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大魔竜

魔峰セントルシフの地下深く。


それは殻を突き破り、この世の大地に足をつけた。


背に翼を持ち、強靱な後ろ足で大地を踏みしめ、前足には鋭い爪を輝かせる。


同じく鋭い牙を長い口から覗かせ、人のように2足で立つ、黒い鱗で覆われた凶悪な姿。


それは正にドラゴンだった。


神話に描かれる漆黒のドラゴン。


その黒竜を突如影が絡め取る。


『Grurrrrr』


「生まれたばかりだというのに、これほどですか」


影の正体は言わずもがなトゥーリアの技能だった。


帝国中枢を手玉にとる彼女の技能も黒竜を縛るには力不足らしい。


拘束を引きちぎらんと、暴れる黒竜はその挙動毎に身に纏う影を力ずくで破り捨てていく。


「オイタが過ぎますね」


ならばとトゥーリアは霧のような影で黒竜を包む。


「我が幻影に沈みなさい。大魔龍よ」


突如足下がおぼつかなくなったのか、黒竜はふらつきその身を横に倒した。


動きは緩慢になれど、しかし完全に抑えられたわけではない。


「ワタクシの技能でも意識を保ちますか・・・」


もし今トゥーリアが技能を解けば、すぐさま意識を取り戻すだろう。


しかし、ここにいたのはトゥーリアだけではなかった。


「ですが・・・ハム!!」


呼ばれた少年が近寄って行く。


食い潰してやろうというのか、顎を開きその力で影をちぎる。


ハムが無事なのは新たな影がその顎を封じたからだ。


安全とは言いがたい。


普通なら恐れ、逃げてもおかしくはない。


しかしハムはまるで臆することもなく黒竜に近づき、その額に手をかざした。


『Gruu、Grurrrrr!!』


もだえ苦しむように呻く黒竜。


『GAAAAAAAA!!!!』


全ての力を込め、尚、開けられた顎。


トゥーリアはその奥に、この場の全てを焼き尽くす灼熱の輝きを、目視した。


「いけない!!」


慌てて影を再度まとわりつかせ、首の角度をねじ曲げる。


『Gyuuuuuuu!!』


それでも僅かに開かれた顎から放たれた閃光は、大地に向って放たれた。


『Giyyyyy!!』


灼熱の息吹は黒竜の鼻面も焼き、苦悶の雄叫びを上げさせる。


そして、・・・静かに目を閉じた。


「ふぅ・・・やっと落ちたのですね」


ハムは応えない。


だがトゥーリアには分かった。


自ら受けたダメージによって苦悶するまだ赤子の黒竜。


僅かな痛みで赤ん坊が泣くように、黒竜は自身でつけた傷で、心折れたのだ。


そして、魔獣使いの元で屈服することが、如何に大魔竜であれど、何を意味するのか。


影を解きながら、ハムに命じる。


「ハム、命じなさい」


トゥーリアに言われるがまま、ハムはブツブツと黒竜に向って囁く。


すると黒竜はすっくと立ち上がり、ハムに向って頭を垂れた。


『Gruuuuuuu』


黒竜のうめきは、本来この世界の絶対者たる自身が、何者かに頭を下げさせられている苦悶のようにも聞こえた。


「これで全てが揃いました・・・我が主よ」


天を仰ぐトゥーリア。


そんな時に異変は起きた。


大地が鳴動を始めた。


魔峰セントルシフ。


その真下に撃ち込まれた大魔竜の灼熱の息吹は、魔峰を目覚めさせるに十分たりえたのだ。


大地の揺れは少しずつ大きくなる。


「これは・・・いけない!!ハム直ぐに飛ぶのです!!」


ハムに命じ、黒竜の背に乗ってその場を離脱する。


崩れゆく空洞。


吹き出すマグマ。


魔峰セントルシフが、その日巨大な火柱を轟かせた。


まるで世界の変革を全ての人類に知らせるように。






「危ないところでした」


大魔竜にのってマグマの進む先を眺め、そしてトゥーリアは息を呑んだ。


何というタイミングか。


それはトゥーリアにだけ知らされていた目印。


「主・・・様・・・」


その目印に向ってマグマは一直線に進んでいた。


「ハム!!彼処に向いなさい!!」


トゥーリアの指し示す先。


そこはイサギリ工業の野営地だった。


短いですが、キリが良いので。

次回は更新をお休みする予定です。

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