七摘 逢真
ごく一般的な家に生まれ、ごく一般的な生を過ごした。
父は高校の頃からアメリカに単身赴任し、家にはいなかったが、まあ珍しい家族構造ではない。
変わったのは中学に入ったばかりの頃だ。
父の訃報が届いた。
数日後届いた父の遺体と僅かばかりの遺品。
赴任先の借家で金品目当ての強盗にあったと報された父の遺体には、確かに銃弾の痕があった。
部屋は荒らされ金目のものは全て盗られたらしい。
愛用していた時計も何もかも。
形見として残せそうなものは、子供の頃の逢真とまだ若い両親が写った写真が収められた写真立て。
「今時写真立てって・・・」
皮肉を呟きながらも、目から溢れるものを止めることは出来なかった。
父が他界してから母は忙しくなった。
逢真の学費を捻出しなければならないと、身を粉にして働いた。
母を楽にさせる為に、大学には行かず逢魔も働きにでたいと思ったが時は2030年も目の前という頃、時代は変わっていた。
単純作業はロボットが行い、コンビニなどの店舗はドローン配達により誰も外に出なくなったことで閉じていっている。
あらゆる業務が機械に取って代わられ、人の働く場所が減っていった。
ベーシックインカムの制度も小規模ながら導入されたが、日本の美点というべきか、働かざる者食うべからずの気風は全然消えていない。
働くと言うことは、将来機械を制御できる側の者であることを示すこと。
小遣い稼ぎ程度のアルバイト求人は溢れていたが、本当に社会で認められるためには学歴社会の階段を上ることが必須となった。
なまじ働かなくても生きていける時代で、働かなければ罪人のように見られる時勢が、皆に脅迫的に進学という進路を選ばせる。
母が少しずつやつれていく様を見ながら、その臑をかじり続けなければならない。
「親父・・・どうしてくれんだこれ・・・」
少しずつ精神をストレスに蝕まれ、帰っては仕事の鬱憤を逢魔に当たる母。
先ほど理不尽に引っぱたかれた頬を撫でながら、逢魔は今の棚に飾られた父の形見の写真立てを手に取った。
何の感情だったのだろうか。
視界が涙に歪む。
自身が情けなくて、元の場所に戻そうとした写真立ては、歪んだ視界のせいか角を棚にぶつけ、床に落ちた。
その衝撃で写真立ての留め金が外れた。
写真立てから落ちた写真とカード。
「これは・・・?」
アークレス・サタネウスの名が書かれたカードだった。
一流とは言えない大学に何とか入学し、アルバイトで生活しながら逢魔は少しずつアークレス・サタネウスとカードについて調べ始めた。
それが父の死に関係あったのではという直感的な考えが浮かんだからだ。
この時勢、情報とは隠せないものである。
インターネットと翻訳機能を駆使して、当時の事件を調べると思いの他様々なことが解って来た。
アークレス・サタネウスが真ガイア理論を発表した学者であり、起業家であること。
押し入り強盗は父以外も狙っており、被害者は全てある会社の社員であったと言うこと。
その会社NEWEXITはとある過去の事件で営業停止に追いやられたこと。
そしてイサギリ工業で起きた恐竜出現の映像が、アメリカでは第2のNEWEXIT事件のネタパクり扱いされていたこと。
「現実・・・だったのか?」
ならばこのカードの意味は?
逢真にそれを知る術はなかったが、それ故に彼はイサギリ工業へと就職を決めた。
入社後、逢真がそれを知ったのは直ぐだった。
随分と長い健康診断を受けた後、配属されたその場所で開かれたゲート。
その小さな扉が開いたとき、胸元のカードが反応し、脳に直接声が聞こえた。
『真王ノ権限ヲ承認シマシタ。以降監視者は貴方の指揮下に入ります』
◇◆◇◆◇
目を開ける。
過去を振り返ったのは何故か。
(結構未練があったのかね・・・元の世界・・・いや、過去の自分って奴に)
既に決別した過去の自分。
成り行きで捨てた名も、寧ろ都合が良いと割り切ったつもりでいた。
やつれゆく母を見ながら当初は母を心配した。
母が自分に当たるようになると自身を哀れんだ。
それでも母が頑張っているのは自分の為なのだと自分に言い聞かせ、母を追い詰めた世間を憎んだ。
とはいえ長い歴史を歩み、幾億兆の人が育んだ“世界を変える”などという夢物語は、語ることもアホらしい程に不可能だ。
立場も低い自身の様なものでは尚更だ。
だが、新しい世界で最高の立場ならば、それは簡単にできるのかも知れない。
憎しみが野望へ変わったのはいつだったか・・・。
新しき世界を自身の理想郷へ。
そして自身がその世界を支配する。
自身の感情を自覚しながらも手を止める気はなかった。
手を添えた左の胸の裏にあるポケットにはあのカードが入っている。
どうして父がこれを持っていたのか知る術はなかったが、今となってはどうでも良かった。
もはや逢真にとって、これだけが自身のアイデンティティだ。
「ふむ、魔獣使いの少年は討たれたのかな?」
自身の命令を聞くようにハムに支配させた変異した魔人サヘラントロプス。
サウスラファの地で彼等は先程まで従順に従っていたはずの主たる逢真に牙を剥いた。
「困ったな・・・コイツはそこまで燃費が良いわけじゃないんだが・・・ま、問題ないけどね」
自身が焼け野原へと変えたサウスラファの領地で、漆黒の魔人達が襲わんと群がる中央にいながら、まるで恐怖もなく独りごちる。
「厄介なのは主任のアームローダー位だからな・・・アレを大魔龍で壊せれば完璧だったんだが、どうなったのかねぇ?まあ、燃料的に引き返せば結局はガラクタに変わるからどっちでも良いんだけど」
装甲に護られた車両の運転席で端末を操作し、魔人達を焼き払う。
「主任甘いよ?北は燃料使わせる為の囮だって気付かないなんて♪って、気付くわけないか」
クスクスと嗤いながら、望遠レンズを使って自身の攻略対象を手元のモニターに収める。
「逃げ場所があるから人は逃げる・・・この世界に生きられる場所がそこにしかなければ人は従うしかない。日本語しか話せない日本人が日本から離れられないのと一緒だよね~。ってそれはどうでもいいか」
モニターに映るのは皇国サウスラファの王城。
「トゥーリアはちゃんと北を潰せたかな?って、失敗するほど監視者は無能じゃないか・・・さて、じゃ俺も行こうか、3つめ」
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名前 = アークレス サタネウス
所属 = 日本
爵位 = 真王
天職 = 王
先天技能 = 威圧 誓約 法定 任命
後天技能 = 異世界語 神至
罪状 = なし
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