ…っ!心配かけたのは謝るから!離して!!」

「ったく…帰ったらお説教です」

「え~っ!!」

「…って和んでいる場合ではありませんでした。ドミニク様、大丈夫ですか?」


シャルロット様の頬っぺたを思いっきりプ二プ二しつくしたヴィンセントは我に返ってパッとその手を離して、気が付いたらいつの間にか手下の男たちが一瞬でやられていたことを理解できずに呆気に取られて座り込んでいるドミニク様の方を振り返りました。


「えっと…あ、うん…まぁ何とか…痛っ!というか何が起こったの…?」

「大丈夫なら問題ないですね。なんてことは無いです。ただここに移動してくるまでに邪魔な人たちをちょっと痛めつけただけです。数は多かったけれどコイツら防御に関してめちゃ弱でしたからちょっと触れただけで倒れちゃいました」

「え?一瞬で??」

「はい。それが何か?」

「凄い…」


感心されたドミニク様がゆっくりと立ち上がろうとされた時、壁にめり込んでいたロバートも気が付いたのかゆっくりと動きだしました。


「くそ…っ!!」


そう小さく呟くとポケットに隠していたナイフを取り出してヴィンセントの方へと投げました。


「…危ないっ!!」


ジャックを介抱していたジャンヌがそう叫ぶとヴィンセントは一瞬よりも早い刹那のスピードで振り返ってシャルロット様を後ろに隠して守り、そして飛んできたナイフを指に挟んで止めて受け止めるとそのままロバートの顔をめがけて投げ返しました。


「…っ!」


顔を刺されると思ったジャンヌは目を瞑っておりましたがふと目を開けると、そこには頭のてっぺん擦れ擦れの壁にナイフがしっかり刺さっておりロバートは涙目になって震えていました。


「うーん…あと5ミリほどギリギリまで詰めれたら完璧だったのに…まだまだ練習が必要ですね」

「あ…あぶねぇじゃねぇか!」

「そんな危ないものを先に投げてきたのは貴方の方でしょう。だからお返ししたまでです」

「…っ!!も…もうすぐここには俺たちの仲間がやってくるんだ!それに…俺の上司にも連絡したからもうすぐマフィアの連中がここにやってくるぜ!そうすればおめぇなんかイチコロよぉっ!」

「うーん…それは穏やかではありませんねぇ。でもねぇ、もう先にマフィアの上層部と話を付けてあるんですよ。貴方を逮捕してもいいって。貴方仲間内で相当嫌われているみたいですねぇ。手放しですぐに承諾してくれましたよ」

「何だと…っ!?」

「貴方たちのグループはあまり派手なことをせず、暴力を振るわないことを美徳としているようですね。だから貴方のような存在はハッキリ言ってグループの邪魔なんですって」

「嘘だ…っ!!」

「まぁ私からすればマフィアなんて全員同じ穴の貉ですけど、ここは持ちつ持たれつつ…ってことで。だから援軍なんて来ないし、この周りにいたやつらは全員ぶちのめしましたし…貴方がオーナーをしているお店に居た奴…従業員も客もしょっ引きましたし、もう貴方終わりです」


ハッと馬鹿にしたようにヴィンセントは息を吐き捨てながらシニカルに微笑みました。ロバートはヨロヨロしながら立ち上がり、ヴィンセント目掛けて渾身の力で走って向かってきました。


「この…ッ!!」


ブンッと風を切ってロバートの拳はヴィンセントに殴り掛かってきましたが、ヴィンセントはスッとロバートの拳を余裕でかわして身体を逸らし、反発するバネを利用してロバートの顔を思いっきり蹴り飛ばしました。

再び壁にめり込んだロバートはそのまま静かにドシャッという音を立てて倒れてしまいました。


「…まったく、最後の行動パターンが馬鹿の一つ覚えみたいでしたねぇ。さぁて…そろそろ警察も来るころですし早いところずらかりましょうか」


ヴィンセントはふぅと溜息のように呼吸を整えるて後ろにいたシャルロット様の手を取りました。


「…この人は…一体…」

「ローザタニア最恐の国王補佐長官兼執務官長だよ…」


ジャンヌはジャックの介抱を終えてドミニク様の方にやってきてドミニク様のお顔を拭いたりとしておりましたが、涼しい顔で怖いことをのたまうヴィンセントに呆気に取られておりました。ドミニク様はははは…と笑いながらそう答えると、ジャンヌは声にならない声で驚いてパッとドミニク様の手を離されました。


「国王補佐長官兼執務官長…っ!!」

「さて…ジャンヌ殿、そしてそこのジャック殿…貴女方お2人にもたっぷりとお話をお聞きしたいんですよ。一度メルヴェイユのお屋敷までご同行お願いできますが?」

「…誰が行くかよそんなところっ!!」


ジャックがヴィンセントに向かって吠えるかのように叫びましたがジャンヌはそれを制止し、ゆっくりと頷いて真っ直ぐにヴィンセントを見つめておりました。


「では参りましょうか。あ…その前にちょっと失礼」


ヴィンセントはピット通信機のボタンを押して誰かに連絡を取り始めました。すぐに相手は出たのでしょうか、ヴィンセントは簡単に話すとまたすぐに通信機を切ってシャルロット様の手を取ってお店をあとにしました。


・・・・・・・・


 「はい…もう終わられたんですね。では私の出る幕は無いということで…承知いたしました」 

「あれ…もう終わったんですね。思っていたより早かったですねぇ」

「そうでしょう?ウチの国王補佐長官兼執務官長は最恐で最強ですから」

「貴方は暴れたりなかったのでは?セバスチャン殿」

「…そういう貴方の方こそ暴れたくてうずうずしていたのではないですか?リー殿…いや、劉黒豹(リュウ ヘイボォウ)殿」


ホテルの前に流れる川の上流に浮かんでいる一隻の大きな船の暗い甲板の上で、色白で長い黒髪を後ろで束ねて涼しげな眼もとをした一人の青年…昼間は『リー』と呼ばれて笑顔でゴンドラに乗って荷物を運んでいたあの青年が今は劉黒豹と呼ばれて、青い絹織の上等な詰襟の上着に黒いパンツという蒼龍国の民族衣装を着て立っておりました。そしてその横で燕尾服をピンッと着こなしたセバスチャンが並んで立っておりフッと横目で劉を見ながらカフスボタンに仕込んである通信機を切り、二人はしばし談笑しながら警察が詰めかけて大騒ぎになっている酒屋を遠くから見ておりました。


「あいにく私は暴力が嫌いなんですよ…。武術としての演武は美しくて好きなんですがね、ただの暴力はとてもドメスティックで美しくない。だから私は暴力をふるうことを禁止しているんです。それに人には言葉があります。話し合えば分かり合えるでしょう?私達みたいに」

「…そうですか」


劉は懐から葉巻を一本取りだすとシュッと火をつけて胸一杯に煙を吸い込みました。そして船を進ませ、酒屋の前をゆっくりと通り過ぎて行きます。


「えぇ…私は馬鹿が嫌いなんです。あの男…ロバートは本当に馬鹿で困りました。下男の振りして働いて見ていましたが…あの男は下品で知識も教養も何もなく、ただ暴力だけでこの辺りを支配していました。まぁ金集めは上手かったですが…美しくないんですよ、やり方が。私は嫌いです。なので内々で消してしまおうかと思っていた矢先の今回の話だったのでとても助かりましたよ。感謝しております」

「…では約束通り、ローザタニア国内での禁止薬物の取引はしばらくご遠慮願えますかな?」

「そうですね、しばらくは。ですが我々も生きて行かねばならないのでねぇ…ほとぼりが冷めたらまた始めさせてもらいますよ。平和な国と言われているローザタニアでもこの薬がなければ生きていけない人たちも居るんでね」

「…いづれ貴方方とは拳を交わす時がやって来るかも知れませんね」

「その時は美しくお願いしますよ、セバスチャン殿」

「いやはや…老人には厳しい話ですね」

「何を仰いますやら…ローザタニアで一番と噂の交渉人であり暗殺者であり…裏の世界のドンの貴方が」

「…私はただの執事ですよ」


劉はその一言を聞いてフフフ…っと笑うと、サッと合図をして船を降り場の近くへと進めていきました。セバスチャンはスッと劉に一礼をすると軽やかに船から降りてそのまま音もなく足早に闇の中へと消えていきました。


「…喰えない爺だな」


劉はそう呟くと、葉巻を大きく吸い煙を吐いて星空を仰ぎました。


「ローザタニア…花と光に満ちた美しい国…」


劉はまだ火の付いている葉巻を川に投げ捨てると、遠くなっていく酒屋の方を見つめていました。酒屋の近くの船乗り場では、何やら数人が船に乗り込もうとしているのがぼんやりと見えました。劉がじっくりと目を凝らしてみるとそれはシャルロット様たちで、小型の船に乗り込んで今にもその場を立ち去ろうとしているところでした。


「…シャルロット姫…か」


劉を乗せた船はボゥッと汽笛を鳴らすとゆっくりと川を下って行きます。劉は船の柵に寄りかかり、ずっと小さくなっていくシャルロット様を見つめていました。


「貴女とはまたどこかで逢えそうな気がしますよ…シャルロット姫…」


徐々に静かになっていく街を横目に劉は不敵な笑みをこぼすと、冷たくなった夜風に吹かれながらもう一度空を仰いでいたのでした。


・・・・・・・・


 「ドミニク様の様子はいかがでしたか、陛下」

「あぁ…幸いにも骨も折れていなかったしただの打撲の様だったみたいだ。安静にしていればすぐに回復されるそうだよ」

「そうですか。それはよかったですね。腕でも折れていたら大変でしたね」

「あぁ。叔父上には来年のシャルの生誕記念式典で作曲と指揮をしてもらわねばならないからな。叔父上の腕に何かあれば大問題だ」


長い一日の夜が明けてひばりが朝を告げにやって来るころです。

ドミニク様のお部屋からメルヴェイユ家の広間に戻ってこられたウィリアム様に、待機していたヴィンセントはお声を掛けられました。


「…なんじゃ?アイツはそんな大役を任されておったのか?アイツは趣味程度でしか曲を作っていないボンクラ息子じゃぞ?」

「ロベール様…ご存じありませんか?ドミニク様はこの国きっての著名な作曲家でございますよ?」

ヴィンセントが少し驚いたようにロベール公爵の問いかけに応えました。そのヴィンセントの反応によく分からず、ロベール公爵は少し眉をひそめて何じゃ何じゃと怪訝なお顔をされておりました。

「アイツが?いやぁ…まさか!アイツは全然仕事などしておらぬではないか!」

「実はドミニク様はペンネームをいくつもお持ちでして、たくさんお名前を変えて活動されております。実はあのオルガ大聖堂500周年記念式典の際の讃美歌や国立オペラ劇団で大喝采を受けたアレクサンドル大王の人生を描いたオペラ『雷鳴』等の楽曲制作など数多くされております」

「何じゃとっ!?」


ロベール公爵はこれまた目を大きく見開き、お口をポカーンと開けてたいそう驚かれております。

「ドミニク様はまだまだ修行の身と仰ってほとんど報酬など受け取られずにいらっしゃいます。まぁもしいただいたとしてもご寄附をされていたみたいですね。我々も何とか『ドミニク・ド・メルヴェイユ』殿として次のシャルロット姫様の生誕記念式典のために作曲いただきたいとご依頼をしておりました」

「初めて知ったわい…」

「叔父上には今まで私たちから作曲のお仕事をご依頼した際にお名前を出す許可をお願いしておりましたがなかなか首を縦に振ってはいただけずにおりました。ですが今回は可愛い姪っ子の為ならとやっと叔父上のお名前を出す事を承諾してくださいました」

「…アイツ…」

「お爺様に似て頑固な方です」

「…いやはや…やはりアイツはワシの息子じゃな…」

「えぇ」


ロベール公爵の顔はどこかホッとされたのか少し緩んでおり、目にはうっすらと涙のようなものが滲んでおりました。ですがすぐにパッと切り替えられて再びいつものように厳しいお顔付に戻られました。


「それにしても…本当に情けない息子じゃ!あんな女に手玉を取られそうになるなんて!!まだまだ修行が足りんわいっ!!」

「まぁまぁお爺様…神様のいたずらと申しますか運命と申しますか…こればっかりは仕方のないことです」

「ふんっ!で?ウィリアムよ…アイツの様子はどうじゃた?ふさぎ込んでなど居らんかったか?」

「ジャンヌの全てを知ってやはり驚いてはいらっしゃいましたが、思いのほか落ち着いていらっしゃいました」

「そうか…。しかし…運命とは残酷なモノじゃ。もしジャンヌの祖母が認知されていたのならこのようなことにはならなかったであろうに」

「まぁそうだとすればジャンヌ産まれていませんけどね」

「ぐぬぬ…まぁ確かにそうじゃが…」


ヴィンセントの容赦ないツッコミにロベール公爵はグッと縮み、ぐうの音も出ない様子でした。まぁまぁ…とウィリアム様は二人をなだめると、ふぅ…と溜息をついていろいろ考えながら口を開き始めました。


「結局は…ジャンヌは弱い人間で確固たる意志がなかったのが全ての始まりでしょう。頭は賢かったにしても、きちんと使えていなければ何も意味がありません」

「うむ…」

「同じく流されるにしても…賢明な判断が出来れば悪い方には流れないでしょう。立ち直れるポイントは彼女の人生の中にいくつかあったはずです。ですが彼女はそれをしなかった。ただただホレた男が喜ぶように微笑んで動いてきた…その結果です」

「そうじゃな…」

「狡賢くとまでは言いませんが賢明な判断が出来るようにならねば駄目ですね」

「うむ…。ウィリアム、ヴィンセントよ…シャルロットを頼むぞ」

「もちろんです」

「頼もしい限りじゃ…お前は強くて立派な男だ」


真っ直ぐに強い意志をお持ちのウィリアム様のお顔をご覧になり、ロベール公爵は祖父としてとても満足そうに微笑みました。ウィリアム様もフッと笑われて、お二人はそのまま少し笑い合われました。


「さてお爺様、我々も少し仮眠をさせていただいてもよろしいでしょうか。シャルロットも熟睡しておりましたし、しばらく動けないでしょうから。そして昼ごろには城に戻ろうと思います」

「構わんよ。客間はたくさん空いておるからな。好きな部屋を使え」

「ありがとうございます」

「…ウィリアムよ…巻き込んですまなかったな」


ロベール公爵はスッとお辞儀をして退出しようとしたウィリアム様を呼び止めて、声を掛けました。面目ないと言わんばかりの落ち込み様でしたが、そんなロベール公爵の姿を見てウィリアム様は優しく微笑まれて実直な瞳を向けました。


「何を仰いますか、お爺様。私たちは家族なんですから助け合うのは当たり前です」

「ウィル…」

「それでは少し…休まさせていただきます。失礼いたします」


スッと踵を返して、ウィリアム様は広間をあとにしました。

広間に残されたロベール公爵は窓から入ってくる朝日の柔らかい光をぼんやりと見つめておりました。


「…ワシは結局…ちゃんと息子のことを見てやれんかったんじゃな…。一緒に暮らしているのに、アイツの作曲の仕事のことなどちゃんと理解しておらんかったんじゃな。ただ毎日遊びでピアノを弾いて…バイオリンを掻き鳴らし…オペラを観に行くと言っても遊んでばっかりいるもんじゃと思って怒ってばっかりでアイツの…ドミニクの話など聞こうともせんかった。今回のこともアイツの話をちゃんと聞かんで怒ってばっかりおったワシへの…試練じゃったんだな」


ツーッとロベール公爵の頬に一筋の涙が流れました。公爵はその涙を拭うこともせず、ただずっと窓の外を見つめております。


「…思えばワシは…小さい時からいつも出来の悪いと決めつけてドミニクではなく優秀じゃった姉のマグリットばっかり可愛がっておったな。確かにドミニクは…アイツはどんくさくて運動も苦手で勉強も姉のマグリットと比べて出来が悪かった。ピアノのレッスンばっかり一日中ずっとしておって…男のくせに何をやっているんだと怒ってばかりおったな。そんなアイツが…実はローザタニアで偉大な作曲家になったとは…ワシは何も知らなかった。知ろうともしなかった…。すまなかったな…ドミニクよ…」

「その気持ちを素直にドミニク様にお話ししてはいかがですか、ロベール様」

「ヴィンセント!!」


窓辺で黄昏ていたロベール公爵の背後に、スッと静かにヴィンセントが立っておりました。

心臓が飛び出るくらいにワッと驚かれたロベール様はビタっと壁にくっ付くくらいの勢いで後ろに後ずさって呼吸荒くヴィンセントの方を睨みました。


「お主…まだここにおったのかっ!ウィルと一緒に出て行ったのではっ!?」

「私としたことが忘れ物をいたしまして…戻ってきてしまいました」

「…どこから聞いておったんじゃっ!?」

「『……ワシは結局…ちゃんと息子のことを見てやれんかったんじゃな…。一緒に暮らしているのに、アイツの作曲の仕事のことなどちゃんと理解しておらんかったんじゃな。ただ…』」

「最初っからではないかっ!!」

「部屋から出た後にすぐに気が付いたんですよ。で戻ってきたら…ロベール様はもうご自分の世界に入られておりましたので。そう、まるでピンスポットが当たっているかのような感じで。…何なんですか、メルヴェイユ家の方々はこうミュージカル調になる癖でもあるんですか?そう言えばマグリット妃もそんな時たまにありましたもんね。…と言うことはいずれ陛下や姫様もそうなるんでしょうか…。ま、どうでもいいことですね」


ポカーンと呆気に取られているロベール公爵そっちのけでヴィンセントはぶつくさと一人ツッコミをしておりました。そして広間のソファーに掛けていたウィリアム様のマントを取ってドアの方へと進んでいきました。


「…たまには素直になられることも必要ですよ、ロベール様」


くるっとお顔だけロベール公爵の方に向けて、悪戯っぽくヴィンセントは微笑むと、ロベール公爵はフンッと言わんばかりに腕を組んでヴィンセントに言い返します。


「ぐぬぬ…ひねくれ者のお主に言われとうないわい」

「その言葉、そっくりそのままお返しいたします」

「ふんっ!」

「…姫様のその気の強さと頑固者っぷりはロベール様譲りですね」

「当たり前じゃ!お主とて…その働きっぷりは名宰相と謳われたお主の亡き父君フェルナンド殿と一緒じゃ!」

「…ありがたきお言葉です。それでは…失礼いたします」


パタンッとドアを閉めて、ヴィンセントは広間をあとにしました。


「小僧め…いっちょ前に大人になりおって…!」


そして今度こそお一人になられたロベール公爵はヴィンセントとの会話に満足したように笑いながらフンッと一息大きく息を吐くと、大きく伸びをしてご自身も広間をあとにして自室へと戻って行かれました。


・・・・・・・・


 「ねぇ…叔父様は本当に大丈夫かしら…?」

「ん?そうだな…叔父上なら大丈夫だよ。だって私たちの叔父上だもの」

「なんですか、その根拠はないけれど一番説得力のある回答」


ペルージュから王都・パラディスに戻る道中、割とゆっくりとしたスピードで進む馬車に揺られながらシャルロット様は流れていく風景を窓から見つめて呟かれると、対面の席で同じく窓からの景色を眺めていらっしゃったウィリアム様はシャルロット様の手を握りながら明るく答えました。

そして相変わらずヴィンセントのツッコミが入ります。


「多少放心はされていたけれど…何だか思う所は叔父上にもあったのだろう」

「ジャンヌたちはこれからどうなるの?」

「…法を犯しているので裁きは必ず下されます。二人合わせて違法入国、公的文書偽造法、暴行、盗難、売春斡旋など…挙げればキリが無いです。それなりの刑罰にあるでしょうね」

「多少の情状酌量は入れれないこともないがな。犯罪は犯罪だ」

「…弟のアンリは?」

「彼も同じく違法入国と公的文書偽造の罪が問われる」

「病気のことは?このまま放っておくの?」

「そのことだが…アンリと家族の同意が得られれば我が国の医療発展のために研究として治療をしていきたいと思うんだが…」

「大臣たちが何というかですね。あの方々は頭硬いですからねぇ」

「あぁ。だが…何としてでも助けてやりたいがな」

「それが人情ってもんですね」

「お兄様!」


眉をひそめるほど心配していたシャルロット様のお顔がパァッと晴れ渡り、シャルロット様は喜びの余りウィリアム様に抱きつきました。おっと…と驚いたウィリアム様でしたが、しっかりとシャルロット様を抱きとめてられました。


「…しかし、ジャンヌとジャックのふたりはおそらく数十年は刑務所からは出られないだろうからな。あの家族はこれから先はいばらの道だろう…」

「これも先代のルテーリャのイヴァン様のせいよねっ!なかなか非道だわっ!」


ぷんすかと今度は怒り気味にコロコロと表情を変えられたシャルロット様はウィリアム様の首に回していたお手を緩めて、ウィリアム様のお顔と同じ高さになるようにしてウィリアム様のお膝の上に座られました。ウィリアム様もシャルロット様の腰に回していたお手を緩めてシャルロット様の身体を受け止めておりました。


「こらこら…他所には他所の事情があるんだ。…きっとあの一家はそういう運命だったんだよ」

「運命…」

「もしジャンヌの祖母が認知されていたとしたら、ジャンヌは産まれていないだろう?」

「確かに」

「すべては神のお導きだ。私がここにいるのも…お前がここにいるのも」

「お兄様…」

「さぁシャル…帰ったらお説教だ。まずはたっぷり話を聞こうではないか」


少ししんみりした空気を変えるかのように、ウィリアム様はそう言って悪戯っぽくシャルロット様のお顔を覗き込み、おでこをコツンとぶつけてシャルロット様の頬にキスをされました。


「!」

「本当に…勘弁してほしいですね。毎回言いますけれど、私は姫様のお世話係ではないですから。ちょっとは大人しくしていてください」


ずっと静かに話を聞いていたヴィンセントはわざとらしいくらいはぁ~っと大きな溜息をついてシャルロット様を呆れたように見つめております。そんなヴィンセントにカチンと来たのか、シャルロット様はウィリアム様の手を解かれて隣に座っているヴィンセントの方に寄ってきました。


「何よ!助けてって私頼んでないわ!」

「え、じゃあもう助けに行かなくてもいいんですか?」

「ヴィーに助けてもらわなくったって、私一人で何とか出来るわよ!!」

「『…遅いわ、ヴィー』って言って私を待っていたくせに」

「な…っ!」

「図星ですね」


ずばりと言い当てられてシャルロット様のお顔が赤く染まったのを見て、ヴィンセントはニヤッと意地悪な笑顔でフンッと笑いました。するとすぐにシャルロット様は悔しそうなお顔になりましたが、すぐにちょっと恥ずかしそうに困った顔をされて、ヴィンセントのお顔を手に取ってご自分の顔と向き合うようにがっちり固定してお顔を向き合わせました。


「…っ!そうよ、ヴィーが来てくれるの待っていたわ!だって…いつだってお兄様やヴィーは…私が困っている時やピンチの時に必ず助けに来てくれるヒーローなんですもの」

「…まぁいつまでも私たちが姫様を助けに来るとは思わないでくださいね。白馬の王子様なんて夢を見るよりもこれからのご時世、女性だって強くてたくましくないと生きていけませんから」

「…そうね」

「まぁだからと言って今からめっちゃ武闘派になられても困りますけどね」

「どっちなのよ!」

「頭を使って賢く立ち回れってことです」

「…」

「私が言いたいのは運命なんてクソくらえ、ってことです」

「?」


ヴィンセントの言っていることがよく分かっていないシャルロット様のお顔の周りには?マークがたくさん浮かんでおりました。ウィリアム様はそんなお2人の様子を優しく見守っておりましたがフッと微笑まれております。


「まぁ男を手玉に取るならもっと色々と頑張らないと、ってことです。今のままじゃあどこの国の王子もときめきませんよ」

「なっ!」

「フランツ王子とおままごとが精一杯ですかねぇ~」

「んもうっ!!ヴィー!!」

「さぁ…帰ったらまずはお説教を受けてその後ちゃんとしっかりお勉強して、そしてがっつりご飯食べてくださいね」

「~っ!やっぱりヴィーなんか嫌いだわっ!!」

「今日と言う今日は逃がしませんからね。わざわざ私の上に乗って掴りに来てくれたんですから。このままお城までがっつりホールドしておきますから」

「あっ!ちょっと…ヴィー!?」


シャルロット様がヴィンセントから逃げようと身を捩ったりして動こうとしましたが、ヴィンセントはどこからか取り出した布で一瞬でシャルロット様を簀巻きにしてしまいました。


「お兄様ぁ~助けて!」

「うーん…私もヴィンセントに同意だな。しばらくはちょっと厳しめに行くぞ」

「そんなぁ~!」

「シャルロットの教育をしっかり、とお爺様からも頼まれたんだ。すまんなシャル」


馬車の中にシャルロット様の声が響き渡りました。

ヴィンセントとウィリアム様は互いに顔を見合わせて笑い合っております。

今日もローザタニア王国には穏やかな昼下がりの時間が流れているのでしたーーー…。

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