逝く者達
さて、ハム君が戻って来たのはいいとして。
生憎登山番組のように頂上で感動した後、下りをショートカット出来るわけではない。
一階では親父が頑張っていて、現在後ろでジャンヌが刀をぶん回している。
俺の手の中でハム君は気を失っている。
どーしよ?
我が愛馬もジャンヌの後ろでウロチョロと困っている。
親父と合流するのは当然として、力任せに突っ切るのはどうかと思うのです。
・・・あー、思いついちゃったよ。
やるの?やるの俺?
しゃーなし。
愛馬に跨がり覚悟を決める。
「ジャンヌ!!飛び降りるぞ!!」
さっき壁に激突したドラゴンが下で良い感じで寝てるんですよ。
おかげで高さ的にギリギリ問題なさそうな?
というわけで馬ごとジャンプ。
「こっわ・・・」
無事に着地できて何より。
ハム君が「グエッ」って言った気がするけど多分気のせい。
ジャンヌが着いて来たのを確認してドラゴンを格納。
これで黒い人達が追いかけてきても地面にメキャリといくだけでござる。
「正門に向うぞ!!」
親父が1階で奮戦している筈なので、正門から声をかければアームローダーで抜けてこれるという計算。
そのままひとまずトンズラだぜベイベー。
後の事は聖国の人達に任せる感じで、うん完璧。
とか考えながら正門に辿り着いたんだけど、なかなかの地獄絵図。
どこぞのボクシング漫画の主人公の如く、左右のアームを振り子運動させ、黒く変色した兵士達をなぎ倒すアームローダー。
一応グレネードの使用は思いとどまったらしい。
「親父!!」
こっちに気付いた変色兵士の足を銃で迎撃しつつ、大声で呼びかければ、腕とか脚とか変な方向に曲がった兵士が周囲に散らばるその中央で親父が気楽に返事すを返す。
「愛詩か!?」
めっちゃ平気そう。
そして若干楽しそう。
「目的は達した!!一旦バックれよう!!」
「了解だ!!」
容赦なくアクセルを踏み抜いたであろうエンジン音。
変色兵士をはね飛ばしながら向ってくる親父に先んじて逃走を開始する。
ひとまず元来た道を戻る。
問題は・・・
『ヒウゥッ、ヒウゥッ、ヒウゥッ』
馬の体力。
エオヒップスと呼ばれる最高品種であるわが愛馬も流石に限界をむかえている。
とはいえ、駆け抜ける以外の道がない。
来たときに襲ってきた兵士達が変色してまた襲って来るはずだから。
愛馬に申し訳なく思いつつも、全力疾走を命じる。
バイアリータークはよく走ったと言うべきだろう。
来た道をひたすら走り続けること半日。
バイアリータークの足取りは重さを増し、そして止まってしまった。
「マナ」
「流石に馬が限界だ。そっちは?」
静かに横に首を振るジャンヌ。
ここまで走り抜けたおかげで、変色兵士共は一応振り切ったもののこのままいれば直ぐに追いつかれる。
前方にもまだいるだろうし。
機動性を上げるためアームローダーのトラックベッドは置いてきているから乗って帰るわけにも行かない。
馬を捨てる?
無理。
今や大事な我が家の一員だ。
「どうする、愛詩?」
だからとて馬のために死んでやる気は微塵もない。
で見捨てる気も起きないんだから・・・消去法で残る手段は敵を倒すしかないわけで。
前回の聖国出張で取得した恐竜の屍で、銃弾も素材も限界までチャージして来たが、格納技能のMax99個の制限が辛い。
解体できずに格納した死体の方が多い。
だが前方からも後方からも、容赦なく変色兵士の群れは向ってきている。
つまり弾丸が足りない。
「親父、覚悟を決めるぞ!!」
右手に花火の弾丸を出現させ、つつアームローダーを見る。
親父も理解したらしい。
アームローダーは右手を構えた。
「俺の投石機は連射性能が悪い。ひとまず後ろの道を焼く」
「解った。俺は前から来る奴らを迎撃する」
結局こうなるのか・・・。
決めた覚悟は、殺人の覚悟。
生憎俺の花火に峰打ちはねえ。
少し泣きそうになりながら投石機を出現させる。
セット完了。
目をこらせばちらちらと変色兵士の姿が見えている。
このまま花火を発射すれば確実巻き込むが、もうそうは言ってられない。
心の中で懺悔しつつ、王都への道を燃やすため、発射のレバーに手をかけた瞬間、空中から放たれた業火が俺の前を焼いた。
「へ?」
間抜けな声を上げる俺の前に、炎をばらまいた本人が着地する。
「取り返したみたいだな」
ラスボス君だ。
躊躇なく放火魔の所行をやってのけた空飛ぶビックリ人間は、ハム君を見ながらそう言った。
「今アンタ等の仲間とやらが向っている。東の聖剣士と兵士が合流し、聖剣士3人でこっちに向っている・・・聖王も、な。」
いわれて見れば騎馬の姿がチラホラ。
馬車の姿も見えるから、多分あの中に聖王の爺さんはいるんだろう。
「親父・・・武器をしまってくれ」
「おう」
少し残念そうに聞こえなくもない親父の返事を気のせいと割り切りながら、助かったと心の中で安堵する。
「そういえばあの蛇目はどうしたんだ?」
「・・・逃げられた」
なるほど。
責めたりしないよ。
決め手がなかったんだから、そもそも倒しようがなかったわけだし。
「大魔龍は討伐しましたよ」
北と南の連合隊と合流し、聖王シモンにそう報告する。
「大義であった・・・余はどう感謝すべきか・・・」
馬車から降りて涙ながらに俺の手を握る聖王の爺さん。
「とはいえ、王都にはまだ危ない連中がたくさんいるようでして」
「サヘラントロプスか。来るときに出会っておる。奴等ならばカタリナを始めとする兵士達で十分対応可能故、心配せずにゆっくりと休まれよ。後日改めて礼をさせて貰おう」
「お気にせずに・・・と言いたいところですが、我々もミカエスト王国からの依頼で来ておりますれば、話はそちらの方に」
「うむ、解っておる。だが余は個人的にも・・・」
一瞬のことだった。
聖王はあらん限りの力で、手に取っていた俺の手を横にぶん回し、その身を俺の背中の方へと投げ出した。
そしてその身体は、黒い槍に貫かれていて・・・
「御父様!?」
カタリナ王女の悲鳴が聞こえた。
視界を覆う聖王の身体が傾ぎ、その先に見えるあの瞳。
全身を影で覆ったそいつの狙いは俺。
「させるかっ!!」
「チィッ!!」
第2の槍を放たんと構えを取るも、その前に繰り出されたラスボス君の爪攻撃を防ぐため、槍を解除し、盾に変形させる。
「ジャキン!!」と頭の中でレジのような音が鳴る。
技能が発動した音だ。
この音を久々にこんなに意識して聞いた気がする。
手が自然に動く。
ライフルに銃弾を装填し構えるまでの動作が自分でぞっとする程になめらかだ。
精神異常耐性が100%完璧な仕事をやってのけた。
放たれた青き炎の光線が蛇目女の眉間を貫くその瞬間まで。
「ロ・・・ビ・・・きさ・・・」
初めて俺が命を奪った人間。
彼女の断末魔の声は、怨嗟に塗れていて・・・
「御父様!!」
カタリナの叫びに我に返る。
俺の足下で横たわる聖王。
黒い槍は聖王の心臓を貫いていた。
「ああ・・・ヘリ・・・ワ・・・ド」
俺に向って伸ばした聖王の手は、直ぐにそのまま力を失い、落ちた。
逝く間際に自ら手をかけた者の名を口にする心境が如何なるものか、本人ならぬ俺には解りはしない。
だが、泣き叫ぶカタリナ王女に抱かれたその死に顔は、何故かとても穏やかに見えた。




